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【短編集】「私は、何もしていません」エレナの物語

それは、私ではありません

ここは王立ストアール学園。

この学園は "貴族平民、学園内では、みな平等"の理念のもと、現国王発案で設立された学園だ。


親が決めた子の望まぬ政略結婚を否定し、恋愛結婚を推奨している。


通称、恋愛学園☆の物語。

「クライシスに、ハンカチを送りつけたのは貴方ね!」



 ランチに行く準備をしていたら、綺麗な巻き髪の可愛いご令嬢に目の前で呼び止められた。



「それは、私の事でしょうか?」


「そうよ!クライシスがピンクの髪の令嬢だって言ってたもの」



 最近どこかで聞いたような言葉だった。

 ピンクの髪だけで私だと断定しないでほしい。



「他の特徴を、何か聞いていますか?」


「目が大きくて、多分一般的に可愛い感じの、ピンクの髪の令嬢。って言ってたわ!貴方の事でしょ」



 これは褒められたのかしら?

 面倒だけど誤解を解かないといけないわね。



「私は、クロニア男爵家長女のエレナと申します」


「イステリア伯爵家長女のアリアーネよ。これを見て、貴方がクライシスの席に置いたのよね?」



 そう言って、彼女はハート柄の袋を私に押し付けてきた。中には、緑のチェックのハンカチとカードが入っていた。


 ◆◇◆


 クライシス様


 私のハンカチを拾ってくれて、ありがとうございました。

 お礼に素敵なハンカチを見つけたので贈ります。


 普段無表情な貴方が見せてくれた笑顔の意味。

 何も言われなくても、私は分かっています。

 また会いに行きますね。


 あなたのエレより。


 ◇◆◇


 と、書いてあった。

 エレで止めないで、私の愛称と同じで何か嫌だ。

 名前はちゃんと書いてほしい。


 でも、やっぱり彼女だったわね。

 エレーナ・アズロニア男爵令嬢。

 私と似た顔と髪色を持つご令嬢、実はかなり遠い親戚なんだけど、面識はないので他人でいいと思うの。


 ピンクの髪と言っても、濃淡が全く違うのよ?

 彼女は濃いストロベリーピンク。

 私は淡いベビーピンク。

 目の色も、彼女はピンク、私は濃いグリーン。


 よく見れば違うと分かると思う。

 でも、彼女があまりにも非常識なので、見ていられないのかもしれないわね。



「それにしても、酷い文章ですね」


「ピンクの髪の"エレ"って、貴方の事じゃないの?」


「それは、私ではありません。これを私が書いたと思われるなんて……耐えられません」


「そうよね、普通の人なら耐えられない文章よね。これを見た時、鳥肌が立ったわ」


「分かります。これを書いたのは、第八クラスのエレーナ・アズロニア男爵令嬢だと思います」


「そうなの? 第八は校舎が違うから分からなかったのかしら。ピンクの髪の令嬢を知ってるか、って皆に聞いたら、第一 クラスのエレナ様だって言われたから……。

よく確認もせずに責めてしまったわ。ごめんなさい」


「気にしないで下さい、最近間違えて私の所に来てしまう方多いんですよ」


「ありがとう。それにしても、ハンカチを拾ってもらっただけで、こんなに勘違いできるなんてスゴイわね」


「何も言われていないのに、相手の気持ちを決めつけてますね。分かってるって何をでしょうね?」


「本当に!エレナ様、よかったら話を聞いてもらえる?困ってるのよ」


「ランチを一緒に食べながらでよければ聞きますよ」



 私達は中庭に移動した。

 私は家からお弁当を持って来ている。

 アリアーネ様は、食堂でサンドイッチを作ってもらっていた。

 椅子に座ると、アリアーネ様は勢いよく話し出した。



「それでね、手紙やハンカチを贈って来るの、これで三回目なのよ」


「これを、三回もですか?」


「クライシスは私の婚約者なんだけど。最初の時は、彼に突然手紙を押し付けて、一人で話すだけ話して帰って行ったから、何も言えなかったらしいのよ」


「断る隙を与えず去って行ったんですね」


「その後は、手紙の事が気になって、私が彼とずっと一緒にいたから、直接渡すのは諦めたみたいなんだけど」


「それで、二回目以降は机に手紙が置いてあったんですね」


「いつのまにか置いてあるのよ?怖いわ」


「何とかしたいですね」



 目の前で独り言を聞かされたクライシス様、お気の毒に。

 もはや恐怖の手紙ですね。

 何か回避できる方法はないかしら?

 二人で難しい顔をして考えていると、アリアーネ様が声をかけられた。



「アリー、大丈夫?」


「クライシス!大丈夫よ。今エレナに相談していたの」



 クライシス様はエルスタ公爵家の長男だそうです。

 エレーナ様は、ずいぶん無謀な挑戦をしているみたいですね。



「エレナ嬢、アリーの話を聞いてくれてありがとう」


「いえ、私もアリアーネ様とお話しできてよかったです」


「今あの手紙の事を話し合ってたの」


「アリー、ありがとう。でも、次に会ったら僕がちゃんと断るから大丈夫だよ」


「でも心配よ」


「心配してくれ嬉しいな」


「当たり前でしょ、婚約者なんだから」


「うん、大好きだよアリー」



 私は、何を見せられているんでしょうか?


 でも、お互いを想い合う姿は素敵ね。

 これがストアール学園が求める恋愛婚約の理想の姿なのかしら。

 どこをどう見ても、エレーナ様が入り込む隙間はないと思うんだけど、クライシス様も幸せそうに微笑、ん、で?!

 もしかして……。



「クライシス様、エレーナ様のハンカチを拾った時に、アリアーネ様の事を思い浮かべませんでしたか?」


「そういえば、拾ったハンカチに猫の刺繍がついていたから、アリアーネが好きそうだな、と思ったよ」


「それです!それが原因で彼女は、クライシス様が自分に笑顔を向けてくれたと勘違いしています」


「そんな事で?」


「普段笑顔を見せないクライシス様が、私だけに笑顔を見せてくれた、私の事がきっと好きなのね!って彼女は思っていると思います」


「どうすればいいのかしら?」


「簡単ですよ、お二人でエレーナ様の所に行って、手紙とハンカチを返して来ればいいんです」


「それで諦めてくれるかしら?」


「クライシス様がいつも通りアリアーネ様とお話ししている所を、目の前でエレーナ様に見せれば誤解は解けますよ。第八クラスまで行って話すと、より効果的だと思います」


「わかったわ、やってみましょう。エレナ様、話を聞いてくれてありがとう。また一緒にお話ししましょうね」


「ありがとう」



 そう言って、二人は第八クラスに向かいました。


 普段は、無口で無表情なクライシス様が、饒舌で笑顔になるのはアリアーネ様の前でだけ。

 それを見せられたら普通の人はすぐ間違いに気づくだろう。


 でも、エレーナ様は普通じゃないから……。

 まあ、第八クラスの人達の目があれば、無茶は出来ないわよね。



 私はあまり自分の恋愛には興味がないけど、あんな風に想い合える人がいたら……。



 その人なら、私と一緒に居ても大丈夫なのかもしれない。

読んでいただき、ありがとうございました!


実は、この話に出てくる、クライシスとアリアーネ


なろうラジオ大賞3

に応募した作品。

☆婚約者に「鏡を見てから、出直してきてくださる?」と言われたので…


☆婚約者に「鏡を見てから、出直してきてくださる?」と言ってしまうのです…


に出てくる、二人なんです。

この時は、まだ名前が付いていませんでした。


幼馴染から婚約者になるシリーズと

エレナは、これから絡んでいきます(*'▽'*)

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― 新着の感想 ―
[良い点] またまたトラブルメーカーにやられましたね。 エレナも災難です。 エレナとエレーナって名前までほぼ同じですもんね。くぅ~。
[良い点] えーえー、そこで終わるのですか!? 続きが気になる引きです。 もう短編で収まらない素敵なお話。 エレナは、とても魅力的な主人公ですね。
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