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1-8『この先ね、きっと驚くと思うよ?』


——それから数時間。

 現在、810は青年を連れ洞窟内を案内してまわっていた。


 あのあと主の鞍替えをどう受け入れてもらおうかと悩みながら青年の説得に向かった810だったが、拍子抜けするくらい呆気なく受け入れてもらえたのだ。

 ゆえに、軽く怪我の手当をすませたのち早速とばかりに領域内の説明をする事になったのである。


「このあたり、迷いやすいから注意してね」

「承知いたしました」


 810はこっそりと青年を窺い見る。泥と血を落とした青年は純白の羽が似合う端正な顔立ちをしていた。

 天族系統に属するレアリティDのエンジェル――それが青年の種族らしい。


「どうしましたか?」


 視線に気づいた青年は、優しげな表情で微笑んだ。先程まで辛い目にあったというのに、その事などまるで感じさせない。

 それがまるで踏み込まれないように虚勢を貼っているようにしか思えなくて、810はなんとなく物寂しさを覚えた。


「んー……疲れたら言ってね」

「はい、ありがとうございます」


 当たり障りのない会話をしつつ、810は未だ名前を知らない青年の心が癒える事を願う。



 810から配下に加わる事を提案された際、青年は810に2つ程頼み事をしていた。

 1つ目は、前の主が忘れられない為しばらく主従契約(リンク)は待って欲しいという事。

 2つ目は、名前を含めしばらくの間あまり詮索はしないで欲しいという事。


——それさえ叶えていただければ、わたしは喜んであなたの為に尽くしましょう


 名前を教えてもらえないのは残念だったが、主を無くしたばかりだから致し方ないと810は二つ返事で頷いた。

 心の整理をする時間は必要だ。


――こんなわたしでもまだ価値があるというのならば、……どうかわたしに存在する理由をください


 “こんな”という言葉が810には少々引っかかったが、どこか思い詰めたような必死さを滲ませる青年に尋ねるのははばかれて結局聞けずじまいだった。



「あの」


 その言葉に、810はハッと我に返る。見上げれば、青年が心配そうな顔をしていた。


「大丈夫ですか、()()様」

「んー大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから」


 申し訳なさそうな表情の青年に微笑みを返しながら、まだあまり慣れない自分を示す呼称に、810――ヤトはこそばゆそうに目を細めた。


 きっかけは、青年の「なんとお呼びすればいいでしょうか」という一言だった。

 主従契約(リンク)を結んでいない青年に主呼びをさせるわけにもいかず悩んでいたところ、キリマルからの提言があり急遽ヤトの名前を考える事になったのである。


――810番目だから、8と10で『ヤト』


 安直すぎるとジュゼートは微妙な顔だったが、ヤトとしては存外この当て字(名前)を気に入っている。

 それから少し歩いて、二人は洞窟の最奥、玉座の置いてある空間へと辿り着いた。


「ヤト様、行き止まりですが……ここが目的地ですか?」

「うん。正確にはこの()がそう」


 ヤトは玉座の横を素通りし、背後の岩壁の前で立ち止まる。そして、青年が追いついたのを確認した後ある一点を指さした。


「あっ」


 青年が思わず声をあげる。

 ヤトが指し示した先をよく見れば、そこには岩壁に擬態した扉があった。


「この先ね、きっと驚くと思うよ? 伊達に領域設備にポイントを注ぎ込んだわけじゃないからね!」

「……怒られていませんでしたか、それ」

「うっ」


 苦笑する青年を横目にヤトはンンッと誤魔化すように喉を鳴らすと、その扉に手をかける。


「はいはい、それじゃあ中に出発進行ー!」


 まの抜けた声と共に開く扉。

 開け放たれた扉の先の光景を見た青年は驚いた様子でぽかんと口を開けたまま固まっていた。


「どうどう? へへ、まさか洞窟の中にこんな部屋があるなんて思わなかったでしょ?」


 そう笑うヤトの表情はまるでいたずらが成功した子供のソレであった。

 未だ惚けている青年の手をヤトはそっと掴む。


「ようこそお兄さん! 僕たちの()()()へ」


 その小さな手に引っ張られ、青年はその空間へと足を踏み入れた。


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