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童心にかえるところ  作者: 三人日
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西の公園

 この町には、東西南北にそれぞれ公園がある。


 「公園」と明記されていても、遊具があって老若男女問わず訪れる事が出来たとしても、そこは普通の公園ではない。

 公園の入り口は、全て山の麓にある。


 岩に囲まれて草木のほとんど生えない東。

 蔦と木々に囲まれて昼でも薄暗い西。

 山から絶えず湧く水が滝になっている南。

 不夜城のようにギラギラネオン輝く北。


 これらはそこに棲む人ではない、神の好みでこれでもか!と盛られた神域の入り口だ。

 初めて知った時は、北の悪趣味なデコレーションに膝から崩れ落ちた。キラキラ、ならまだ許せた。ギラギラって何だよ。カラスか?神域のくせに不夜城をイメージしたとかってマジで意味わからん。バ…いや、一応アレでも神だし。でも大声で言いたい。


 趣味悪過ぎる!!!


 まめやの店長として、日々穏やかに過ごす俺のもう一つの役割は、公園へ行きたいと願う人達の案内人だ。これは我が家が代々務めてきた駆け込み寺、とは違って各公園の管理人からの指名性になっている。先代は会社勤めの女の人だった。代替わりになったのは、彼女が結婚して町から出て行ったからだ。

 彼女の口癖は、「案内人だからって町に縛られるのは真っ平ごめんよ!」だったけど、案内人のイロハはほとんど彼女から教わった。

 別れの時は「若いあなたに任せちゃってごめんね。決してこの町が嫌いってわけじゃないけど、ずっとここにいるのは息が詰まるの。本当に身勝手でごめんなさい」と涙ながらに言われたのは、正直グッときた。それくらい、らしくない姿にぐらっとキた。だけど…「何かあったら」の続きがあまりにもいつもの彼女で。


「何かあったら、私はもう案内人じゃないし、何もしないから!だから私はもうこれからはノータッチよ!!」



 公園に行く準備をしながら、昔の事を思い出した。先代から案内人を受け継いだのはまだ中学生だった頃。今思い出しても、先代の別れの言葉はあまりにも鬼畜過ぎると俺の中ではワースト5位に入る出来事だ。ちなみにワースト1は、「あたしにはお兄ちゃんがいるんだー!血は繋がってなくて家は隣で世間的には幼馴染っていうんだけど!」

 若かったな。恋心を木っ端微塵にするようなダメージをくらって泣いたわ、んなセリフ。


 約束の時間に余裕を持って家を出たら、すでにみゆき達は来ていた。

 白の七分袖に紺のロングスカート姿のみゆき。その隣にグレーのトレーナーを肘までまくって黒のスキニーを穿いた女。その少し後ろに襟ぐりが大きめTシャツにショートパンツの女の子とふわふわの白いパーカーにミニスカートを合わせた女の子が手を繋いで立っていた。多分全員俺より年下だ。みゆきの会社の後輩か?いや、みゆきは無駄に交友関係が広いから何かのサークル活動のメンバーかもしれない。いくら幼馴染であっても、交友関係までは把握しきれていない。ストーカーじゃあるまいし。


「待ったか?」

「ううん、今来たところよ。えっと、この人が私の幼馴染で案内人の秋さん」

「よろしく」

「あ、私は…」

「名乗りは要らない。呼ぶ時はこっちから適当に声かける」

「相変わらず冷淡ね。モテないわよ」

「別にもモテをほしいわけじゃない。余計な事言うな」

「はいはい」


 西の公園に行くには、電車とバスを乗り継いで約1時間半。その間、みゆき達はきゃっきゃウフフと遠足気分で楽しそうにしていた。多分、初めての神域行きに無理矢理テンション上げてんだろうな。そうわかるのはみゆき以外の3人の目が笑ってない。なんというか昏い。何に悩んでるんだか知らないし知るつもりもない。俺はただ公園に連れて行くだけであって、相談にはのれないからだ。


 公園の入り口は、高架橋の下のトンネルに似ている。トンネルの周りは鬱蒼とした森で日中でも薄暗い。鬱陶しい程の蔦、柳のような枝がカーテンのように垂れ下がっているのを腕で左右にかき分けながら前に進んだ先に開けた場所に出る。そこが公園だ。

 ぱっと見、誰でも入れそうに見えるけど、許可された案内人と一緒でないと入れない。単独で入ると延々と森の中を歩き回るハメになるらしい。自分がどこにいるのかどこを歩いているのかわからないって想像しただけでもめちゃくちゃ怖い。最終的には疲労困憊で倒れる頃、見知った場所に出れる。ただし、それは森の中ではない。歩道橋の上にいたってのはまだマシな話で、マンションの屋上だったり、学校内にいて不審者扱いされたりとかそういう話も聞いた事がある。

 迂闊に神域に手を出すと痛い目に遭うのだ。下手なことすれば神隠しなんてのもあるし……

 公園内には遊具が一機。何がどうなってるのか怪しすぎてつっこめない、木と植物で出来た、ジェットコースター。

 その脇に男の子と、緑色の髪に葉っぱだらけの服?を着た男が1人。男の子が公園の管理人で得体の知れない男がこの神域の主人だ。


「あきー!!久しぶりだな!」

「久しぶりってほどもないだろ」

「そうか?」

「ほれ、今日は懐かしやのマーブル飴持ってきた」

「やった!!」


 白い袋を男の子に渡すと、早速中を覗き込んでニッカリ笑う。

 管理人は基本的に公園から離れられない。案内人の俺や神域に入れる管理人の親族から与えられる物で生活している。彼の親族は割とこまめに来るらしく、俺が彼に渡すのはちょっとした甘味や玩具くらいだ。


 俺が管理人達と話している間、みゆき達は公園内を物珍しそうにうろうろしていた。何回か来ているみゆきでさえ、来るたびに公園内の木の場所が変わっているからいつも新鮮な気持ちで過ごせるらしい。


「秋、今回は大所帯だの」


 神も話す。見た目は若くてチャラ男っぽいのに話し方はじじむさい。そして、本当に着てる服がめちゃくちゃ謎。なんだその葉っぱ。何でくっついてるんだ?袖が長いんだか短いんだかも謎だし、裾はそんなに長くない。元は着物なんだろうか。白いふくらはぎが見えている。


「まあな。だけど、まだイケるだろ?」

「アレをわしに乗せればええ」

「俺が待っててもいいけど」

「それはだめだ。秋が一緒じゃなきゃ帰れん」


 全員でジェットコースターに乗り込む。前の箱にみゆきを含めた4人。俺は次の箱に1人で乗る。

 神は四つん這いになり、神の背中に管理人がまたがる。

 神が高く跳躍したのを皮切りにコースターが動き出す。レールなんて見えないのに右へ左へ大きく揺れ、景色がどんどん後ろに流れていく。


 ゴオオオオオオオ…!!!ガタタタタ!!


 コースターの斜め前に緑色の長い、葉っぱみたいな生きものが流れるように走る。

 西の公園の神の本性は、龍。

 大きく開けた口からは風と共に細かな葉が噴き出している。それがコースターに乗る全員の身体を撫でていく。ビシバシ当たるのに痛くない。


 コースターに乗っていたのは、そんなに長い時間じゃなかったはずなのに下車した頃はすでに夕焼け。いつも通りだ。

 乗る前は悩んでいた事もコースターで揺さぶられている間に何処かに流れていくように、ボンヤリと形を留めていられなくなる。


「何かわからないけど、なんかすごかった!」


 乗っていた3人も目をキラキラさせて喜んでいた。もう目の中に昏さはどこにもない。昨日、失恋に悩んでいたみゆきもあっけらかんと笑っている。

 それを良かったと思うと同時に自分の中のみゆきへの想いが少し軽くなっているのに気付く。ちらっと神を見れば、にやりと笑む。そういう顔するとやたら人間くさい。


「お主も難儀なことだ。はよ、こっち側に来い」

「いや、俺はまだそっち側には行けない。未練が多すぎる」

「えー、あきもこっち側来てくれたらオレもずっと楽しいのに!!」


 神側へのスカウトを断るのもいつもの事。

 西の管理人は中学生くらいの男の子だ。俺が案内人を始めた頃と変わらない。ずっと同じ姿をしている。

 神域では年を取らない。

 管理人が何年ここにいるのかも知らない。そういう線引きは大事だと先代は言っていた。線からはみ出してしまうともうこっち側には戻れないとも。

 それもあって、俺は特に西の公園にはちょくちょく行ってしまう。管理人にちょっとした娯楽を届けるだけに。多少絆されてるのも確かだ。だけど、俺はまだそっち側には行けない。


「じゃあ、また来るよ」

「うん、またな!」


 そうして俺達はまた1時間半かけて帰る。昏い目とおさらばした女達と共に。


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