第二十話「血癒希乃」
「血癒希乃か?」
主席研究員の部屋のベットに希乃が座っていた。
「ええ。ぐば、ごほごほ」
ヘレナが希乃の頬を殴る。そして壁に激突し鼻血を拭っている希乃の腹部を蹴り上げた。
「気持ちは痛いほど分かるが、その辺にしておけ」
「氷室さん。対象を確保しました」
『最後まで気を抜かないでください』
「殺したいなら殺せばいい。その資格があるのだから」
希乃がヘレナを見据えて言う。希乃の瞳は真剣そのものだ。ヘレナはM360J SAKURAの撃鉄を起こし希乃に向けて構える。そして引き金を引く、カチという音が鳴るだけで弾は出ない。
「殺してくれたら楽に説明が出来たんだけど、ぐががぅぁ」
希乃がカチカチとカッターナイフの刃を露出させると自分の首にブスッと刺して横にスライドさせていく。血がドバドバと流れ落ちる。突然の奇行に近衛は唖然とする。
「頸動脈が切れて――ダメだ、治療は不可能っ!」
近衛がカッターナイフを奪い取り圧迫止血をしながら叫ぶ。希乃がカクンと力を失い動かなくなる。
「……」
希乃の傷口が塞がっていきそして生き返った。
「刺殺だけは何回死んでも慣れない」
「夏音が言っていたのはこれか」
「私は死なない。ウイルスが細胞を治すだから死ねない……取引をしたい」
「取引?」
「生き返るとはいっても痛みは感じる、もう殺され続けるのは嫌なの! 殺したいでしょ? 私も死にたい。お互いの利害は一致してる。特殊弾頭が金庫にあるそれを使えば私は死ぬ」
「取引を成立させたいが、無理だ。任務に忠実に従うのが仕事だからな」
「助けて……」
希乃が迷子の子供のようにヴィーシャの足を掴み、懇願する。
「すまない」