第十一話「崖下の戦闘」
軽トラックは岩などにぶつかりバンパーやフロントドアなどを巻き散らかす。がんがんとぶつけながら落下し、崖下に車体をぶつけた。荷台から投げ出された近衛が起き上がる。
横転する軽トラックと地面に横たわる味方の姿が近衛の視界に入った。
「小鳥。動けるか?」
「先輩……大丈っ戦えますっ」
小鳥の肋骨(2本くらい)が亀裂骨折しているみたいだ。完全骨折しなかっただけでも運が良い。完全骨折して肺などの臓器に刺さっていればまともな治療が出来ない現状では死を待つしかなかったかもしれない。
「全員無事か! 報告しろ!!」
その場の全員が無事だということを報告する。
「ゴリラ(ゾンビのような者)は反則だと思う」
「同意」
ゴリラが崖を駆け下りてきて、軽トラックの上にドンと降り立つ。鋼の肉体高い身体能力そして痛覚も恐怖心もない。格闘戦を挑んだら確実に負ける。
「小鳥は夏音を連れて後方に下がれ!」
小鳥が夏音を連れてゴリラから距離を取る。崖下は草木が生い茂る森林地帯。アマゾン熱帯雨林のような光景が広がっている。
(ここ日本だよな?)
「来る」
ヘレナが呟く。ゴリラが雄叫びを上げヴィーシャに殴りかかる。ヴィーシャは避けるとホルスターから拳銃を抜きゴリラの頭に向けて連射する。
ゴリラは腕を盾のように構えて防ぐ。
ヘレナが死角(ゴリラの視認範囲外)からスコープ越しに一撃を放つが、殺気を感じ取られたのか避けられる。ゴリラがヘレナを獲物に設定する。
人の腰ほどの草の陰にすぅとゴリラが消えた。ゴキブリみたいにカサカサと一瞬にしてヘレナの眼前に現れ襲いかかる。迎え撃とうと放たれた弾丸は虚しく地面を掘り起こした。
「っ!」
ゴリラがヘレナの腹部にパンチを繰り出す、それをSPR Mk12 Mod1が防ぐ。ヘレナが愛銃を咄嗟にモン○ター○ンターの大剣の防御のように構えた。愛銃がミシッと嫌な音を立てて砕けるが直撃は免れる。ヘレナが吹き飛び地面を転がる。
ゴリラがジャンプしてヘレナの真上に行くと両手をがっちり連結させた。腕を振り上げてハンマーみたいに振り下ろ――
――近衛が間一髪のところでヘレナをさらって横に飛び退く。ゴリラの両手が地面を叩き大きな穴が作られた。
(ヘレナに当たっていたらと思うとぞっとする)
近衛は牽制射撃をする。硝煙の匂いが漂う。
「うがぁああああああああああああああ」
ゴリラが雄叫びを上げ、木を引っこ抜くと近衛に向けて投げた。スライディングして避ける。木がドスンと地面と衝突する、砂埃が舞い上がり視界が悪くなる。
「私を無視するとは良い度胸だなっ――」
ヴィーシャがゴリラの左太もも裏にサバイバルナイフ(SOG シールパップM37)を突き刺して半円を描くように斬り込む。ゴリラの攻撃をかわして今度は左太もも前を同様に斬り込む。裏と前の線が繋がり左足が切断される。
血しぶきが豪快にあがった。
続け様にヴィーシャは腰脇の拳銃をカウボーイのように素早く抜き、弾倉が空になるまでゴリラの右足首を撃つ。
筋繊維などがブチブチと千切れ右足が転がる。ゴリラは両足を失い自然落下、仰向けに倒れヴィーシャを見上げる。血臭が辺り一帯に充満する。
「――終わりだ、!?」
ヴィーシャが弾倉を交換する。そしてゴリラの頭部に放つ。ゴリラが跳び箱の開脚跳びのような姿勢を取ると右腕だけで全体重を支えながら身体を斜めにずらして弾丸を回避。
「ふがぁあああ」
ゴリラは土を握るとヴィーシャに投げつける。目くらましだ。
ゴリラはヴィーシャを道連れにしてやろうと考えたのか、両腕を使って出血もお構いなしに突撃する。ゴリラは口をあんぐり開けてヴィーシャに飛びつ――
――小鳥がヴィーシャを突き飛ばした。小鳥は左腕をがぶりと噛まれる、目を見開き泣き叫ぶ。小鳥が噛まれたのと同時に近衛がHK416を短連射する。
弾丸は吸い込まれるように小鳥の左腕に命中。小鳥の左腕が千切れて空を舞う。噛まれた部位をすぐに切断すれば敵にならないならないでほしいと考えた近衛は瞬時に動いた。
「小鳥……」
呆然とするヴィーシャは小鳥を眺める。小鳥がインパクトグレネードをゴリラに投げつけた。小鳥とヴィーシャも衝撃波に巻き込まれる。
起き上がろうとするが力が入らないため起き上がれないゴリラ。近衛がゴリラに接近し目を撃つ。目から脳に入った弾丸がゴリラの動きを止めた。
ヴィーシャがメディカル・バックから必要な物を取り出すと小鳥の手術を行う。ヴィーシャのメディカル・バックには止血を防ぐための投薬、傷口を覆う物、外科キットなどなど医療行為の必須品がすべて入っている。近衛や小鳥もメディカル・バックを携帯しているが必要最低限の物しか入っていない。外科キットや投薬などを持っていても扱えないからだ。ヴィーシャはブラックヘブンの研修で救急医療に関する知識や技術を叩き込まれたようだ。
契約兵(傭兵)というのは泊が有れば日給10万以上の美味しい仕事だが正規軍と違って敵に捕まっても救助されない。処刑される可能性が高い等々危険極まりない。使い捨てのカイロみたいに暖かい内は重宝されるが、冷たくなったらポイっとゴミ箱行きだ。
信じ助け合えるのは仲間だけ。それが契約兵。だからこそ技術は必須だ。
「すぅすぅ」
小鳥が安心しきった顔をして眠っている。手術が成功。ヴィーシは安堵する。小鳥は命に別状はないが左腕を失った。
「もう大丈夫だ、小鳥を安全な場所まで運ぶぞ」
簡易担架に小鳥を乗せて、険しい森の中を警戒しながら進んでいると洞窟を発見。洞窟を拠点として使うことになる。