『願いの書』
さぁ、何を記そう。
ここには、書けばその書いた願いが叶う魔法の書。
あなたは、その書に何を記しますか?
書いた自分の願いが叶う、そう、一見すれば夢のような最高の書。
さぁ、ここに記そう。
あなたの願いを!そして欲望を!!
これは、欲望の先にある哀れな物語。
そして、この書『願いの書』は、一人の男の子のもとに届く。
今回は、その一人の男の子のお話。
ピピ..ピピピ…ピピピ…ピピピピピピピ……
「んん…」
うるさいアラームの音で、目が覚める。
午前五時半、ずいぶん早い時間だが、これでいい。
筋トレをすると決めたんだ。せめて、今日までは続けたい。
閉めていた窓を開け、朝の空気を取り入れる。
俺はずっと好きだったあの子に、今日、告白をする。
あの子は、俺のことをどう思っているのだろうか。それは、分からない。
ただ、あの子もきっと、俺のことが好きなんだと、自分に思い込ませる。
少しでも格好よく見えるように、3日前から始めた筋トレを、今日は昨日よりも時間を増やすことにした。
「ふうっ……」
一時間半の筋トレを終え、時間は7時を少し過ぎたくらいになっていた。
1階に降り、洗面所で顔を洗う。いつもより多めに、20回くらい。
歯磨きも、いつもより長く磨き続け、顔のひげもしっかりと剃る。
一通りの身支度が終わって、寝間着から制服に着替えた。
もう心臓がドキドキしている。あの子のことを考えると、いてもたってもいられなくなる。
学校に着くと、あの子はすでに教室で着席をしていた。
あの子の席まで歩いて行き、今日の放課後に屋上で会いたいとだけ伝える。
それだけ言って、俺は逃げ去るように自分の席へと戻る。
あの子は、今の言葉できっと、俺からの告白を察しているだろう。
だからこそ、あの子の方を見るのが怖くて、そしてなぜかとても恥ずかしくて、気づけばあっという間に放課後になっていた。
先に屋上に行き、彼女が来るのを待つ。だが、彼女はなかなか現れない。
4時半・・・あの子はまだ来ていない。だが、何か先に用事を済ましているのだろう。特に何かを思うことはなく、ただあの子を待った。
5時半・・・あの子はまだ来ていない。なぜ来ないのだろう。そう思いながらも、あの子を信じてまだ待つことにした。
7時半・・・あの子はまだ来ていない。どうやら、朝に伝えた事が伝わっていなかったらしい。学校はすでに完全下校時間を過ぎていた。
肩を落とし、俺は諦めて帰ることにした。どこか虚しくて、気晴らしにバッセンに寄ろうと決めながら。
だが、俺はその選択をこの後すごく後悔する。
静かな夜道を自転車で走る。バッセンには、10分ほどで着いた。
自転車から降り、鞄を肩に背負う。
告白のことで頭がいっぱいで、予定を合わせず適当に突っ込んで、いっぱいになった鞄が強く肩に食い込む。
まるで、俺を引き留めるかのように。
しかし、そんな事は気にせずバッティングセンターの入口へと足を進める。
そして、見てしまった。
情熱的なキスをするカップル。
それがただのいちゃついているだけのカップルならまだ良かった。
ただ、その情熱的なキスを交わしていたカップルは、二人とも見覚えがあった。
確か、同学年で、バスケ部キャプテンの男子。それと、俺が、今日、待ち続けた、あの子だった。
途端に目の前が、真っ黒になった。あの子にはきっと、今日の朝、俺が言ったことは伝わっていたのだ。ただ、あの子には彼氏がいて、朝の俺の言葉で告白だと察して、わざと来なかったのだ。
残酷だ。悲惨だ。別に気が無くても、断りに来るくらいするだろう。しかし、あの子は来なかった。
要するに、俺など断る事すら面倒くさい相手なのだろう。
ああ!でもあんまりだ。俺がどれだけあなたのことが好きだったのかを、一片も伝えることができないなんて!
ああ、そう考えると腹が立つ。これは、ただの被害妄想かもしれない。あの子は本当に、今日の朝の事が伝わっていなかったのかもしれない。
でも、確実に伝わっていたと、そして、彼女はその上で来なかったのだとなぜか頭が確信してしいる。
ああ、とても憎い!
なんで、あの子の横に立っているのが自分ではないのか。
どうしようもなく邪悪な独占欲が溢れだす。
自分のことが好きじゃなくても、彼女が欲しい。
思考がそれで埋め尽くされる。
そして、一冊の本を抱えていることに気づく。
それは、赤黒色の辞書のように分厚い本だった。
タイトルは無かった。
なぜこんなものを手に持っているのかなどを考えずに、何かに導かれるように、本の表紙をめくった。
そして、1ページ目にあったのは、『願いの書』と書かれた文字と、その下に、書けばその書いた願いが叶う魔法の書と記してある。
普段だったら馬鹿馬鹿しいと笑って捨てているだろう。
だが、こんなものに頼りたくなるほど、その時の俺の精神は荒んでいた。
試しに何かを書いてみようと、書くものを探す。
そして、鞄からペンを取り出し、その本に書き記した。
今から3分後に雨が降る、と。
そして、本当に3分後に雨が降った。
そこで、俺はやめておけばよかった。
だが、本当に、願った事が起きると、完全に信じた俺は震える手で、また、記す。
あの子は、俺のことが好きになる。
俺と付き合う、と。
そう記した。醜い独占欲だ。分かっている。
そして、どうなったかはまだ分からないが、一旦家に帰った。
明日、この書に書いた願いが叶っていると信じて。
この書に効果がなかったとしても、少なくとも明日まではまだ、平静を保っていられるから。
そして、地獄はこの日から始まる。
翌日、教室に入ると、あの子がいた。
俺が入ると同時にこちらに飛びついてきた。
俺と付き合いたいと言ってくれた。俺の事が好きだと言ってくれた。俺の事が好きだと言ってくれた。俺の事が好きだと言ってくれた。
あの書は、ホンモノだった。
だが、この時の彼女の顔は、なぜか憔悴しきっている様子だった。
しかし、俺はそんな事には気づかなかった。
あの子は、今日の途中で早退をした。ただの体調不良かもしれない。
しかし、心配になったのでお見舞いに行くことにした。
これからの彼氏として。最高な君との日々を願って。
放課後に、あの子の家を訪ねる。
お見舞いに、綺麗な黄色のバラを持って。
あの子の家に着くと、玄関のチャイムを押した。
しかし、誰かが出る気配がない。
玄関には、一つ、元気に青紫色のスイレンが咲いていた。
もう一度、玄関のチャイムを押す。
やはり、誰かが出てくる気配はない。
居ないのかなと思って、ふと、何気なく、玄関の扉を引っぱる。
すると、鍵はかかっていなかったらしく、きぃ、と乾いた音を立てて扉が開いた。
家の中には、色々な花が飾ってあって、花のニオイで充満していた。
そっと足を踏み入れ、勝手に家に上がる。一番花のニオイのする部屋に歩いてゆく。
するとそこには、あの子の部屋があった。ドアプレートに彼女の名前が書かれていた。
躊躇なく、ドアを開け、その勢いのまま、お見舞いに持ってきた花をかかげる。
そして、男の手から花が落ちた。男は膝から崩れ落ちた。
そして、その後、男は死んだ。自殺だった。
窓から吹き込んだ風がハラハラと赤黒色の本のページをめくっていく
そして最後のページ
「願いはなにをもって叶ったというのか、形さえ整えればそれは叶ったのだ」
本はパタリと閉じた
End
ジャンル何に設定したらいいのかよく分からなかったのでちょっと適当です。