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招待

 自らをお披露目する誕生日や、家門の行事以外は、十三以下の子供は基本パーティには参加できない。代わりに貴族の子女が集まるため開かれるのがお茶会である。

 パーティは時間帯も夜会が多く、お酒も出る。華やかな社交の場というだけでなく、色々な大人のドロドロした思惑が渦巻く場に、小さな子供を連れて行きたくないという大人の事情で、それが慣習になったのだろうなと自分が大人になってから気が付いた。

 お茶会は昼間、主に貴族のご夫人達や同年代の子女が交流する場として設けられる事が多く、会話とともにお菓子やお茶を楽しむ……と言うと聞こえはいいが、余程気心の知れた仲の人達がいないと辛い場だ。

 お茶会なんて、前の生で嫌がらせを受けた嫌な思い出しかない。

 侯爵家とはいえ、貧乏で武家であることを理由に、武家は野蛮だだの、お作法がなっていないだの、ドレスが古臭いだの散々言われて。

 挙句に、私とイーサンが婚約したことで、彼を狙っていた他のご令嬢達に目の敵にされ、熱いお茶をかけられた事まである。

 さて。今回招待状を送って来たのは公爵家である。とは言っても、イーサンのところのアレオン家では無い。アレオン家と帝国の勢力を二分する、二大公爵家のもう一つ、ディミトリ公爵家だ。正確に言えばそのディミトリ家の次女のリリアーナ嬢から。

「はああぁ。ものすっごく嫌。行きたくないわ」

 思わず招待状を投げ捨てそうになったけど、何とか踏みとどまった。

「どうしてですの? リリアーナ様とはお歳も近いですし、公爵家に嫁がれる身であれば今後のお付き合いもございましょう?」

 エリナはそう言うけど……だからよ。

 私に笑いながらお茶をかけたのが、他でもない一つ上のリリアーナ嬢だもの。まあ、それはもっと後だけどね。学園に入る直前だったわ。

 そうそう、思い出した。初めてのお茶会にこうやって招待されて、嬉しくてうんとおめかししてもらってノコノコ行ったら、ドレスコードがーとか言われて、一人色の違うドレスで散々笑いものにされたのよ。で、その時に……

「礼儀もまだわからない歳のご令嬢を笑っては可哀想ですわ。誰にでも間違いはありますもの」

 そうわざとらしく私を庇ったのがリリアーナ嬢だった。皆にはそれで優しいだのなんだのと持ち上げられてご機嫌だったわね。私は招待状で伝えられた通りに守っていったのに。そもそもわざと間違えて伝えておいて、最初から笑いものにするつもりだったのよね。

 ああ、ほら。

『薔薇の季節にふさわしい赤がテーマのお茶会』

 そう書いてある。でも実際、他の招待客には白月の清楚な白と伝えられているのよ。考えてみたら、お茶会の開かれる今月の終わりだと、もう薔薇は終ってるもの。なんで気が付かなかった、昔の私……!

 やはりはめる気満々だわね。

 私の誕生日にいきなり公爵とお父様が発表するまで、イーサンの婚約者候補の筆頭がリリアーナ嬢だったのは周知の事実。それゆえの嫌がらせだった。彼女の姉のララミア様は、既に第一皇子の婚約者だ。つまりは未来の皇太子妃よ。

 ……ついでのことを言うと、この先リリアーナ嬢は第二皇子と婚約が決まって私への嫌がらせも止むも、皇子から婚約破棄されるんだけどね。とはいえ、そのままだったら早々に未亡人だったから良かったんじゃない?

 どうでもいいけど、親達、まだ幼い子供達の将来の相手を早くに決めすぎ!

 しかしまあ、今から思うと十一歳やそこらの子供がやるにしては、嫌がらせが陰湿よね。どうせ、大人の知恵が入っているに違いないわ。母親あたりの。

 困ったわ。断れないじゃない。流石に公爵家のお誘いを断ったら断ったで、失礼だとか噂を流されて、また違う嫌がらせが待っているに違いないもの。

 実際に他のお誘いを断った時に、それも経験してるし……って。

 こうして考えたら、私の前の人生って、イーサンのこと以前に―――涙出そう。

「エリナ、一応、出席するとお返事を出しておいて」

 さて。どうしてくれようかしら。


 細かいことを言ってお父様を煩わせるのも気が引けるし、先がどうなるのか知っているのもおかしい。だから来週お茶会に行くとだけ伝えた。

「アメリアにも仲良くできる女友達ができればいいね」

 そう普通に言っちゃうお父様は、女は子供の頃から結構意地悪なのを知らないのね。エリナもだけど、大人ってそんなものなのかもしれない。

 もやもやした気持ちを吹き飛ばそうと、早朝から庭で剣を振るう。

 すでにお父様は出て行かれたけど、今日はフェリクスもケビン様もまだ。

 女だし、フェリクスほどの才能は無いにしても、強くなれば未来を変えていけると信じて。

 ひとしきり素振りをして、一旦朝食を摂ろうと手を止めた時。門の方から馬の足音が聞こえた。

 馬車? こんなに朝早くに来客かしら? 

 慌てて行ってみると、門の外に立派な馬車横づけされていた。あれ、この馬車って。

 馭者が馬車のドアを開けると、そこから降りて来たのは……。

「イー……公子様?」

 朝日より眩しい美少年がこちらを見て笑み崩れた。

「アメリア、随分と勇ましい恰好をしているね」

 あっ、剣のお稽古のままの姿だったわ! 髪は無造作に縛っただけだし、シャツにズボンって。しかも手に木の剣を握ったままだ。最高に侯爵令嬢らしくない。

「す、すみません。はしたない姿をお見せして!」

 でも、こんな時間にまさか突然婚約者が来るなんて思わないじゃない? いやいや、そもそもイーサンじゃなくても、他の誰に対しても失礼だったわ。良かった、まだ子供の体で。

 私の顔に出ていたのか、まるで心を読んだかのようにイーサンが言う。

「ごめんね。突然こんなに早く来てしまって」

「い、いえ……でもどうして?」

「一刻も早く君の顔が見たくなったから、というだけではダメかな?」

 くっ! 堪えろ私っ!

 そんな絶妙の角度で首を傾げて、うるうるした目で見つめられたら……。

 まだ十二歳のくせに、的確に相手の心を鷲掴みにする術を身に着けているわね!

「ふふ、でも早く来て正解だった。こんなに凛々しい姿を見られるなんて」

 ぱふん、って音が聞こえた気がした。多分私、今真っ赤だと思う。

 くううっ。頬が熱いー。胸がドキドキするぅ。

 ダメ。絆されたらダメなんだからっ!

「と、とにかく中へ。私は先に着替えに行きますので」

 この前みたいに準備していないのにってエリナに後で叱られそうだけど、せっかく来てくれたのに通さないのは失礼じゃない。

 はしたない恰好ついでに、だーっと走って私は先に屋敷に入り、イーサンの来訪をエリナと執事に告げ、部屋に着替えに戻った。

 子供に戻っていいことって、身支度が楽なことよ。侍女の手伝いもあって、ものの数分で女の子らしい姿に変身。

 イーサンは、客間に通されていた。

 今日は従者も連れていないみたい。馬車から大きな箱を自ら持って出るのが見えてたけど、何を持ってきたのかな?

 前の人生ではイーサンは沢山私にドレスや宝飾品を送って来た。最初は喜んでいただけの私も、少し大きくなったら申し訳なく思ったわ。

 前といえば、十年前のこととはいえこの初めてのお茶会の前に、イーサンがこうして突然来た覚えは無い。

 私が巻き戻ったことで、なんだか少し流れが変わって来たのかな。

「お待たせしました」

 イーサンは私の姿を確かめると、蜂蜜みたいな甘い笑顔を見せた。

「さっきの勇ましい恰好も素敵だけど、やっぱりアメリアは可愛い女の子がいいな」

 どきっ。 

 いやいやっ、どき、じゃないよ私っ!

 もじもじするしかない私に、イーサンは突然の訪問の本題に入った。

「この前、街へ行った時にこれを見つけてね。絶対に君に似合うだろうなって思ったからサイズを合わせて作らせたんだけど……気に入ってくれるといいな」

 そう言って、イーサンが大きな箱を差し出した。プレゼントをくれるの?

「開けてみても?」

「もちろん」

 そっとリボンを解いて蓋を開けてみる。

 箱の中身は―――。

「ドレス?」

 あっ、白いドレス!


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