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エッセイ 2

仕事を辞めた話をしたら『きゃあ、ステキ』とちょっとモテた件

作者: NOMAR

(* ̄∇ ̄)ノ 奇才ノマが体験を述べる。


 ゴールデンウィークが終われば五月病のシーズンがやってくる。

 新社会人は新たな職場に慣れ、勤める会社のいいところも悪いところも見えてきた頃ではないだろうか。思ってたのと違う、辞めようかな? という人もいるのではないか。


 仕事を辞めた、という話はマイナスイメージがつきまとうもの。私も仕事を辞めたときは家族、親戚からは、


「こらえ性が無い」

「仕事が辛いのは当たり前だ」

「社会を甘く見ている」

「根性無し」


 と、いろいろ言われたものだ。

 今は退職代行サービスなどがあり、かつてより円満に仕事を辞めることができる世の中になった。良いことだ。


 厚生労働省の調査では、2016年3月に大学を卒業して就職した新卒社員のうち、3年以内に仕事を辞めてしまう人は32%。


 バブル崩壊の翌年、平成4年がもっとも離職率が低く、23.7%。

 離職率が高くなったのは平成16年の36.6%。

 30年前から離職率は3割前後で推移している状態が続いている。


 私はと言えば仕事を辞めた回数は多い方だろう。リストラや勤める会社が潰れたなどもあるが、やってられるか、と自分から辞めたことも多い。

 店長にカルトの入信を勧められたり、社長に怪しいセミナーの入会を勧められたりしたこともある。

 こういう話をすると友人からは、


「お前の現実にはリアリティが無い」


 などと言われる。どうやらノンフィクションとはリアリティが足りないものらしい。


 そんな自分が仕事を辞めた理由とその職場に起きたことを、多少おもしろおかしく話してみたら『きゃあ、ステキ』とちょっとだけモテたことがある。


 仕事を辞めるかどうかと悩む人は、あとあと話のネタになるかどうか、という視点で見ることも、現状を冷静に客観的に分析できるのではないだろうか?

 ときには仕事を辞めたことが、エライと褒められることもあるのだ。


 では私が仕事を辞めた理由を語ろう。これは人に話すとわりとウケる。

 それは、上司のストーカーだ。


◇◇◇◇◇


 その会社でバイトとしてそこそこ長く働く私は、その職場を仕切ってパートのおばちゃん達に指示を出すような立場であった。

 ある日のこと、新しく入ったパートのおねえさんから相談を受けた。


「上司がストーカーしてきて、気持ち悪い」


 と。

 あの問題上司、なにしてんだ? 

 そのパートのお姉さんと話をし、その人の車で一緒に帰ることにしてみた。

 パートのお姉さんの家に向かう間、助手席から後ろを見ればピッタリと上司の車がつけていた。うむ、これは気持ち悪い。


 あの上司、アホか?

 あぁ、アホだったか。じゃあ仕方無いか。

 そこには40手前の係長のオッサンが、職場の部下の女性の仕事帰りをねちっこく付け回すという奇妙な光景があった。

 というか、私の直属の上司だった。


 パートのお姉さんの話を聞くと、休日に電話で呼び出されて誕生日プレゼントを渡されたこともあるという。

 世の中にはそれが許されるキャラと許されないキャラがいる。このクソ上司は許されないキャラに分類されるだろう。こういうのもゆるキャラと言うのだろうか。


 それで私は職場で、このパートのお姉さんを地味に上司から守るようにした。たまに一緒に帰るなどもして。


 おっと、物語ならこれでパートのお姉さんといい感じになるのかもしれないが、これはノンフィクションだ。そのお姉さんが狙っている本命は私では無い。

 彼女の本命はその会社の正社員だ。私には、その人に付き合ってる人がいるかどうかなど訊ねてきたりした。しっかりしている。


 そして問題の上司は、楽しいストーカー行為を地味に邪魔する私が気にくわないらしく、仕事に必要な連絡が届かなくなる、そこで起きるミスが私の責任になるなど、地味に仕事がやりにくくなっていくように。

 いい加減やってられるか、とその上司のストーカー行為を他の社員にバラして私は仕事を辞めた。

 その頃にはパートのお姉さんは、出社しようとすると気持ち悪い上司への嫌悪感から吐き気を覚えて、身体が出社拒否になってしまっていた。


 このストーカー事件がトドメとなって私は仕事を辞めたわけだが、その前からこの上司への不満を溜め込んでいた。かなりストレスだった。


 以降、仮にこの上司のことをクソ上司と呼ぼう。


■報連相


 そこの会社にバイトとして働き始めてから、現場と事務の連絡役というのが私の仕事のひとつだった。

 事務所が少し離れており、書類や小荷物を運ぶ必要があったため電話というわけには行かない。


 だが、こういう連絡役こそ現場を把握している者がするべきではないか? ちょっと荷物を運ぶついでに事務方と話をする。事務方が現場の様子を聞いたりとかあるだろう。

 そういうのを勤め始めたばかりのバイトに任せるものだろうか? 

 と、私は疑問を感じていた。


 ある日のこと、その疑問が解明した。

 そのクソ上司、いわく。


「俺、事務の人間に嫌われてるからさ」


 子供か。嫌われてるとか関係無く、仕事で必要な連絡くらいしとけ。この上司、大丈夫なのか? 

 事務に嫌われてる理由も後に判明する。

 事務から書類を受け取り内容を見る。製品の出荷指示でいつもの仕事ではあるが、そのうちひとつに問題発生。

 私は事務に、


「あの、この製品、もう在庫が無いですよ」


 最後の在庫を出したのが自分なので憶えていた。その場で報告すると事務の人は、え? と疑問顔。


「いや、残り少なくなってはいるが、まだある筈だ」


「いえ、もうありません。在庫ゼロです」


「なんで? こっちの数字とズレてる」


 たぶん、アレだな。


「この前、本社の営業が来て、見本が欲しいって言ったので上司が『ハイ、どうぞ』と渡してましたね」


「……チッ」


 舌打ちだった。ちょっと怖かった。


「またアイツは勝手に……」

  

 また、だった。前もやらかしてたらしい。

 だが今回はバイトの私が仕事しながら横目で見てたので、前とは少し違ったらしい。

 目撃者がいて事務に話したのが、前のときと違ったようだ。


 事務から子会社の社長に話が行き、子会社の社長から本社にまで届いた。

 これで本社の営業はどうなったか分からないが、問題のクソ上司は社長に怒られることになる。


 その後、クソ上司はどうしたか?

 バイトの私を倉庫の片隅に呼び出してこう言った。


「オマエ、なにチクってんだよ!!」


 諸君、これが日本の中小企業の係長だ。

 40手前のいい歳したオッサンが、雑な在庫管理で社長に怒られて、これからは怒られないようにどうするかと頭を捻り、出てきた行動が。

 バイトを倉庫の片隅に呼び出して、なにチクってんだ? と脅す、だった。

 小学生か? いや、これが身体は大人、頭脳は子供、心はいつまでも思春期、迷ダンディ困難、という奴かもしれない。

 これはまたイカれた上司に当たったものだ。


■主人と奴隷の弁証法


 主人と奴隷の弁証法とは、ドイツの哲学者ヘーゲルの『精神現象学』の中のひとつ。


 人間が自由で自立的な存在であるためには、他者からの承認が必要である。

 そこで人々の間で相互承認を求める闘争が生じる。

 主人と奴隷という関係では、奴隷は労働し、主人はその利益を享受する。

 だが奴隷は労働を通して苦労し、困難を克服し、自己を形成し自立する。

 その間、主人は消費に没頭するだけで労働による自己形成ができない。

 主人の生活は奴隷に依存するばかりとなり、奴隷が自由と自立を獲得していくのに対して、主人は自ら喪失していく。

 自立していると思っている主人は客観的には自立を喪失しており、逆に奴隷は自立していないという意識のもとで、真理においては自立的となる。

 この真理が明らかになるとき、主人と奴隷の立場は入れ替わる。


 このヘーゲルの主人と奴隷の弁証法とは、夫婦関係でも見られるというが、私はこのバイトで体感として理解したように思う。


 使えない無能な上司のもとで働くのは苦労した。


「今日は定時で終わりだから五時半までに終わらせろ」


 と、クソ上司は言うだけ言って、本人は愛車をキュッキュと磨き出したりする。なにやってんだこのクソ上司、仕事しろ。

 いやまて、コイツが仕事に手を出したら逆に定時で終わらないから、ほっといて車磨かせておこう。その方がマシだ。


 その現場では荷物を運ぶ腕力、体力のあるのが自分1人だけなので、物が何処にあるかを把握するのも自然と私が一番理解することになる。

 パートのおばちゃんに仕事を割り振りして、


「よろしくお願いします」と言えば、


「ノマさん、たいへんねえ」


 と、同情された。私の苦労を近くで見ているパートのおばちゃん達は協力的で、とても頼りになった。クソ上司のおかげで信頼を得たとも言える。

 結果、辞める前にその部署のほとんどのことを把握していたのは私だろう。

 パートの人達もクソ上司に聞くより私に聞くようになっていたし。事務方と在庫の確認をするのも私がするようになっていた。


■アットホーム


 この職場でもそうだったが、無能で嫌われる上司がいるところほど、従業員の結束が固く仕事のできる人が多いと私は思う。

 上司がダメダメであればあるほど、自分たちで何とかしよう、となるのだろうか。


 求人広告などで、アットホームな職場です、というところは上司が無能でダメダメなところが多い気がする。

 上司が仕事のできる人で真にアットホームな会社ならば、人手不足となれば従業員から、


「私の親戚が仕事探してるんですけど」


 と、知り合いや友人を引っ張ってくる。会社としても求人広告を出すなどの経費を抑えて人を雇うことができる。


 これがアカン職場でアットホームな従業員達だと、


(こんな職場、友達に紹介したら私が友達無くす)


 となる。そして会社は求人を出す。

 アットホームな職場、という求人は危険な香りがするので気をつけた方がいい。


■一応、フォローしとく。


 このクソ上司は直接関わるとストレスの溜まる人物だが、関わりの無いところから見てみれば実におもしろいキャラクターだろう。

 部下からの信頼度はゼロ。

 にも関わらず、


「俺はリーダーシップがあり人を仕切るのが上手い」


 と、自慢していた。ついてくる部下は1人もいないのに。

 根拠の無い自信は揺るぎ無く持っていた。端から見る分にはかなりおもしろい生き物だろう。


 本社からは評価されているようで、ストーカー事件のあとも降格も退職も無く勤めていた。

 本人は本社の営業になりたいのでゴマを摺ってはいるが、本社の営業からは見本が欲しい時など、くれと言えば、はいと直ぐに持ってくるので都合がいい人物だった。在庫のことも有耶無耶にしてくれるし。

 その部署に置いておくのが都合良く使える、というもので、当人が本社の営業になるのは無理だろうが。

 

 こうして私はストレスを溜めつつ、仕事を効率よく回すためにだんだんとクソ上司を蔑ろにするようになる。相手をするだけ時間の無駄なので。

 パートのおばちゃんの話を聞き、仕事をしやすいように職場のレイアウトを勝手に変えたりなど。

 クソ上司が、もとに戻せ、と喚き出す前に課長に現場を見てもらい課長の許可をとるなど。

 クソ上司は言うことを聞かないバイトに不満を感じていたようだ。


 その不満を解消するのに始めたのが、上記のストーカー行為だったのかもしれない。


■話のネタ


 こんな感じで、クソ上司のストーカーからパートのお姉さんを守ったら、仕事がやりにくくなり責任を押し付けられて、いろいろと嫌になって、最後はクソ上司以外の正社員に暴露して辞めた。

 これを多少おもしろおかしくなるように話してみると、ちょっとだけモテた。


■クソ上司ガチャ


 世の中にはいろんな人がいるもので、私が聞いた話の中にはまだまだ酷いクソ上司という者がいた。


「なんで俺のミスを俺が始末しないといけない! お前がやっとけ!」 


 とキレる上司とか。ここまでヒドイと一周回って逆にカッコいいくらいだ。


 飲み会で、小学生のとき柔道をやっていた、と発言したばかりに職場でイジメられるようになったとか。

 これはおそらくだが、その職場の上司が小さい頃にでも柔道をやってた人にイジメられた経験があったのではないか。

 大人になり職場で権力を使えるようになったとき、新人にかつて柔道をしていたものが入ってきた。その上司はかつての復讐にと柔道経験者に嫌がらせをする。職場の従業員はその上司に乗っかってイジメを始めたのだろう。


 他には、仕事を辞めたあとに会社に預けた印鑑を返してもらえない。

 返して欲しいと頼むと、


「なぜ、会社を辞めた奴の印鑑を返さないといけない?」


 と、まともに取り合ってもらえない。

 その人は思い詰めて、夜中に無人の会社に侵入して自分の印鑑を取り返した。

 後日、その会社から、


「窃盗で訴える」


 と脅される。夜中に侵入したのは問題かもしれないが、自分の印鑑を取り返した窃盗というのは初めて聞いた。


 また、私の親戚で高齢の人が言うには、


「昔は会社の社長が丁稚奉公に可愛い子がいたら、手を出して孕ませるとか普通にあったもんだ。それが上司に犯された訳でも無いのに、上司が気に食わんから仕事を辞めるとか、お前は我慢が足りん」


 と、仕事を辞めた私に説教したものだ。

 昔の常識を持ち出すな、今とは時代が違う、と反論しておいた。


 私のクソ上司ガチャが霞むようなスーパーレアが、世の中にはまだまだいるらしい。

 このエッセイを見て、俺のクソ上司の方がもっと酷い、いやいや私のクソ上司はクソ上司オリンピックがあれば金メダルだ、という人もいるだろう。


 吐き出してスッキリしたいときは、このエッセイの感想欄にでも書いてみてはどうだろうか。

 クソ上司ガチャ自慢。どのクソ上司がウルトラレアか、レジェンドか、ブルーアイズホワイトなんとかか、と競ってみるのもおもしろそうだ。



 そして、ひとしきり笑ったあとは気持ちを切り換えて、次に進もうではないか。



BGM

『空想ルンバ』

大槻ケンヂと絶望少女達

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― 新着の感想 ―
[一言] ストーリーが具体的でとても分かりやすいうえに、主人と奴隷の弁証法という知らなかったことも知れて大満足なエッセイでした。 面白かったです(*´ω`*) クソ上司はどこにでもいると思っていまし…
[良い点] そもそも上司や正社員が偉いわけでもないですからね。契約のスタイルが違うだけですし(笑) なるほど、私の上司は逆の意味でレアなのかもしれませんね(*´艸`*)
[良い点] 大変でしたね! クソ上司は1人見つけたらもう30人いそうですね!
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