君を大切にするよ
『クリスティーナ嬢。クロッシェン侯から聞いたと思うが、私とあなたが婚姻することになった』
『ジョエル様…』
『クリスティーナは……正直、殿下の婚約者になると思っていた…。それに、クリフとも仲が良かったね。…急に話したことも無い私が相手だと言われても困るだろう』
『いえ、まさか。私は貴族の娘です。顔も知らぬ相手や異国へ明日嫁げと告げられても否やはございません。お優しい旦那様であればいいとは思っておりましたが…ジョエル様と聞いて安心しました』
『安心、か』
『ええ。なにせ、クリフから毎日のようにジョエル様の自慢話を聞いておりましたので。私までジョエル様に詳しくなってしまいましたの。よく存じ上げている方なら安心ですわ』
『はは、そうか。クリフに感謝だな。
…クリスティーナ・クロッシェン嬢。私は君を大切にするよ。絶対に後悔なんてさせない。
私とあなたの縁は政略かもしれないが、君とは心を通わせた夫婦となりたいと願っている。
私と…結婚してもらえるだろうか』
そう言って私の右手を取ると、金の鎖のブレスレットをつけた。
『今はただの鎖だが、二人で一つ新しい年を迎えるごとに私たちの石を足していこう。』
そういってジョエル様は私の手に口づけをした。
その日から。私は旦那様との未来を見たのだ。
二人の未来を。
『石をどんどん足していったらきっと重くなって右手が持ち上げられなくなりますわね』
『そんなに大きい石にするつもりなの?』
クスクスと2人で笑いあった日は
あれは…
遠くを見ていた意識を戻し、
またひと撫で、自分を落ち着けるように
何もついていない鎖を撫でた。




