成績発表
放課後、今日も剣術科一年の三人にイーサンを加えた四人で剣術の練習をして、少しだけ早めに切り上げた後、寮の共用サロンの片隅でティータイム。前もって言っておいたので、タス様がお茶の用意をしておいてくれた。
普通学科の貴族達が遠巻きにヒソヒソ言ってるが気にしない。流石にアレオン家の公子様と第二皇子が一緒だと、聞こえるように悪態をついたり嫌がらせで追い出されることも無い。
お茶のお供はエリナが送ってくれた花の砂糖漬け。まずはそのまま。
「甘くて美味しいね。何だか優雅な気持ちになる」
「そのまま食べても美味しいですけど、もっとお楽しみがあるんですよ」
花の砂糖漬けをカップに入れてお茶を注ぐと、ふわりと花の香りが漂うと共に、砂糖が溶けて乾燥していた花弁が瑞々しく開く。
「わぁ! おっしゃれー!」
「これは素敵だ」
ミチェラと皇子もお気に召したみたい。
「美味しくて綺麗なんて最高じゃない」
中でも一番喜んだのはイーサンだった。
「そういえばイーサン様も初めてでしたね」
よくウチに来ていたイーサンにも花の砂糖漬けは出したことが無かったよね。果物の砂糖漬けはたまに出してたけど。
エリナ曰く、これは大人の楽しみなんだって。私も前世、今くらいの歳まで食べさせてもらえなかったし、多分小さい頃はこれの良さがわからなかったと思う。送ってくれたってことは、少しは大人の仲間入りが出来たってことかな。
「しかしエリナは本当に多才だね。パンも美味しいし掃除裁縫なんでも出来て、その上こんな素敵な物まで作れるなんて。アメリアが羨ましいよ」
イーサンの口からエリナを褒める言葉を聞くと微妙な気持ちになる。エリナがイーサンの訪れた後に血を吐いて謎の死を遂げた年まであと三年―――。
「これ気に入ったから、今度作り方を教わろうかな。他の花でも出来るのかな?」
あ、そのセリフ聞いたことがある。その言葉とカップに開いた花を見ていて、何か漠然とした不安を覚えた。何だろう? この感じ……何か大事なことを忘れているような。
「アメリア?」
自分でも知らぬうちに考え込んでいたのか、気が付くと心配そうな顔でイーサンが覗き込んでいた。
「……すみません、ちょっとぼうっとしてました」
「疲れてるんじゃない? 試験対策もいいけど無理しちゃ駄目だよ」
「あ、平気です」
今回はイーサンもすっかりエリナに懐いているから、きっと大丈夫だよね。
まだ三年ある。その間に何か思い出せるだろうから、今はまず目先の試験のことだけ考えよう。
まずは五日後に剣術科の実技試験で、次の日が全校一斉の学術試験という日程だ。
真面目に授業を受けるのは勿論、授業が始まる前と早めに食事を済ませた昼休み、図書室でイーサンに試験に出そうなところを絞ってもらって勉強。放課後は実技試験に向けた剣の練習。たまに息抜きにお茶。そんな毎日。
周りの目ばかり気にしていた前の生では、一度も実感したことの無かった学生らしい時間。仲のいい友達やイーサンと勉強して汗を流して、お茶しながらわいわい話をして。いいなぁ、こういうの。
一緒にいられる時間が増えたからか、イーサンのご機嫌も悪くない。だけど……。
「本当はアメリアと二人っきりだと、もっと嬉しいんだけどね」
こっそり耳打ちするのは忘れない。だけど、そう言うだけでミチェラや皇子を邪険にしないし、一緒に話すのも楽しそう。イーサンも結構ボッチだったもの。前世もだし、学園に入るまではお母上の影響で友達も出来なかったって言ってたものね。今は第一皇子とは仲が良さそうだけど。
一人で勉強や練習をするより楽しいし、絶対にいい結果が出ると思うのよね。
そういえば、第一皇子は仲良しのイーサンを一年の私達で占めてしまったから一人で勉強なさってたのかしら。ちょっと悪い事をしてしまったような気がする。
「よし、四人とも学術試験で成績順一桁代に入ったら、お祝いしよう」
何だかんだでノリノリじゃないのよ、イーサン。
そして数日後。
入学して初めての試験は無事済んで、今日は学術試験の成績が発表される日。
向上心と競争意識を高めるためにと、試験の結果は順位をつけて数日間貼りだされる。と言っても、名前が載るのは各学年全学科を合わせた上位五十位までだけで、以降の者は名前も出ないどころか、長期休暇の最初の数日間の補習が決定する。つまり休みが短くなるって事なので皆必死である。しかも年に四回あるのだ。
これ、前世ではめちゃくちゃ嫌だった。一年の間は毎度補習組で、二年からはギリギリ名前が下の方にある三十位から五十位の間を彷徨っていた。補習を免れていただけでも頑張っていた自分を褒めたい。
ちなみに一部お貴族様の子女は必死になって勉強しなくても、学校側の便宜で二十位以内に名前が書かれるのが通例だったので、押し出された誰かが代わりに補習を受けていたはずだ。
今回はまだ学期が始まってそう経っていないので、そこまで気合を入れる必要は無いのだが、自分も人に言ったように最初が肝心。ここで上位に入って他の生徒や教師側の記憶に残っていれば、後々楽なはず。
対策をバッチリ講じていたのと、イーサンのヤマが悉く当たったのもあって、個人的には完璧だったと思う。一緒に勉強したミチェラとユーグ皇子も手ごたえがあったって言ってたし。それでも結果を見るのはやっぱり怖いものだ。
朝一、貼り出された結果を見ようと生徒達が犇めいている。主に普通学科の生徒達なので、ちょっと入り辛いのもある。
「よし、まずまずの上位だな」
人波から喜んで出て来たのは賢そうな医術科の生徒。
「うわー、名前が無かった……」
「俺も……」
がっくり肩を落として出て来たのは五十位に入れなかった普通学科の生徒達。名前が載っている自信はあるけど、落ち込んでいるのを見ちゃうと緊張するわ。頑張った分、もし下だったら……。
「ミチェラ、代わりに見て来てよ」
「ええ? アタシも怖いよぉ。皇子、代表でヨロシク」
「いや、私もちょっと……」
案外、皇子もヘタレでいらっしゃった。
というわけで、人も多いことだし、こちらは後で他の学科の人が少し引いてから見ようと、ちょっと離れたところに貼りだしてある剣術科の実技試験の結果を先に見に行くことに。
実技は言葉の通り実際に一対一で時間制限のある模擬戦を三試合ずつやり、勝敗関係なく基礎が出来ているか、動きはどうかを先生が見て総合的に判断するというものだった。
「やったぁ! アタシが一番っ!」
ミチェラは実技でトップに名前があってガッツポーズだ。勝敗は関係ないとは言っても全部文句なしに勝っていたものね。すごいわ。
「アメリアもすごいじゃない。二番だよ」
あら、本当だ。私はミチェラにだけ負けたけど、現役騎士のケビン様に教わって来たことと、放課後練習の成果かな?
「私は四番か……」
ちょっとがっかりしているのがユーグ皇子。ミチェラと私、間一人置いてその名前があったから。
いやぁ、四位って充分すぎるくらいすごくないですか? 剣術科の三十六人の内の四位だよ? 私達との間の三位の男の子は一年遅れで入って来てるから年上だし、皇子も一試合落としたのにだよ。
後の二人の女の子達もそれぞれ十位以内にいる。力や体力では男子に勝てなくても、彼女達にはスピードと判断力がある。納得の結果だと思う。
さて。そろそろ嫌でも学科の方の成績も確認しないと。
三年生の順位表の前を通りかかった時、貴族のお姉様達の声が耳に入って来たので足を止める。
「ご覧になって、流石はイーサン公子様。また三年生で一位ですって。しかもクラウン!」
わぁ! クラウンが付くのは全科目で最高点か満点の時じゃなかったっけ? イーサンって本当に頭いいんだ。
「まあ、ザレス皇子も三位でいらっしゃる。素晴らしいですわ」
第一皇子も一人でも頑張られたのね。あんなに軽い感じの方でも頭が良くていらっしゃるのね。
「アメリア嬢、クラウンとは?」
ああ、そうか。ユーグ皇子はご存じないのね。私は学園生活二回目だから知ってるけど。
「満点か、全科目で学年最高点の時に名前の横に王冠がつくそうです」
「そうなんだ! イーサン先輩さすがだな。兄上も三位なんて素晴らしい」
そうユーグ皇子が呟かれた時、私達の背後から、聞き慣れた涼し気な声がした。
「そういう第二皇子も素晴らしい成績ではありませんか。お祝いの約束、達成ですよ」
イーサンだ。私達より先に一年生の成績を見て来たみたいだ。
そうか、全員一桁代ってことなのね。これで安心して見に行けるけど……。
更にイーサンはにっこり笑って嬉しそうに私に言う。
「お揃いだね、アメリア」
「え?」
何がお揃いなのかな?




