贈り物選び
「アメリア、どうしてこんなところに?」
それはこちらが聞きたいのですけど。
「今日はフェリクスの誕生祝いに贈る剣を見に来ました」
「そうなのか。でも幸運だ。偶然にでもアメリアに会えるなんて」
イーサンは本当に嬉しそうに笑った。
本当に偶然だよね? 前世のことを考えたら素直に信じられないのだけど。
最後にデートした時と比べて、今日は随分と地味な出で立ちの公子様。従者のタス様もそうだが、目立たないようにわざと平民の恰好をしている感じだ。ひょっとしてお忍び?
でもどんなに質素な衣服を纏っていても目を引いてしまう美貌、それに気品が滲み出ているというか……特にイーサン。高貴さが駄々洩れてるよ。タス様も従者とはいえ子爵家の次男、貴族らしさは隠せていない。全然忍んでないよね。
「アメリアは誰と来たの?」
イーサンに聞かれて一瞬返答に困った。
……男性と来たと言っていいのかな。ケビン様に危険が及ぶことがあっては……前回も家庭教師だったクリス様含めコーデラ家の方々は無事だったし、今はまだイーサンも子供だから大丈夫だとは思う。それに変に隠し立てするのも不自然だろう。
「今日はこちらのケビン様にご一緒願いました。普段は父の騎士団でご活躍です。私とフェリクスの剣術のお師匠様ですわ」
ドキドキしながら紹介すると、ケビン様は胸に手を当ててイーサンに向かってお辞儀をしただけだった。もちろん正体には気が付いているみたいだが、衣服などでお忍びだと察したご様子。
店主もいるので大きな声で正式に挨拶をすれば公子様だとバレてしまう。瞬時にそう判断して気遣いの出来るケビン様に、イーサンも一目置いてくれたようだ。柔らかい表情が変わらなくてホッとした。
「現役の騎士に師事できるなんてアメリアやフェリクスが羨ましいな」
「イーサン様もこちらに剣を見にいらしたのですか?」
「うん。アメリアを見習って僕もこの頃は毎日練習してるんだよ。でも実用的な剣が欲しいと言っても母上が煩くてね。だから母上が皇妃様のお茶会に行った隙にこっそり出て来たんだ」
ああ。だからそのお忍びスタイルなのね。忍べてないけど。
実用的な、か。そうね、公爵家にも沢山剣はあったものの、宝石の填まった華美な装飾のものや、式典用みたいなのばかりで、実際に使える感じでは無かった。まだこの地点で私はそんなことは知らないはずなので黙っておく。
「僕もフェリクスの誕生祝いは色々考えてるけど、剣は思いつかなかったな。で、贈る剣はどれにするかもう決めたの?」
イーサンに聞かれて思い出した。そうよ、あなたの従者がいま手にしているその剣……。
「丁度良さそうなのが見つかったと思ったのですが、生憎同じ剣をタス様が先にお気に召されたようなので、他のを選ばないと」
割り込まれたのが悔しかったのでやんわり皮肉を言ってみる。私って結構意地悪だな。
案の定、イーサンがそのすごく冷たい目でタス様を睨んだ。
まあいつ見ても見事なくらい私に向けるのと他人に向ける態度の切り替えがものすごい。この温度差……真夏と真冬くらいは違うよね。
絶対零度の視線を向けられ、タス様が震えあがったのは言うまでもない。
「あ、いえっ! 俺が他のを探しますのでっ! こちらは侯爵令嬢に!」
そーっと私に手渡された剣。ゴメンね、ちょっと気の毒だったわ。
とはいえ、手に持ってみると最初に感じた通り妙にしっくり来る。重いけれど、ケビン様も言っていたように使い勝手が良さそうだ。タス様も多分イーサンにと選んだのだろう。だとすれば、彼もなかなかの目利きなのだと思う。
「本当によろしいのですか?」
「どうぞどうぞ!」
そんな私達のやりとりを、ケビン様とイーサンが後ろでクスクス笑いながら見ている。
お言葉に甘えて店主のところへ持って行って値段を聞くと、予算内に納まることが分かったので買うことに決める。プレゼントだと言うと、立派な木箱に入れてくれた。
店主のおじさんは言う。
「お嬢さん、これはいい買い物だよ。今はまだ無名の若い刀鍛冶の作だが、彼は絶対に有名になって、名だたる騎士が彼の剣を欲しがるようになるだろう。長いこと色々な武器を見て来たおじさんが言うんだから間違いない」
それはすごいわ。やはり沢山の剣の中で目を惹いたのは伊達では無いのね。ますますゴメンね、タス様。
お詫びと言っては何だし、私は何もしていないのだけど、現役騎士のケビン様がイーサンの剣を選ぶのを手伝ってくださった。
イーサンはケビン様が見立てたものを幾つか実際に持って振ってみて、最終的に金色の柄の細身の剣を選んだ。ちなみに名工の作だそうで私が買ったものよりうんと高い。
前世ではイーサンは学園の課題で出る最低限しか剣術に関わらなかった。公爵家には護衛の騎士も沢山いるから。でも、今ちょっと構えて振っているのを見ただけでも、なかなかさまになっていると思う。一生懸命鍛錬しているのはホントみたい。
これも前回と変わった点だと思うといいことなのだろうが、出来ればあまり強くなっていただかない方がいいんだけどな。
そんな私の思いをよそに、男性陣は思いがけないことを言い出した。
「公……イーサン様も、よろしければ今度ドレストル家で一緒に稽古をいたしましょうか」
ちょっ、ケビン様? 何しれっとお誘いしちゃってるんですか!
「嬉しいな! 父上も母上も僕が剣術をやるのをあまり歓迎しなくて」
イーサンはめちゃくちゃ嬉しそうだ。タス様がこっそり教えてくれたところによると、先生もつけてもらえないので、二人で隠れて練習しているらしい。
……ちょっと可哀想な気もする。そうね、一緒に稽古くらいはいいかな。フェリクスは喜ぶだろう。
どちらの組も目的の剣を手に入れて、一緒に武器屋を後にした。
あー、そうそう。ウチの分までイーサンがお金を払おうとしたのは謹んでお断りしておいた。払ってもらったら私からのプレゼントにならないもの。
「では明日、フェリクスの誕生祝いの席でお待ちしておりますね」
そう挨拶して、名残惜しそうな顔をしたイーサンに今日はあっさりお別れ出来た。
良い方に進んでいるのよね? そう信じたい。
「フェリクス、喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくださいますよ」
ケビン様も推して下さったので、明日渡すのが楽しみだ。
イーサンはいったいどんなプレゼントを選んだのかな?
初めてのお誕生日パーティ、楽しいといいね。




