きっかけは別人になったのに告白されたので
包容力のある男らしい男性が、私のそばで失恋を告白して泣いている。彼の泣く姿に思わず抱きしめたくなる。
蝋燭の明かりがロマンティックに煌めき、昼間だというのに、彼の周りにほのかな影ができて、涙と蝋燭の明かりで泣いている彼の瞳が輝いて見える。大粒の涙を溢れさせて声を殺して泣く彼の姿が、豪華な調度の家具が揃えられた部屋の中で、浮き上がる。
明け放たれた窓から爽やかな秋の風が吹き込み、美しく紅葉した庭の葉が、はらはらと舞っているのが見える。鳥がさえずり、美しいはずの窓からの景色に彼の涙の煌めきが重なり、切ない彼の表情と対照的だ。
この部屋には今、泣く彼と私しかいない。
ハンサムな彼は、多くの女性の目を引く。それなのに、彼はずっと一人の女性に恋焦がれていたと泣く。彼女を愛していたと泣く彼は、私が泣いているのに気づいていない。
彼が愛していたと言った女性は、かつての17歳の私だった。私はそのことに胸を打たれている。でも、そのことを明かせない。かつて、彼に私は振られたはずで、命を失うほどに落ち込んだ。そのことで失意のあまりに部屋に引きこもって毎日泣き明かした。
私は実は愛されていたのだと、今になって分かった。手遅れだと彼は泣くが、手遅れではない。本人である私が目の前で聞いているのだから。
かつて振られたはずの相手に、実は好きだったんだと愛を告白されている。
別人として私は彼の懺悔を聞いている。恋焦がれた女性の話を聞かされているが、秘密だが、それは私のことだ。
胸が震える。
私は実は愛されていたと知った時の衝撃と心のうちに広がる優しい温かい波に、私の目から涙が伝った。
「付き合ってもらえますか?」
彼に突然聞かれて戸惑った。
魂レベルで惹かれていると、誤解しても良いのでしょうか。
別人になったのに、告白されましたので…。
柔らかな唇が私の唇に落ちてきて、口づけをされた。
私は身分差の恋がこれほど苦しいとは知らなかった。この時はまだ。