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【完結】旦那様。寂しいですが、お幸せに。~記憶喪失は終わりか始まりか~  作者: コーヒー牛乳
旦那様。寂しいですが、お幸せに

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会いたい

旦那様が私の名を呼んだ!


私が知っている旦那様の声。

私に愛を囁く旦那様の声!


目を覚まして、あの深い蒼の目に私を映してほしい。


先ほどまで心を占めていた恨み言が霧散し、喜びに震える心を押しとどめる。

静かに、ゆっくりと声をかけるた。


「旦那様。クリスティーナはここです……旦那様のそばにおります」


起きてほしいような、あの冷たい旦那様ならこのまま目を開けないでほしいような。

私の歪な心が声を震わせた。


旦那様の色を失っている頬に手を添えると体がビクリと跳ね、呻き声をあげながら苦しみ始めた。


「旦那様っ!旦那様…!」

「奥様。医師が到着しました。開けます」


執務室の重厚なドアが再び開かれ、医師とステファンそしてクリフが入室した。





「……何も無いですって?」


「はい。診させて頂いたところ、特に異常は無く……具体的にどのようなお怪我だったのか、おわかりですか?」


老齢の医師は旦那様の脈に手を添えながら言葉を続ける。

その表情には戸惑いがあった。


きっと私の顔にも同じ表情が出てしまっているだろう。


「と、いうと」


「アドラー様は転落した馬車から助け出されたと伺いましたが、骨にも異常は無いですし……傷跡も無いので……」

「怪我は無かった、と」


言葉を選んでいるのか、旦那様の脈を診ているのか、はっきりとしない医師の言葉の先が聞きたくて急いてしまう。


「全く無かったかは事故から日が経っておりますので、断言できませんが──跡が残るような怪我は確認できませんでした。しかし、頭を打ち付けていたり、事故の強いショックやストレスで記憶が不鮮明になってしまう症状は十分にあり得ることと思われます」


「そう…」


「倒れられたのも、まだ調子が十分に戻っておられないのでしょう。もうしばらくの休養が必要ですね」


旦那様の手を上掛の中に戻し、医師は頭を下げた。





医師を部屋の外まで見送り、旦那様の眠る寝室まで戻ると旦那様のベッドの横にクリフが立っていた。

入室した私の方をチラリとも見ずに、旦那様をじっと見つめ、押し黙り、何か考え込んでいるようだ。


考え込むクリフの横に立ち、眠る旦那様を見ながら先ほどの医師の言葉を反芻してしまう。


──旦那様のお体に怪我は無かった。


ミア嬢はひどい怪我だったと言っていたのに。

それに原因となった馬車の転落事故は大きな事故だったと聞いているわ。

なぜ旦那様だけ助かることが出来たのだろうか……


ミア嬢が旦那様を助けたのは偶然?


それに倒れる前の、あの旦那様の目……


不可解な不安が胸に広がった。


旦那様のそばに従僕を残し、クリフと一緒に応接室へと向かう。

少し遅れて医師を馬車まで見送ったステファンが到着するのを待って、やっとクリフの口が開いた。


「慌ただしくてすまないが、俺はもう一度この件を報告しに王宮に戻る。ティーナはステファンの側から離れないようにしてほしい。それと、部下をミア嬢と兄上の監視に置いて行く。今日の夜半には戻る。

ステファン。ミア嬢につけていた使用人を交代してくれ。ミア嬢のペースに流されている。」


「はい。先ほど、ミア様を客間へ再びご案内した際に人員を交代いたしました。ご配慮、ありがとうございます」


有能な執事は表情をピクリとも変えずに頭を下げた。その様子に、クリフも信用に足ると納得したのか一つ頷きを返す。


「あぁ、クリストフ様がいらっしゃる間にお世話になる騎士様方と屋敷内の警備に関して打ち合わせを行いたいのですが、クリスティーナ様とこちらでお待ち頂けますか」


思い出したように、そう言い残すとステファンは足早に退出して行った。


応接室の扉が閉まり、ステファンの足音が遠くなると先に口を開いたのはクリフだった。


「ティーナ……駆けつけるのが遅くなってすまない。こんなことになるなら、残ればよかった」


その声は昔から知っている私の幼馴染としてのクリフの声だった。

つられるように顔を上げると、優しい瞳が私の心に寄り添うような温度を讃えてこちらを見ていた。


「クリフ……いいのよ、来てくれたじゃない。貴方が来てくれて助かったわ」


優しい──いつでもクリフは私のそばにいて慰めてくれた──そんな優しいクリフに心配をかけたくなくて、無理やり笑みを作ったのだが、無理に笑んでいることが伝わってしまい更に心配させてしまうだけだった。


だんだん、そのクリフの優しい瞳も滲んで見えなくなった。

クリフの輪郭が、姿が滲んで、ぼやけていく。


ふわっとクリフが近づいた気配がした。抱きしめられてしまうかと思った。


しかし、クリフはそれ以上、近づいて来なかった。


もう私たちの子ども時代は終わったのだ。

それを、私たち二人は痛いほど理解していた。


「……ティーナも休んだ方がいい」


「ええ……。本当に、ありがとう」


「あぁ」


頬を流れ落ちる涙を、クリフの指が受け止めた。




旦那様に会いたい…


私の知っている、私の旦那様に






お読みいただきありがとうございます


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