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花嫁にしてやっても良い カイル王子Side

 処刑台の感触を忘れられない。

 あの冷たい雪の日のことが忘れられない。

 

 悲しさと虚しさと怖さが残っている。


 俺は無能な王子だ。間違えたという後悔が染みのように俺の心に張り付いている。


 しかし、今日は少し光が見えた気がした。


 前回の人生では、北の魔物の森の制圧には失敗していたのだ。結果的に王国の民の不満は王家に向いた。それなのに、今回は難なく素早く制圧できた。



 なぜか?

 エミリーが俺に教えてくれたからだ。


 

 あの17歳のクラリッサを彷彿させられるメイドのエミリーが偶然教えてくれた。



 一体誰が、こんな方法を思いつくんだ?

 赤い木の実が解決策だなんて。



 俺を含めて、力で抑えつけることしか考えられない者ばかりだ。



 俺にはエミリーが必要なのではないか。



 さっきコテージの庭先で、昔クラリッサと俺が行ったローデクシャーの森をエミリーがスケッチブックに描いていたことに心底驚いた。



 谷から見渡す黄色い花の野。

 永遠に俺の後悔の念と共に心に刻まれている。

 


 なんなんだ?

 なぜ、既に亡くなった、俺が失恋したクラリッサをこれほど彷彿させらるのか分からない。



 俺はクラリッサに長年会いたいと思っていた。二度ともう叶わぬ思いだ。


 

 クラリッサを思い出すたびに、ドキッとして心拍数が跳ね上がってしまう。エミリーに特別な恋愛感情を持ってしまう可能性について、俺は薄々自分で気づいている。



 だが、彼女の特別な秘密の力を知った今は、エミリーに恋してしまうのも仕方がないと思えた。



 どうしても、俺には彼女の力が必要だ。

 エミリーに俺のそばにいて欲しい。



 未来の王妃選びに失敗し続けている王子である俺が、街の仕立て屋のデザイナーと四六時中一緒にいると、俺の父である国王は良い顔をしないはずだ。


 彼女は若いメイドだから。


 だが、今日の出来事で彼女の存在が俺にとって必要なのは、国王にもよく理解できるだろう。


 王家に必要だ。


 誰がなんと言おうと、俺にはエミリーが必要だ。


 父である国王に彼女の能力を説明しなければならない。


 

 俺の立場としては、若いメイドを連れ歩くのは好ましくない。だが、同時に俺の立場としては、彼女の特殊な能力が必要だ。

 


 俺の個人的な想いは、恋だ。

 自分の胸のうちを自覚するのはあまりに恥ずかしい。


 こんな若い18歳のエミリーに38歳の俺が惹かれて良いはずがない。



 だが、彼女とそばにいると、楽しくてワクワクした。



 父である国王は、俺以上に事態が分かっているのかもしれない。



 「陛下、こちらが先ほどの北の魔物の森の制圧方法を教えてくれたエミリー嬢です」



 俺はここでグッと国王の方に近づき、小声でささやいた。



「今まで秘密にしていたとのことですが、彼女には動物たちと意思疎通ができる魔力があるようです。先ほどの解決方法も動物たちから教えてもらったそうです」



 国王は、エミリーの輝くような高揚した顔を見つめた。



「そなたは、力を今まで内緒にしていたということか?」



 エミリーは俯いて、しばらく考えたのちにキッパリと言った。



「はい、陛下。私はデザイナーになりたいのでございます。魔女や占い師にはなりたくありませんでしたので」



 エミリーの答えを聞いて、国王は目を見開いて一瞬驚いた顔をした。



「デザイナー?では、王子のそばにいてもらえるなろうか。表向きは王子の衣装デザイナーとして。そなたの力添えがどちらも必要だ。王子の衣装と、王子が国で起こるトラブルを解決するためにだ」



 俺は深く安堵した。



「これで、王子である私の国王承認デザイナーであると皆に触れ回っていいですね?」

「もちろん。カイル、そうしなさい。エミリー、そなたの力はこれまで通りに秘密にしておいた方が良い」



 俺はエミリーと一緒にいても良いと、国王からお墨付きをもらえたので、とても嬉しかった。



 やったぞ!



 クラリッサの時は貴族ではないと反論されたが、俺が引きずり過ぎて拗らせたのを父である国王はよく知っている。


 妃問題は、長年、うちの親子の深刻な悩みだったのだ。



 こうして、ジーン・ハット子爵家の若いメイド、エミリー・ノースは俺の公式な衣装デザイナーとなった。


 


 処刑されてしまった忘れ難い記憶の衝撃を緩和する方法を有する人物と、俺が恋焦がれたクラリッサの穴を埋めてくれる女性は、同一人物だった。



 こうして、エミリー・ノースは彗星の如く、俺の人生に救世主のように現れたのだ。



 エミリーにはどうしても言えない事がある。




 国王が小さな声で俺に耳打ちしたのだ。



「愛人としてでも彼女を伴侶にしなさい」

「父上っ!なんとひどいことを…!彼女は純情無垢な18歳の1人の女性です。軽々しくそんな事を口走ってはなりません」



 

 俺は猛反論した。



「お前がいまだに未経験なのは知っている。これは国王としての命令だ」



 鋭い声で国王は言った。

 断固とした表情だった。



 俺は輝くような瞳で、少し離れた所から俺たちを見つめるエミリーを見つめた。



「私は彼女を大事にしたい」

「尚更結構だ。世継ぎであるお前と相性が良いなら、魔物の森を制圧できる知恵のある女性と、魔力がある未来の孫が手に入ることになるのだ。王子の花嫁にしてやっても良い」



 俺はハッとして国王を見た。



 なんだって?


 

「彼女がクラリッサへの恋心を忘れさせてくれるのであれば、好都合だ。お前の未来に必要なことだ。国と王家の未来のためにも必要なことだ。ようやくお前が女性を嬉しそうに紹介したのだ。このチャンスを逃して欲しくない。クラリッサを逃したお前だ。今度こそこのチャンスを逃すな」



 エミリーに聞こえないように、国王は俺に早口で鋭い声で囁いた。



 俺は絶句した。

 処刑台へのカウントダウンを思い出した。


 どうやら、父である国王は俺以上に事態の深刻さを理解しているのかもしれない。



 それにしても愛人にだなんて……。

 あるまじきフレーズだ。

 だが、俺は真っ赤になった。


 嫌なことではなかったから。

 むしろ……。


 いや、だめだ。

 無邪気なエミリーが見ている前で、俺は何を考えているんだっ!


 しっかりしろ。


 クラリッサに失恋しただろ?

 そうだ、俺が最初に彼女の好意を断ったのだ。


 そのことを激しく後悔している。


 エミリーには間違いを犯したくない。

 素直に好意を伝える必要があるが、失敗もしたくない……。



  


さっすが国王!分かってらっしゃる!息子であるカイル王子のことも、王国の行末に必要な人材も。クラリッサは貴族でないからダメなんて20年前はおっしゃっていましたけどね…。こうでなくっちゃ。


カイル王子、処刑台へのカウントダウン、怖かったですねぇ。あなたの慎重さは買いますが、そろそろ本腰入れなきゃダメですっ!


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