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1章 突然の事件と求婚2

 そこにいたのは、得意先の後継ぎ息子としてよく商会に出入りしている男性だった。

 名前はレオン。家名は知らない。

 レオンはよくある茶色い髪を持つ男性だ。エリーゼの記憶が正しければ、今は二十五歳だったと思う。

 長い前髪が印象に残る変わった人だが、よく見ると青い瞳は美しく透き通っていて、整った顔立ちをしているようでもある。

 とはいってもエリーゼが知っているのはその程度で、真面目な後継者というよりもふらっとやってきては無駄話をしていく暇人という印象だ。

 そんなレオンが、いつの間にかエリーゼの執務室にいた。


「……レオン様……ふざけないでください」


 今のエリーゼにとってその揶揄いは一番腹が立つものだ。結婚しないかなんて簡単に言わないでほしい。

 エリーゼは今最後の手段としてそれを考えていたところなのだ。

 ──間に合いそうにもないけれど。


「何しに来たんですか?」


「船が海賊に奪われたんでしょう? こんな状況なら君はきっと身売りを考えるだろうって思ったから来たんだけど」


「……それじゃもう間に合わないから、他の方法を考えてるところですよ」


 エリーゼが結婚してどうにかなるのなら、それが一番穏便だったかもしれない。しかしそうもいかない以上、海賊と交渉するしかない。


 交渉の駒として、当然領地は使えない。

 爵位も、領民のことを考えたら手放せない。

 商会は多くの従業員を抱えているので、他人には預けられない。


 使える駒はエリーゼの身くらいだ。酷い目に遭うだろうが、仕方がない。

 あまり女性らしい美しさはないけれど、アルヴィエ子爵令嬢ということで誤魔化されてくれないだろうか。

 どうかレオンが指先の震えに気付かないでくれたらいい。


 しかしレオンはなおもエリーゼの執務室から出て行かない。

 それどころか、机に両手をついて顔を近付けてきた。


「だから、俺が全部どうにかしてあげるって」


「全部って、何のことですか」


 勢いに押されて、エリーゼはついレオンと目を合わせてしまった。

 レオンの青い瞳はやっぱり綺麗だったが、今は妙に真剣な色をしている。どうやら本気らしいと思ったエリーゼは、それまでの怒りを静めて真面目にレオンの話を聞くことにした。


 レオンが顔の前で右手の人差し指を立てる。


「まず、騎士団。王都からだと時間がかかるから、辺境にいる騎士団に応援に来てもらおう」


 エリーゼは目を見張った。そんなこと、普通に考えたら不可能だ。

 レオンは次に中指を立てる。


「万一船が戻ってこなかったとしても、奪われた数の船を買ってあげる」


 咄嗟に言い返そうとしたエリーゼの唇に、レオンの薬指を添えた三本の指がそっと触れる。

 それはエリーゼに言葉を呑み込ませるには充分だった。


「今回の件が解決したら、国王陛下にかけあって、アルヴィエ子爵領の海賊討伐に懸賞金をかけてもらおう。勿論、国家予算で」


「国家予算!?」


 今度こそ、エリーゼは悲鳴のような声を上げた。

 それができれば、腕に自信がある冒険者がこぞってアルヴィエ子爵領にやってくるだろう。海賊は減り、冒険者達によって市場も潤うに違いない。

 しかしそんなものは理想論だ。


 それでもレオンは表情を変えず、小指を立てる。


「君の父君が事業の立て直しをしている間、専門家の助言を受けられるようにする」


 人望はあるが商才はない父親には一番の支援だ。アルヴィエ商会によく出入りしていたレオンだからこそ思いつく内容だった。

 エリーゼはレオンからの提案が至れり尽くせり過ぎて、先程までとは違う理由で恐ろしくなってくる。


「そこまで──」


 レオンが親指を立てた。エリーゼの目の前には、レオンの手の平がある。

 立てられた指は、五本。


「いいから。それと──可能な限り、捕虜にされている従業員を安全に救出すると誓うよ」


 それはエリーゼが最も強く望んでいることだった。

 従業員達が無事に帰ってきてくれれば、それ以上に嬉しいことはない。


「本当に……そんなことができるんですか?」


 青い瞳から目を逸らせずにいると、レオンの大きな手の平がエリーゼの手を取った。

 その甲に唇を寄せられて、一瞬触れて離れていく。その場所から、身体中に痺れが伝染していくような気がした。

 異性との触れ合いには、免疫がないのに。

 咄嗟に握られていた手を引いたが、無駄に大きなレオンの身体はびくともしなかった。


 レオンがゆっくりと口角を上げていく。


「勿論さ。その代わり、エリーゼも俺に協力してほしい」


 レオンの提案が本当にその通りになるのならば、エリーゼに拒む理由はない。

 いちかばちかで海賊に捕虜と自分を交換するよう願い出ようかとまで考えたのだ。身売り結婚なんて今更だ。


「それが本当なら構いません。犯罪以外のことならなんでも協力しましょう」


 エリーゼはそう言って、挑むようにレオンを見上げた。

 こんな提案をしてくるレオンの正体を見透かそうとするように。

お読みいただきありがとうございます。

楽しんでいただけるよう、更新頑張ります。

よろしくお願いします!

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★☆5/5書き下ろし新作発売☆★
「皇妃エトワールは離婚したい〜なのに冷酷皇帝陛下に一途に求愛されています〜」
皇妃エトワールは離婚したい
(画像は作品紹介ページへのリンクです。)
ベリーズファンタジースイート様の創刊第2弾として書き下ろしさせていただきました!
よろしくお願いします(*^^*)
― 新着の感想 ―
[良い点] わくわくする始まりで、続きが楽しみです。 [一言] 捨てられ男爵令嬢、予約しています。 発売日には購入出来そうで、読むのが楽しみです。 またファンレター書きますね。
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