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二つの王冠


 お揃いの意味がわからなくて首を傾げると、イーサンは困ったような笑みを浮かべた。

「アメリア、ひょとして、まだ一年生の成績を見てない?」

「……なんだか怖くて」

 そう言っている間に、先に一年の順位を見て来たミチェラが嬉しそうに報告してくれた。

「アタシ、六位だったよ! アメリアが一位でユーグ皇子が二位! 全員一桁達成だね! だけど、アメリアの名前の横になんかついてるの。あれ何かな?」

 え? それって……。

 お揃いって、そういうこと? 自分でもよく出来たとは思っていたけど、一位だなんて思いもよらなかった。しかもクラウン?

 思わず顔を見ると、イーサンは優しい顔で頷いた。

「自分の目で見れば?」

「そうですね」

 恐る恐る見に行くと、確かに私の名前の横にはクラウンが付いていた。

「ほらね。お揃い。これで二つ目のアメリアとお揃いが出来た」

 イーサンが悪戯っ子のように笑う。二つ目……ああ、そうか。ブレスレットの次のお揃いってことか! 彼にとっては私とお揃いの物があることが重要なんだね。あれだけあのブレスレットに拘っていたくらいだもの。それは私も嬉しい。

 だけど頑張りすぎたかも。一位はともかく、クラウンは目立ちすぎちゃう。

「クラウンが付いてるってことは、アメリア嬢も満点? すごいと言うよりさすが!」

 入学試験首席の顛末をご存じのユーグ皇子は素直に感激してくださっているが、やはりというか後ろからヒソヒソ聞こえて来る。

「皇子はともかく、武家の子が満点なんてありえないですわ」

「それに見てよ、上位に剣術科もいる。上流家門の方々が軒並み消えて平民までいる始末。こんなの絶対におかしいですわ」

 ……はぁ。頑張っても何かしら言われちゃうのね。今日はご本尊の公爵令嬢はおいででは無いけれど、とりまきのご令嬢達でしょうね。ホント懲りないわね。

 ちら、と横の二年生の成績表を見ると、意外な事に一位がリリアーナ嬢では無い。恒例の教師陣のご配慮は無かったのかしら。剣術科や医術科の平民の子達の名前があるところを見ると、今回は身分など関係なく公正に採点をして下さっている模様。

 横でユーグ皇子がニヤッと笑みを浮かべられた。ちょっと意地悪な笑いに見えたのは気のせいではあるまい。

「身分や家の爵位で偏頗など無きようにと、父上が学長に通達されたからね。正当な結果だよ」

 あっ……。

『一部の教師陣が採点の時に普通学科の大物貴族の子女を不正に優遇することがある』

 私が言った事を皇子は気にしておいでだったんだわ! まさか皇帝陛下にご相談されたとは。

「だからアメリア嬢はもっと誇っていいと思う。やれ武家は野蛮だの平民は卑しいなどと、悪態をついて人を貶める事でしか自分の無力さを慰める術を知らない人達など言わせておけばいい」

「そうだよ。アタシら剣術科は実技もあったけど、一生懸命勉強もしたもの。皇子様や公子様でも努力なさってるのに、親の身分だけでふんぞり返ってるだけの人達におかしいなんて言われる筋合いなんか無いから」

 皇子もミチェラも私に言っているようで、誰かさんたちに聞こえるように大きな声だ。うわぁ、言うなぁ……二人とも。

「その通りだよ。君達が頑張ったのは一緒にいた僕も良く知ってるからね」

 イーサンまで。

 さすがにここまで言われてはもう何も言えなくなったのか、とりまき令嬢達はそそくさと去って行った。まあ、おそらくリリアーナ嬢に泣きつくくらいはするだろうけど、皇帝陛下からのお達しがあった以上は次回からの試験も公正に行われることだろうから、いかに公爵家のご令嬢が異を唱えたとて、覆るとは思えないけどね。

 というわけで、嫌味を言う人達もいなくなったところで、ミチェラ達とハイタッチして喜び合った。

「全員上位だったお祝いをしなきゃね」

 しれっと皇子とハイタッチする瞬間に、さっとイーサンが割って入ったのは、通常運転って感じで逆にホッとした私だった。


「カッコいい! 素敵! ホントにお揃いだぁ」

 ミチェラが私とイーサンを見比べて無邪気に言う。

 前世ではもらったことが無かったので知らなかったのだけど、クラウンを取った学生には、その名の通り小さな王冠の形のバッジが与えられて、制服の襟に付ける事が許される。これは非常に名誉なことで、年に一人出るか出ないか。それがの最初の試験で二人も出たと喜んだ学長が、直々に教室に来て着けて下さった。イーサンの所にもお行きになったみたい。

 クラスメイトと先生に拍手で称えられることなど、前世では考えた事も無い。ものすごく照れ臭かったけれど気持ちよかった。

 というわけで、私とイーサンの制服の上着の襟には共に金色の同じバッジが輝いている。なるほど、イーサンがお揃いだと喜んだ意味が更によくわかったかも。

 約束通り、放課後は学園近くの街で一番高級なお店へ。イーサンが予約しておいてくれた。

「さすがに店ごとは借りきれなかったたから、個室だけどね」

 ……イーサン、普通は貴人用の豪華な広間は個室とは言わないよ。というか、店ごと借り切る気だったのか。

 まあ私は公子様の感覚に慣れているので驚きはしないし、皇子もおいでだからいいんだろう。なんなら前世にこのお店に来たこともある。その時はイーサンと二人っきりで、イーサンはもう卒業していて、私も三年生くらいだったかな。

 本来ならドレスコードを問われそうな格式ある店にも関わらず、制服のままのお子様達ご一行を見ても嫌な顔もせずに支配人自らがテーブルまで案内してくれた。

「い、いいのかな? アタシまでこんなすごいところに……」

 ミチェラが大きな体を小さくして、緊張した面持ちで座っている。貴族でない彼女はこんなに高級なお店は初めてだろう。

「いいに決まってるわ。ミチェラは実技の一位だったんだから」

「でっ、でも。アタシ、マナーなんて知らないし」

 だよねー。私だって前世では大人になってからイーサンに色んな高級な店に連れて行かれたけれど、本来貧乏貴族の質素な生活に慣れているので、マナーとかよくわからなくて緊張しか無かった。ものすごく気持はちわかるわ。

「個室だからそんなの気にせずに、お気楽に楽しめばいいよ」

「そうそう」

 イーサンと皇子に言われて、やっと肩の力が抜けたみたいなミチェラ。

 それより、先程から気になる事がある。予約していたわりに、五人分の席が用意してあるのだ。一人多い? タス様や皇子の従者の方は隣の小部屋で控えている。別室だが従者達もイーサンの計らいで同じ料理が提供されるらしい。彼等で無いとすれば、誰だろうか。

「もう一人、おいでになりますの? どなたですか?」

 イーサンに声を掛けた時だった。

「ゴメン、遅くなった。ってか、置いていくなよイーサン」

 あらこの声は。

 ドアの方を見ると、すらりとした長身の金髪のお姿があった。第一皇子だ。

「わぁ、兄上!」

 ユーグ皇子が驚きながらも嬉しそうだ。

「ザレス皇子も三年生で三位と健闘されたからね。ついでにお祝いしてもいいよね?」

 確かに。万年一位でクラウンのイーサンはともかく、一年とは比べ物にならないほど三年生の勉強は難しい。特に政治経済のコースは一般教養とは雲泥の差だ。そんな中で三位なんて素晴らしい結果だもの。お祝いしないといけないよね。

 でもイーサン、言い方! ついでって酷くない?

「そんなオマケみたいに言うなよぉ。俺も最初から勉強会に誘って欲しかったぞ」

「誘わなくても一人で頑張れたでは無いですか。正直、この面々にザレス皇子までおいでだと目立って仕方がありませんからね。まあ、次からはお誘い申し上げてもいいですけど」

 その通りと言えばそうなんだけど、言い方……まあ皇子相手にそういう冗談も言えるってことは、イーサンと皇子は相当仲がいいという事なんだろうね。

 揃ったところで、ジュースで乾杯。

 ちなみに円形のテーブルの席順は、他の男性と私が隣り合わないように上手く並んでいるのがイーサンの仕事だなぁと納得する。イーサン、私、ミチェラ、ザレス皇子、ユーグ皇子という並び。

「お隣のお嬢さんは剣術科のミチェラちゃんだったっけ? 君には弟と仲良くしてくれてありがとうって言いたかったんだぁ」

 おおぅ。軽い感じだけど、キラキラのいかにも皇子様という見た目のザレス皇子に微笑まれて、ミチェラが赤くなったよ。何だかんだで面食いだもんね、ミチェラは。

「えっと、ひょっとして第三騎士団のバル卿の娘さん? よく似てる」

 あら、皇子はミチェラのお父様を知っておられる? これは意外と思ったのは私だけでは無いみたい。

「父をご存じなのですか?」

「第三騎士団は西離宮の守護警備でしょ? 俺、学園に来るまでは母上と離宮にいたからさ。バル卿にはお世話になったことがあるんだ」

 ザレス皇子も雑談のノリで裏も無く仰っただけのようだし、ミチェラはお父様の話が出て純粋に感激しているけど、ユーグ皇子とイーサンの表情がさーっと陰った。その理由は私にもわかる。

 第一皇子のザレス殿下は正式に皇后様のお子。本来なら文句無しに皇太子として本宮においでのはず。逆に離宮に皇妃とそのお子である第二皇子がおいでなのなら納得の内容なのだが、皇帝陛下が皇妃とその子を可愛がり皇后様と皇子を離宮に追いやっている、騎士団のお世話にならないといけない事態にも遭遇しているという事実は、かなりセンシティブな内容。私も前世を含めて初めて知った事だ。

 第二皇子が優秀というのは間違いは無いけれど、本人にお会いしてみたら難ありという噂とは随分違うなとは思っていた。頭もいいし、性格もとても良さそうなのに……なんか色々思うところはあるけど、これ、今は突っこんではいけないやつだ。

「あ、料理が来ましたよ」

「皆頑張ったお祝いだからね。いっぱい楽しく食べよう」

 ユーグ皇子とイーサンも今は流してしまおうと思ったみたい。

 気を取り直して、ここからは本当にお祝いムードで楽しく食事を楽しむことにした。

 先程の話でドキドキしたけど、皇子二人の仲は悪くは無いみたい。ちゃんとユーグ皇子はお兄様のことを尊敬しているのが伺えるし、ザレス皇子は弟が可愛くて仕方が無い感じ。

 イーサンは同じ歳ということもあってか、どちらかというとザレス皇子の方が気が許せるんだろう。友達というよりはこれも兄弟みたい。イーサンの方が兄貴って感じだけど。

 ふと、ミチェラがテーブルを囲む面々を見てぽつりと私に零した。

「今更だけどすごい面々よねぇ……」

「うん……そうよね」

 ミチェラ、今気が付いたのね。そうだよ、この帝国の皇子お二人に、その従弟のアレオン公爵家のご嫡男だよ? しかも三人ともタイプは違うけどそれぞれかなりの美形揃いだし。そんな方々に囲まれてる歴史だけあって貧乏な貴族と爵位の無い騎士の娘二人……。

 そりゃ貴族のご令嬢達に嫉妬もされるわ、私達。嫌味の一つ二つは仕方ないか、改めて思った。


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