第二話「巡視船に移動」
海上保安庁の航空基地がある中部国際空港を大勢のマスコミ関係者が占拠している。一般の利用者の円滑な移動を阻害させてなるものかと警察が厳戒態勢を敷いているが、世界各地からはるばるやってきた歴戦の取材陣に軽くあしらわれ、日本のマスコミにはもみくちゃにされてせっかくの誘導が機能していない。
一般の利用者やライバルを押しのけて、撮影のベストポジションに急ぐ日本のマスコミ関係者が空港内に溢れている。
「今、記者団が海上保安庁のヘリに乗り込みました。記者団はアメリカそして日本の主要メディアから選ばれた記者によって構成されています」
いち早くベストポジションにたどり着いたアナウンサーがカメラマンを急かして、中継を始める。海上保安庁のヘリに搭乗するヴィーシャ一行の姿がお茶の間に晒されてしまった。近衛と小鳥の顔を知っている自衛隊の同僚がお茶を吹き出しているとき、ヴィーシャ一行を乗せたヘリが巡視船に急行する。
血癒島から十キロメートル離れた海上に浮かぶ巡視船にヘリが着陸する。
「おはやい到着だな」
「米軍がなんのようだ?」
ヘリを出迎えたのは海上保安庁の職員ではなくアメリカ海軍特殊戦コマンドに所属するおっさんだった。
「急遽、俺たちも同行することになった。休暇がパーだよ」
「おまえの国はいつも土足で上がり込むよな」
ヴィーシャが不機嫌な顔をする。おっさんとは犬猿の仲のようだ。
「侵害だな。ちゃんと日本政府には報告済みだよ」
「報告と許可は別物だぞ」
「今回に限っては同義だ」
「はぁ。好きにしろ。ただし邪魔だけはするなよ」
「それはこっちのセリフだ」
「どういう意味かな?」
「ガキはガキらしく黙って俺たちについてこいってことだよ」
「面白い冗談だな」
「笑えるだろ?」
「ああ。作戦開始まで時間がある。親睦を兼ねてレクリエーションでもどうだ?」
「いいねぇ」
ヴィーシャとおっさんの不気味な笑い声が海風にさらわれる。ヴィーシャが言うレクリエーションはみんなでわいわいゲーム! ではなく模擬戦だ。