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王子とのデートの準備 クラリッサSide(2)

 私は娘のジーンの娘婿であるオークスドン子爵の纏う不思議な落ち着いた雰囲気が、すっかり気に入っていた。彼は人の事をじっと静かに見つめて、色々見抜く力があるようだ。


 そして何より、彼はジーンにゾッコンで惚れているようだ。それは娘のジーンを密かに影から見守る私としては、胸を撫で下ろして、非常にほっとした事だった。



 私の娘ジーンは良いお方と縁組を結ぶことができたのだ。嬉しかった。



 相思相愛に見える2人だ。貴族社会では珍しく。妥協の名の元に持参金で結婚の成立を図る集団においては珍しい2人だ。



 ルーシャス自身が誇りの持てる仕事をしていて、花嫁であるジーンの仕事を尊重していることにも私は感動した。ジーンには、死んでしまった私から引き継がれた莫大な遺産が入っていた。


 ジーン自身はお金より、仕事でやりがいと喜びを求めるタイプであり、夫となるルーシャスもそのことを尊重しているようだ。



 ジーン、あなたは私の誇りよ。




 張り切ってメイドの仕事に精を出す私にとって、ジーンの幸せは何より励みになった。幼かった娘が、一人の女性として幸せを掴み取るのは、感慨深いものだ。



 そして、気を利かせたジーンは、カイル王子にお誘いを受けた日に着る私の服を見立ててくれた。ジーンは今は自分の挙式の準備より、私が王子の誘いに着ていく服に夢中になった。



「これは、エミリーが手伝って仕立ててくれたドレスよ。エミリーにあげるわ。母のデザイン画を元にあなたが仕立てを手伝ってくれたのよ」



 ジーンは3枚のドレスを惜しげもなく私にくれた。ジーンとエミリーの私では、サイズが違いすぎた。ただ、ジーンが私にくれたものは、いずれもウェストをぎゅっと絞らなくても良いドレスばかりだった。



 トレンドとしては、少し前に大流行したものだ。絹で仕立てられたハイ・ウェストタイプのドレスで、ふわりと落ちて曲線を描く優美な絹製宮廷用ドレスだが、長いトレーンはついておらず、身動きは取りやすい。内部の後ろ部分に曲線を描くためのパットが縫い付けてあったが、それを取るだけで、太めの私が着ても違和感がなくなった。



 赤の絹紋織。

 このデザインは、覚えているわ……。



 確かに、ジーンがまだ幼い頃に流行っていたドレスのデザインで、私はこの手のドレスのデザインをした記憶がある。色味が赤なのも私のデザイン通りだ。



 急いでエミリーである私の身長に合わせて、ドレス裾を少し短めに仕立て直した。マーシーもジーンも手伝ってくれた。



 ジーンの方がエミリーより背が高いために裾上げが必要だったのだ。



 ジーンは靴もハンドバックもくれた。靴はウールの平織りの布をベースに草花の刺繍があしらわれた靴で、メタルのバックルがついていた。ハンドバックはプリント地を使ったバッグで、使い勝手が良さそうだ。



 私たちは、仕立て屋と鳩郵便屋の仕事の合間に、またお店を閉めた後に、こういった私のドレス選びに夢中になった。皆でまるでお洒落に興じる女学生のように、楽しい時間を過ごした。



 ジーンを含めてマーシー、ジュディス、そして私の4人で、笑いながら、私がカイル王子の誘いに応じて出かけるためのファッションを決めるのを楽しんだ。



 結果として、フワフワと恋する乙女のようでありながら、ピリッと仕事モードにもなれ、宮廷衣装としても恥ずかしくないスタイルに決まった。



 学校を退学になったクラリッサであった私としては、こんな頼れる友達のような存在は今まで一人もいなかった。


 メイドのエミリーがこれほど皆に愛されていることが功を奏したのだ。女学生のように友達同士でファッションを楽しむ疑似体験ができて、私は楽しくて嬉しくて感謝しかなかった。



 前世では友人に恋人候補を寝取られたり、セクハラするおじさんにか「体で返せ」と迫られたり、人間関係は散々だったから。



 そうこうしているうちに、約束の明後日が今日になった。



 その日、おしゃれなドレスに着替えて特別なく靴を履き、ジーンにもらったハンドバックを持ってハット子爵邸の門の外でカイル王子の馬車を待っていた。


 朝のまだ早い時間で、私は緊張の面持ちで待っていた。



 空は秋晴れで青く澄み渡り、街路樹の紅葉した葉が明るく街を彩っていた。


 少し空気を冷たく感じたが、ゴージャスな刺繍が施されたガウンを羽織っていたから問題なかった。ガウンもジーンが私にくれたものだった。



「エミリー!」



 ドアが開いて馬車からカイル王子が降り立った。



 胸が高鳴った。

 陽光に煌めくブロンドの髪。

 神々しいまでの美しい顔。

 煌めく青い瞳。



 私の姿を見て目尻が優しく下がったカイル王子に、私は胸がいっぱいになった。



 カイル王子が素早く、かつ恭しく、私をエスコートして馬車に乗せてくれた。その瞬間、時が戻ったかのような錯覚を私は抱いてしまった。



 17歳のクラリッサと、18歳のメイドのエミリーの心のときめきが重なった瞬間だった。





カイル王子とエミリーの初デートです。

17歳と18歳から、20年後のデートとなります。


トキメキは17歳のままのクラリッサ側ですが、見た目め18歳ですし、お洒落して気合いの入ったドキドキのデート兼仕事の打ち合わせ。



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