僕は嘘をついている。
僕は嘘をついている。
僕は彼女とこれからも一緒にいたいと思ってしまった。
僕は嘘をついている。2泊3日の草津旅行。この旅に出る前は僕は彼女を振ろうと思っていた。性格が合ってないんじゃないかと思ったりしていた。僕には見合わないような良い子だなって思ってた。そしてもっと可愛い女の子と俺なら付き合えるんじゃないかと思ってた。僕が君に言う可愛いは本心。でもそれは前に比べて可愛くなった、というのが正解だった。
失礼極まりないと思う。心の中から漏れてしまったら彼女をどれだけ傷つけるだろう。
そんなことを思いながら旅が始まって彼女と会ってみると、彼女は曇りない笑顔で僕に微笑んでくれる。僕が心の中でこんなことを考えているというのに。彼女はなにも知らないから分からない。別れようとしていた自分が少し情けなくなった。友達にも別れようか相談していて、『とりあえず抱いて別れるわ。』とか言って見たりした。酒の席で余裕そうな顔をして言った。そんな自信なんてどこにもないのに。僕は君のことを抱くのが怖い。
僕は嘘をついている。僕は皆に経験人数が15人だとか嘘をついているけど、僕は一人と、一度しかしたことがない。それも3年前だ。隣のクラスの学校ではそっちの噂が後を絶たないあの子と初めてしたっきりだ。その時も抱いたんじゃなくて、まるで抱かれたかのようなSEXだった。僕は彼女に嫌われてしまうんじゃないかとずっと怖がってる。上手に出来るか不安で仕方なくて、僕が言った嘘が壁になって、前に立ちはだかる。初めて嘘をついた時の自分の虚栄心が憎い。もっと正直に言っていれば楽だったんじゃないかと考える。湯畑の近くの居酒屋でご飯を食べて、風呂に入って、部屋に戻って二人でコンビニで買った缶ビールを二人で開ける。ほろ酔いで布団に入った時、彼女を抱きたかった。コンドームは枕の下に忍ばせていた。彼女を愛したかった。世の中で起きるどんな事も気にせずに、ただ欲望のままに彼女を抱きたかった。でも僕は逃げた。少し散歩に行って来ると言って深夜1時過ぎに一人で足湯に入りに行った。座れるような濡れていない場所を探して、靴下を脱いで、肌に突き刺さるような寒さを、一瞬忘れさせる暖かな湯の中に足を入れた。僕はなんて弱いんだろうと思って落胆した。なんて意気地なしな男なんだろうって。きっと彼女もそれなりに心の準備はできていたはずなのに僕はなにもできなかった。情けないと思った。今夜もう一度チャンスはあるだろうかと考えても、そんな希望は自信のなさにかき消されて、温泉から出る湯煙みたいに消えていく。本当は自信がないなんて言えないよ。こんな僕の弱さを見せたくない。友達にはまるで経験豊富みたいに大口を叩いているのに実は嘘だなんて言えるわけがない。こんな僕を見られたくない。一層彼女に全てを打ち明けるか、それとも嘘をつき続けるのか僕は迷う。まるで俳優みたいに、台本に載っている人物になりきって抱いてみようとか考えてみたりする。昔は遊んでいたけど落ち着いたチャラ男みたいなキャラになりきろうかなとか考える。キスをした後に少し彼女に本音を漏らしかけた。『俺彼女としたことないんだよね』『特別だから躊躇っちゃう』とか言った。合っているのは前者だけ。僕は嘘をついている。『最近ポジティブなことしか考えないようにしてるんだよね』って僕は彼女に話す。彼女はめっちゃ良いじゃんと言いながら笑う。ポジティブな事しか考えないようにしていても、僕の中には大きなネガティブがある。それは君との関係性についての悩みというのも僕の気持ちを一層曇らせる。好きだとか嫌いとかは分からない。でもただ僕は彼女を抱きたい。それだけが僕の中での唯一の真実だ。帰りのバスの中でふと昔読んだ小説に書いてあったことを思い出した。「許されない関係に酔うとか、タブーは蜜の味だとか全く分からない。正しい相手と、正しい関係でとことん溺れないと気持ちよくなれないの。」と。僕はそんな小説の中の主人公が羨ましくて、一層彼女を抱きたいと思った。誰にどう思われるとか関係ない。僕が不安に思うことは頭の片隅にいつだってある。でも今は純粋な欲望が心を覆い尽くす。彼女を抱きたい。これだけは嘘じゃない。