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血癒島  作者: 野良クリ
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第一話「作戦の概要」

 近衛と小鳥を乗せたワンボックスカーが古びたビル前に停車する。二人は氷室に案内されるがままビルに入った。三階建てのビル内には貸し会議室が四つありそのうちの一つを氷室が貸切っていた。会議室に入った二人をスーツ姿の少女らしき外国人が出迎える。


「短い間だが、君たちの上司をやることになったヴィクトーリヤだ。仲間からはヴィーシャと呼ばれている」

 ヴィーシャと名乗った外国人はどうやら契約兵(傭兵)らしい。子供がボスなの? と近衛と小鳥があっけにとられる。あっけと同時に不安も二人を襲った。どう見ても元特殊部隊員とは思えない。ちっこいしかわいいアニメ声だから迫力がないし小学生って言われた方がしっくりする外国人だ。近衛はドッキリを疑ったが、氷室の表情はまじだよと物語っていた。

「......」

「私の姿に戸惑っているようだな。私は諜報畑の人間だ。近衛、君がさっきまでいた特戦群とは違う。敵地に乗り込み映画みたいな銃撃戦をかましてお姫様を救出だーこのような任務はマッチョの仕事だ。私の仕事は違った。まぁたまーにやっていたが、基本は暗殺だ。暗殺の現場では大人のレディなのに子供にしか見えないこの姿は偽装として最適だった。ランドセル背負って小学校に登校するやつがヒットマンだなんて思わないだろ」

「たしかに」

 子供に見えるボス。一見弱そうだけどロシア対外情報庁の特殊部隊出身と分かってひとまずほっとする近衛と小鳥が椅子に座った。ヴィーシャが投影に対応しているホワイトボードの左端に立った。ヴィーシャの美しい白髪のポニーテールが揺れ動く。会議室に無表情の美少女が入ってきた。髪型は青色のボブカットだ。プロジェクターにノートパソコンを繋いでヴィーシャの指示を待つ。

「作戦の概要を説明する」

 ホワイトボードに血癒島の地図が映し出される。政府は国民の要望に応えるという筋書きで、現地取材を希望する記者からランダムに十二名ほど選び海上保安庁の同行の上で、現地取材を許可すると声明を出している。ヴィーシャが率いる部隊は記者になりすましてゴムボートに乗り込み砂浜に上陸する。その後、新姫咲病院本館に徒歩で向かい、地下にある研究所内に潜伏していると思われる元凶を排除および研究データを確保する。

「元凶という名のラスボスに研究所の要素が加味される。安っぽいB級映画みたいなことをやっていたと考えてよろしいんですか? 氷室さん」

「お答えできません」

「ごほん。敵に関しての注意点だが、できる限り肉弾戦は避けろ。返り血が微量でも目や口から体内に入れば敵の仲間になる。ミスター氷室の話では最短で十秒。わずかな時間で変貌する。敵は人並みな戦略家のうえ武器も使う。助けを求める生存者や仲間を演じて近づいてきたと警察から報告を受けている。仲間だった者に背後からバンこの可能性があるということだ。その場合一人の変貌で全滅だ。血が入った可能性がわずかでもある場合、撃て」

 ヴィーシャが右手を銃の形にして、自分を撃つ動作をする。近衛は政府のしりぬぐいをしなければならない事実に憤りを覚えていた。深く息を吸い心を整える。

「了解」

「うむ。ミスター氷室から伝えられた敵の情報は必要最低限の内容だった。そのため独自に調べてみた。彼女はヘレナ。支援班の班長だ」

「よろしく」

 無表情の美少女が近衛と小鳥を見据えて、挨拶をする。米国中央情報局でパラミリの管理をしていた彼女は昔のつてを頼って情報を仕入れていた。ヘレナが視線をパソコンに戻す。ホワイトボードに古い日記の画像が映った。


「血癒島には伝承がある。その伝承は島の名前の由来にもなった。巻き網漁をしていた漁船の網に異物が絡まった。女性の形をしている鉄製の棺が引き上げられ、貴重な遺物と考えた漁師によって漁港まで運ばれた。重たい蓋を開け放った島民は驚愕する。金銀財宝ではなく手足を縛られている息のある人間が入っていた。島民によって救われた後に神の使いと崇められることになる女性は自らの血によってあらゆる病を治す力を備えていた。現代の医学でも治療が不可能な難病すら治し、島民を救っていた女性を欲した731部隊によって抵抗する島民の命が奪われた。女性は島民の若者と結婚していた。これはその女性の娘の日記だ」


 日記によれば731部隊は仲間が次々に敵に豹変して、最終的に全滅する。脅威を退けた娘はその後、島民の生き残りに保護されかくまわれていたが、時代とともに忠誠心も薄れ、自分を守ってくれるはずの希乃神社の宮司に裏切られ、政府に捕まった。一連の騒動は実験動物として扱った末に発生した事案だ。

「日記は厳重に保管されていたはずなのですが」

「すまない。ちょっと貸してもらった。今から配る資料に目を通してくれ」

 資料には731部隊が血癒島で行っていた研究に関する情報がまとめられていた。頭を抱える氷室が泣きそうになる顔を必死に押さえ込む。平静を装う氷室が読む時間を与えてなるかと言わんばかりに部下を部屋に招き入れて言った。

「時間が差し迫っています。今すぐ中部空港海上保安航空基地に向かう必要があるため資料を読む時間的余裕がありません」

 氷室の部下が資料を奪い取った。シュレッダーによって粉々になる資料をヴィーシャが眺める。

「移動中の車内で読んではいけないのか?」

「我々の目が行き届いていた会議室ならいざ知らず。盗み見られるもしくは紛失するリスクがある移動中に読むなど言語道断です」


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