第十六話「集落」
「球速何kmなんだろうな」
「分かりませんが、世界最速なのは間違いないでしょう」
ヴィーシャ一行は家や郵便局そしてコンビニなどが建ち並ぶ集落の路地を息を切らせながら走っている。野球のユニフォームを着ている連中を引き連れながら。
豪速球が塀や家の外壁に当たりボコボコと穴を開けていく。
人間戦車(草野球チーム)にヴィーシャ一行は追われている。
「海賊映画の大砲と同等の威力があるんじゃないのか?」
「前方に生きた化石がっ」
大通りに出ると突如けたたましい騒音が辺りに轟く。大通りを埋め尽くさんばかりの昭和の世界からタイムスリップしてきたのかと疑いたいレベルの特攻服姿のコテコテのヤンキーどもがエンジンを空吹かししている。人数は約50人。
「おぉ日本原産のヤンキーがいるぞ! 肉弾戦じゃごらぁ」
ヴィーシャが小銃をしまうと特殊警棒を構える。
「血がたぎりますなぁ」
近衛が近くに落ちていた釘バット。ヘレナ、ルーシーは軍用ナイフを構える。
「かかってこいや」
ヴィーシャが啖呵を切る。
(ヤンキーどもが骨董品のバイクをパラリラパラリラとラッパ音を鳴り響かせながらこちらへと前進してきた。おぉ怖い怖い)
「特攻するだけの能なしなのかっごらぁ」
ヴィーシャがジャンプするとバイクにまたがっているヤンキーの顔面に膝蹴りをお見舞いする。ヤンキーが海老反りしながら道路に落下する。
「ごらぁ」
ルーシーたちがヤンキーどもをバイクから引きずり下ろしたり体を切断したり頭をかち割ったりしている。大通に血肉と臓物がいっぱい散乱する。地獄絵図だ。
「警察が来たぁああああああああああああ」
近衛が叫ぶ。後方に約250人の警察官が整列。特攻してくる。普通は警察VSヤンキーという展開になるが今回は警察・ヤンキーVSヴィーシャ一行だ。
警察もヤンキーもゾンビのような者なのだから。
孫子の兵法にはこんな言葉がある。
我は専もっぱらにして一となり、敵は分かれて十とならば、これ十をもってその一を攻むるなり。すなわち、我は衆おおくして、敵は寡すくなし。
塀を乗り越えて逃げた。ヴィーシャ一行は二人ずつ、
ヴィーシャとヘレナ、近衛とルーシーの2組に分かれる。
路地裏の狭い道などを走ったりして大集団を分散させる。300人の大集団が15組の中集団になりそして40組の小集団になる。ヴィーシャ一行が合流して各個撃破していく。
300人の大集団と戦うのは無謀だが、7人から8人の小集団と戦うのは楽勝だ。
「疲れた」
ヘレナが道路に座り込む。戦い続きで疲れ切っているようだ。
「髪がベトベトして気持ち悪い」
ルーシーが飲料水を少量髪に垂らして返り血を洗い流している。
「近衛。こいつらのチーム名邪王らしいぞ。中二病ぽいな」
「暴走族のチーム名って中二病ぽいのがちらほらあるんだよな。例は出さないけど……」
「トカレフを見つけた。粗悪品」
ヘレナがヤンキーのポケットからTT-33(コピー品)を取り出して地面に置く。
「血癒島のやーさんからパクった物だろうな。最近の極道はM16とかベレッタ 92とかいい銃持ってるけど、ここのやーさんの組織は粗悪品しか持ってない?」
「使うとしたらこれ」
ヘレナが警察官のホルスターからM360J SAKURAを抜き取る。S&W社が日本警察のために開発した回転式拳銃、性能が高く扱いやすい、特注モデルだ。
「近衛。日本の警察はスピードローダー持ってないのか?」
ヴィーシャが警察官の死体から戦利品を物色しながら聞いてきた。
「基本的に持っていません」
「そうか。昔のガンマンみたいに撃ち終わったらポイって感じの射撃が有効だな」
スピードローダーがあれば素早くリロードすることが出来るが、日本の警察官は基本的に持ち歩いていない。そのため一発ずつ弾込めしていかなければいけない。
エネミーとの戦闘時に悠長に弾込めなどしている余裕はない。ではどうすればいいのか答えは簡単だ。両手にM360J SAKURAを持ち撃ち終わったら銃ごと捨ててしまえばいい。
マガジンやスピードローダーという便利な物がなかった昔のガンマンは再装填の代わりに銃ごと交換していた。右手に持っている拳銃の残弾が0になったら捨てて左手の拳銃を右手に持ち替え撃ち続ける。
銃を捨てるのは勿体ないが命を失うよりはいい。
映画やゲームみたいに両手の拳銃を同時に発砲すればいいじゃんと思うかもしれないが、両手のどちらでも同じ命中率を発揮できる人間は少ない。
集落を探索中、ロイが平屋の玄関からゆらゆらと現れた。
「ロイ質問に答えろ。故郷の名は?」
軍隊、特殊部隊、傭兵(契約兵)の集団では秘密の質問というのがある。ロイの場合は故郷の名は? と問われたらキノコ王国と答えることになっている。
質問に答えられる=仲間。答えられない=敵。
「き、キノコ王国」
ヴィーシャ一行が昔ながらの作りの平屋に入っていく。和室の押入れを開けて布団などを出していくと天井に穴が出現する。ヘレナが懐中電灯を照らしながらゆっくりと上半身を穴へと入れる。