僕が人間を辞めた理由
残酷な描写、胸糞展開あり。
それでも良いと言う方はゆっくりしていってね!
あぁ。この世界はつまらない。
「おい!サボるんじゃない!手を動かせゴミ共!」
うるさいな。
どうやら同じ作業を担当する同僚がミスをした様だ。
豚の怒号が飛ぶ。
「貴様ら!ノルマを達成出来なければ連帯責任だ!この班員のメンバーは全員飯抜きだからな!勿論終わるまで残業だ!」
はぁ、またか。
まあ、良い。
別に飯抜きなんて慣れた。残業も、
たった少しの休憩時間が無くなるだけだ。
寧ろ体を動かさない時の方が落ち着かない。
だが本当に慣れないのは……
「おい!誰だよざけんな!名乗り出ろや!」
「ッチ!クソが‼︎」
バキッ!
「ってえなぁっ‼︎ンダてめえ⁉︎」
「ミスしたのテメェだろクソ野郎‼︎」
「あぁ⁉︎お前こそ誤魔化してんじゃねぇぞ‼︎」
いつもいつも……
飽きないか?
いつまでそう喚き散らすつもりだ?
そのせいで明日の仕事にすら影響が出るのに。
あぁ、本当にうるさい。
…はぁ、どうせいつもの如く此方に飛び火するのだろう。
「なぁ!テメェがサボったんじゃねぇだろうな⁉︎」
「……」
「なんとか言ったらどうなんだぁ‼︎」
男はそう怒鳴り散らし、大きく手を振り上げ、拳を振り下ろす。
ほぅら。
こんな事があった時、こいつ達は飽きもせず《犯人探し》とやらを行う。
犯人とやらを見つけてどうなると言うんだ?
ボコって自己満足して、仕事は進まず滞り、体力不足の奴が倒れたら、また連帯責任とやらでその犯人をボコって……
意味もなければ効率的でもなく、
少しは我慢という物を覚えないのか。
そんな事を考えながら、今日も理不尽な暴力に耐えるしかない。
仕方がない事だ、生まれ持った体格という物は覆しようがない。
ましてや自由時間も無く、飯抜きなんて当たり前の、この奴隷の世界じゃ、鍛えて反撃なんて夢のまた夢。
そして、そんな現場を目撃している豚野郎はなぜか傍観して止めようとしない。
なんでだ。一人いなくなるのは確かな損失の筈だ。
例え端金で埋められる様な穴でも、無いなら無い方が良いに決まっている。
そんな思考に思わず笑ってしまう。
「あぁ⁉︎笑ってんじゃねえぞテメェ‼︎」
バキッ‼︎ボキッ‼︎
きっと彼等は恐れているのだ。
こんな荒事に首を突っ込めば、いくら護衛がいるからとは言え、一発くらいは貰ってしまうかもしれない。
そんなのは嫌なのだ。
我が身が可愛い彼等からしてみれば、自分の僅かな被害より、他人の死…いや、一奴隷の死の方がまだマシだと。
はぁ……本当に……本当に…
「オラァ!死に晒せよ‼︎」
この世界はつまらない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな毎日を、明日も、明後日も、死ぬまで続く物だと思っていた。
いや、諦めていた。
そんな時だ。
僕に転機が訪れたのは。
まあ転機というかきっかけというか…そんな感じだったんだけど。
ジリリリリリリ‼︎
「起きろゴミ共!」
ガバリ!と勢い良く起き上がる。
そのまま、敷いた藁を強く踏み立ち、既に少々出来ている列に加わる。
この起床が少しでも遅れると豚の反感を買う為、皆んな必死だ。
「いない者は!」
「いません!」
そう先頭の奴が言う。
見もしないくせに抜け抜けと…
この時、もし寝坊している奴が見つかったら、いないと言った者では無く寝坊した者に罰が課される。
勿論、いないと言ったものが生意気な奴だったり別嬪な奴だったりしたらその限りでは無い。
いると言った場合?
有難い教育的指導が待っているだろうよ。
だが、いないと言った奴にそう思わずにはいられない。
はぁ…憂鬱だ。
「おい貴様」
そう考えていると目の前から声がかかる。
「私は仕事に掛かれといった筈だ。何故立ち尽くしている」
……はぁ。
やってしまった。今世紀最大のミスだ。
暴力を振るわれている間は、考え事をして紛らわしているから思考速度も遅くなって、知覚も鈍くなる。
きっと長い間考え込んで、豚の声を聞き逃してしまったんだろう。
「欠陥品は処分しないとな♪」
ご機嫌そうにそう言って手を乱暴に引こうとしだす豚野郎。
……ふざけるなと思った。
なぜ職務を全うしようとしないお前に欠陥品などと言われなくてはいけないんだ。
なぜお前のために僕が玩具にならないといけないんだ。
なぜ、お前なんかが僕より偉いんだ?
「ん?なぜ引っ張れない?抵抗している?なんだその目は。まさか一丁前に反撃でもしようとしてるのか?ゴミの分際で」
あぁ、そうだよ。
なんでこんな豚に怯える必要がある?
コイツの護衛だってたった三人じゃないか。
ここに居るみんなで掛かれば負ける筈ないじゃ無いか。
こんな簡単な事に気付かなかったのか。
僕は。
「皆んな、こんな豚の言う事なんて聞く必要無いよ」
訴える。
言葉で、屈辱の感情で。
「あぁ?」
「ここには百人以上の人がいる。たった三人、いや四人に怯える事なんて無かったんだ」
訴える。
理屈で、簡単な方法で。
「フン!何を言い出すかと思えば……殺せ」
「はい」
ガスッ!バキッ!ボギャッ!
「皆んなだって嫌だろう!コイツは僕達を変えの効く道具としか思っていない!ッ…このままでは僕達は使いつぶられて死んでしまう!、ガハッ…グゥ!コイツらを殺せば僕たちは自由なんだよ!ゔぁ…!媚びる必要なんて無いし!働く必要も無い!いつまでも!」
訴える。
殴られたって、骨を折られたって構うものか。
きっと今にこの痛みは消える。
他人なんてどうでも良いが、そうすればきっと自分は……
「おい!お前らぁ!」
僕は知っていた筈だ。
人は、
醜いと。
「コイツを念入りに確実に殺せ!そうすれば今日は仕事を無くしてやっても良い!やらなきゃ処分だ!」
虚な目をした意思なき人形に、同情なんて無い。
忘れていた。
そうだ、コイツらは……
「皆んな!急げ!」
コイツらは……
「早く!」
コイツらは……!
「ソイツを殺せ!」
醜い人間でしか、無いのだ。
嫌だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
こんな奴らと僕が一緒だなんて。
こんな人形と僕が一緒だなんて。
こんな奴らに僕が殺されるなんて。
嫌だ!
だから。
だから……
だから僕は……僕は。
人形を、辞めた。
見てくれてありがとうございます!
よければ感想、ブクマをしていただけると励みになります!
前に「ある朝気付いたら亜神になっていた」と我が主が言っていましたが、気付いたら、がこのタイミングだった、という訳です。
と言う事にしといて下さい(懇願)




