第十三話「温泉」
「ロープウェイ乗り場に向かうぞ。小鳥は夏音と一緒に洞窟に待機」
10kmほど歩いた先に自然と天然温泉を楽しめる施設がある。そこにはロープウェイ乗り場があり山頂の希乃神社と施設を行き来している。
山頂には集落に続く登山道がある。それを使ってヴィーシャ一行は集落に行く予定だ。
「……」
施設の入り口に差し掛かった時、ヴィーシャが止まれという意味があるハンドサインをする。ハンドサインとは声を出せない場にてジェスチャーを使って意思疎通をするための共通の取り決めだ。
例えば味方が手を左右に振る=無理、拳を握って頭の高さにあげる=止まれという風に仲間内でジャスチャーの意味を取り決めておけば声を出したら敵に存在を気づかれてしまうような状況下でも意思の疎通が出来る。
施設の入り口に警察官の格好をしている死体が二つ転がっている。ヴィーシャが突入という意味があるハンドサインをする。エントランスには虎の死体が転がっていた。戦闘があったのか銃痕がところどころにある。物などが壊れ散乱している。
クリアリングをしながら進んでいると女湯から物音が聞こえてきた。ルーシーなら良いが、そうではない可能性もあるためスタングレネードを投げ入れ爆発と同時にヴィーシャは突入する。
血を洗い流しているルーシーの姿がある。
(どっちだ?)
「ルーシー無事か!」
ヴィーシャがルーシーに駆け寄る。ルーシーの顔の右半分に斜めに包帯が巻かれている。敵の血がもしも体内に入っていれば敵だ。近衛の心臓を冷たいなにかが鷲づかみにする。
「故郷はどこ?」
ヘレナが拳銃を構えながらルーシーに問う。
「スクスク王国」
ヘレナが銃を仕舞う。一応言っておくが、スクスク王国なんてこの世に存在しない。架空の国名だ。
「近衛は見張り」
追い出された近衛は女湯ののれん前に立って見張りをする。女湯から楽しげな声が聞こえてきた。漫画のサービスシーンのようにきゃきゃうふふしているのだろう。ルーシーにとっても良い気分転換になるし万々歳だなと近衛は思った。