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童心にかえるところ  作者: 三人日
3/3

西の公園で

「じゃあ、またな」


 そう言って案内人の男と共にやって来た女の人達が外へ出て行く。後ろを振り向かないのも愚図愚図と別れを粘らないのもいつものことだ。


「あいつ、いいヤツだ」


 ぽつんと呟く一言に返されるのはいつも決まって軽いため息。ちらっと隣を見上げれば、金の瞳があいつが去った方向をぼんやりと眺めてから、バサーッと葉音を立てて見る間にその体躯を縮ませた。人型をとるのをやめてただの蛇のように地べたを這う。疲れたらしい。そうなると、もうこっちの相手はしてくれない。

 神は自由なイキモノだからこっちの都合で縛られてはくれない。こっちは神に縛られて生きているのに何て理不尽なんだろう。


 つまんねーの。


 案内人がまた来るのを待つ時間は嫌いだ。退屈で理不尽なこの世界にいつも風を入れてくれる。あいつは特にソレが強い気がする。だって、案内をしなくても何もなくてもオレに会いに来てくれる。オレの姿が変わらなくても、あいつの姿が変わってもその関係は不変で。初めて会った時から変わらない態度にいつもオレはホッとする。



 オレが西の公園の管理者に決まったのは、オレは中学校に入学したての頃。まだ親の庇護下で暮らすのが当たり前の年で。まさか自分が思ってたいつもの日常からバツン!と切られるように今までの常識や価値観が全く通じないような、別の場所に行かされるなんて…親やきょうだい達に会いたい時に会えなくなるなんて微塵も思っていなかった。


 あの日、友達といつも通り下校していたら突風に煽られて目がチクッとしてゴミでも入ったのかと慌てて目を閉じた。違和感が無くなって目を開けたら、見知らぬ場所に立っていた。ついさっきまで町中を歩いていたのに、自分が居るのは少し開けた森の中。慌てて周りを見渡すと、少し離れたところに葉っぱをたくさんくっつけた、おかしな格好の人?…足元が崩れたようになっててハッキリ人とは言えない…と、地べたに座り込んでおいおい泣いてる人と、その2人からちょっと間を開けて女の人が居た。とりあえず、そっちに向かって歩いて行くと、その3人に違和感を覚えた。

 葉っぱの人?は無表情で、おいおい泣いてる人は泣き笑いな表情をしていて、女の人は怒ったような顔をしている。オレは多分困った顔をしてたと思う。同じ空間に全く違う表情の人が固まっているっていうのがおかしかった。


 「あのさ、ここ、どこ?」


 ばっと振り向いたのは女の人。どこにでもいそうなキャリアウーマンって感じ。上から下までじっとオレを見て、少しだけ悲しそうな顔をした。


 「呼ばれたって事は、あなたが新しい管理者なのね」


 呼ばれた?管理者?

 頭の上にたくさんのハテナをくっつけていると、葉っぱの人がずるりと動いた。下半身が蛇みたいに動く様子に少し腰がひける。そのままオレのそばにやってきて、バサーッと崩れるように姿が変化した。

 葉っぱの塊みたいな長い蛇?それがオレの足元からぐるりと巻きつくみたいに全身を覆っていく。

 身動き取れない。

 金色の瞳がオレの顔を見る。無機質そうな顔なのに、笑う気配がした。


 ざざざざざ……


 突然、強い風が吹いて周りの木々が大きく揺れ動く。


 「きゃっ」


 小さな悲鳴がして、そっちを見ると女の人はいたのに、一緒にいたはずの泣いていた人の姿が消えていた。

 

 「次代の管理者はお前だ。前任者は向こうに返した」


 それから、公園の話と管理者の事について説明を受けたけど、本当に意味がわからなかった。でも実際に公園から出られなかったし、何日も何も口にしなくても平気だった。

 蛇…本当は龍らしい…の神さまが言うには、オレは世の中のしがらみや(ことわり)を超えた存在になったから、年も取らないし死ににくくなったって。


 年を取らない、のを実感したのは、着替えを持って来てくれる家族の変化だった。別れた時にオレより小さかった弟がオレの背を越したし、妹が結婚したりした。

 オレは中1の姿のまま、弟も妹も気を遣ってくれてるのはわかるけど、お互い気まずかった。


 何年かして案内人が交代した。

 キャリアウーマンだった人が結婚して遠くの街に行く前に紹介されたのが、秋だった。

 秋は不思議なくらい早くこっち側に馴染んだ。

 普段あまり話さない神さまでさえ、秋が来ると積極的に話しかけるし、姿が変わらないオレに対しても極々普通な態度で接してくれた。

 これがとても嬉しい。

 だから、オレは(こいねが)う。


 秋、いつかオレたちと同じところに来てくれ。そうしてくれたら、オレはもう寂しくないし、きっとずっと楽しい。

 

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