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10年前のこと クラリッサSide

  私は鳩から衝撃の告白を受けて、なんとか普通に振る舞うのに必死だった。10年前のカイル王子暗殺事件に自分が巻き込まれて亡くなっていたなんて、想像もしなかったのだ。

 


 カイル王子暗殺未遂事件?



 なぜ、私は大好きなカイル王子に知らせずに、自分だけが毒を飲んだのだろう。


 つまり、それだけ私はカイル王子のことが好きだったのだ。



 私はその事実を思い知って、今も好きだということに泣きたくなった。



 なぜ私はそこまでして彼を守ったのか。結局カイル王子が大好きだからだ。フラれてしまったと思って何年も経った後に、いざとなればそんな行動を取ってしまっている。

 


 情けないのか、愚かなのか。

 両方かもしれない。



 でも今度こそ、この思いは成就したい。


 できるなら、今度もカイル王子をお守りして、私の死を無駄にしないようにしたい。



 私はそう思った。



 午後は仕立て屋に着飾った令嬢たちが大勢やってきて、彼女たちの必死で、そして未来への夢に溢れた話を聞いていると、私の心は癒された。


 

 ご年配の婦人たちの来客もあり、私は得意なデザインを描きながら、話し相手になることで笑顔の絶えない午後になった。


 お菓子を出してお茶を飲んでもらいながら、ささっと描いたデザインを見てもらって、お客様の瞳がキラキラと少女のように輝く瞬間に立ち会えてが、とても嬉しかった。



 やはり着る服は人を幸せにする力があるのだ。


 父から引き継いだ縫製工場は、今どうなっているのだろう?



 ミシンを導入してスカート部分は大量生産が可能になったはずだ。ボディスの型紙を私が考えれば、仕立て屋に来れるほど裕福ではない中産階級の人々へも格安のファッションを楽しめるようにできるはずだ。



 私は仕立て屋で働いている午後中、自分が毒殺によって殺されたと言う事実を忘れていられた。



 きっと、だからこそ、仕事が好きなのだ。心配事から自分の心を解放して、本来の自分らしさを取り戻せるから。



 夕方になり、仕立て屋を閉めた。ジーンは鳩屋郵便局の最終便の発送に追われていたので、私も手伝った。記憶がない私に、ジーンは一つ一つ説明してくれたので、鳩たちが配達しやすいように手際よく私も進めることができた。



 ピープスは、私とジーンが一緒にいると、何くわぬ顔で知らんぷりしていた。鳩たちも動物の言葉が分からないエミリーとして、私を見ている雰囲気だった。



 私はほっとした。

 カイル王子を庇って母が死んだとは、ジーンに知られたくなかった。私だってまだ経緯が分からないのだから。



「エミリー、何か質問があるかしら?今日は仕立て屋のお客様はいつになく幸せそうな雰囲気でお店を出て行ってくれたわ。あなたのおかげよ。私の母のようにあなたもデザインができたなんて、感激しているのよ。今まで知らなくてごめんなさい」



 ジーンは最後に鳩屋郵便局を閉めながら、私に謝った。



「とんでもない、ジーン様。私はお店で働けて本当に幸せです。ところで、メイドたちのおしゃべりから聞いたのですが、お嬢様のお母様は縫製工場を幾つもお持ちだったとか。その工場は、今どうなっているのでしょうか。と言うのは、型紙に興味がありまして」



 ジーンは私の両手をパシッとつかんだ。



「ありがとう!エミリー!そうなの。私も今後の展開について悩んでいたのよ。大陸のお祖父様から受け継いだ縫製工場について、実はミシンを導入したのよ。でもうまくいかない部分があって、エミリーの意見を是非聞きたいわ。顧客層が中産階級の方々なの。私の仕立て屋は上流階級向けでしょう?私の仕立て屋とは違う販売戦略が必要なのよ」

 


 ジーンは私譲りの青い瞳を輝かせていた。



 そうか、この子も仕事が大好きなのね。


  

 私は嬉しかった。



「ジーン様、是非お手伝いさせていただきたいですわ。あの……私は縫製は……その思い出せていないのですが」


「そんなの構わないわ!私がまた教えてあげるわ。母に教わったのよ」

 


 私はその言葉に衝撃を受けた。


 クラリッサである自分は縫製はできない。ジーンに縫製を教えたのはクラリッサになったエミリーだ。過去の世界でエミリーが私になっているのだ。間違いない。

 

 今日ではなくて、近いうちに、母親が心臓麻痺で倒れた時のことをジーンに聞いてみよう。



 私がまずクラリッサとしてカイル王子暗殺事件を救って身代わりで死ぬ。その後、私は未来の成長した貧しいメイドのエミリーになり、エミリーは過去の世界でジーンの母親になる。そして、エミリーはジーンに縫製を教える。

 


 107年前にエミリーはクラリッサとしてどうして亡くなったのだろう?鳩のピープスに伝言したのはクラリッサである私だ。動物の言葉が分かるのはクラリッサである私だけなのだから。



 私はエミリーで塗り替えられたはずの過去を確かめる必要があるわ。 



「ありがとう、優しいお母様だったのですね」



 私はエミリーがジーンに縫製を教えてくれたことに少し感動して、胸がいっぱいだった。



「お母様のことをいつか話してくださいね。私はお会いしていませんし、倒れるより前の記憶が亡くなってしまったようなので」

 


 ジーンは私をギュッと抱きしめてくれた。私は娘に抱きしめられて泣きたいほど嬉しかった。


 私たちは腕を組んで、夕暮れのジーンハット子爵邸を歩いて屋敷に戻った。クラリッサとして歩き慣れた庭園だ。フランクは私たちに笑顔を向け、動物たちは私たち2人の間を会話しながら行き来していた。 



「あら、メロディとライよ」

 

 ジーンが嬉しそうに言う言葉を聞いて、私はハッとしてそちらを向いた。私の飼っていたダックスフンドだ!



 オスとメスで、私がいた時は子犬だった。



 まだ生きていてくれたのね! 


 


 私は嬉しくて嬉しくて笑い出してしまった。



「エミリー、メロディとライを覚えているかしら?お母様が子犬の頃にもらってぃたダックスフンドなのだけど、お母様が亡くなった後は、お父様が面倒を見ているのよ」



 あんな小さな子犬だったのに。

 こんなに立派な大人になって!


 いえ、おじいさん犬とおばあさん犬になっちゃったのね。



 私は正体を明かせないので、ニコニコして2匹がジーンに戯れる様子を見ていた。ジーンは訪ねてきたオークスドン子爵の姿を見て、そちらに駆け出して行った。



「また後でね!エミリー!」



 ジーンは後ろを振り返り、私に手を振ってくれたので私も振り返した。私はエミリーが遠ざかるのを見て、メロディとライに話しかけたのだ。



「メロディ、ライ、久しぶり」  



 私が話しかけると、2匹はビクッとして私を見つめた。 



「こんなに大きくなったのね!あなた達が無事でよかったわ」


「誰だい?もしかして……クラリッサなのかい?」



 メロディが私を見上げて言った。私は芝にしゃがみ込んで2匹の犬を優しく撫でた。



「そうよ。クラリッサよ。ちょっと前から、気づいたらエミリーになっていたのよ。あなたたちもしかして、15歳になったのかしら?」

「そうだよ」

 


 2匹は私の手を舐めた。嬉しそうだ。子犬だったのに、随分年寄りになったものだ。



「メロディ、ライ。聞いて欲しいことがあるの。私が死んだ日の事を覚えているかしら?私にはあなた達が子犬だった頃の記憶しかないのよ。あなた達が5歳の頃にクラリッサは死んだのでしょう?」


 私は2匹に聞いた。


「あぁ、覚えているよ、クラリッサ」

 


 ライがおじいちゃんの声で答えた。私は2人の目の前で唇を噛み締めた。



「クラリッサは、あの日、舞踏会に出かける予定だったんだ。カイル王子もみんな参加する例の舞踏会さ。社交シーズンが始まっていた」


「そうだね。ジーンお嬢様は9歳で、その日はお留守番の予定だった。クラリッサは昼間に出かけて、夜の舞踏会の準備をその後する予定だったが、戻ってきた時にはフラフラで、芝生で倒れたんだ」

 


「どこに出かけたのかしら?」



真相は知りたいですよねぇ。

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