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1-6『配慮って言葉知ってる?』


「しっかりしてくださいよ主サマ。今更こんな事でショックを受けてどうするんですか」


 その声に810はハッと顔を上げると呆れ顔のジュゼートと目があった。


「ジュゼート、動じなさすぎじゃない?」

「主サマは動揺しすぎです」

「そんなこと、言われてもさ——」


 810はまだ誰の生死——魔物は別だ、あれは生き物ではないのだ——も体験したことがなかった。

 だからこそ、どこか他人事のような感覚でいたのかもしれない。その事に気づき、810は少し落ち込んだ。


「ところでアレについてですが」

「言い方……」


 810のジト目を軽くいなしジュゼートは青年を見下ろす。


「行き場のないアレを主サマはどうするおつもりで?」

「……ジュゼート、配慮って言葉知ってる? 本人の前でそれ聞いちゃうのはちょっと……」


 言い方はともかく、ジュゼートの言う通りだ。

 最終決定はキリマルが戻ってきてからになるだろうが、青年に帰る場所がない以上生かすか殺すかの2通りだけとなる。


「ジュゼート的にはどう思う?」

「私としては経験値にすることをお勧めしますが」

「ジュゼート本当にぶれないよねそういうとこ」

「やかましい」


 810の頭を軽くこづいたジュゼートは、先ほどからまた口を閉ざし空気と化している青年を一瞥した。

 自発的に発言したのは己の主がもういない事を伝えたあの時だけで、基本的にこちからから何かをふらない限り青年は口を挟むつもりはないらしい。

 それがたとえ——自分の処遇であろうとも。自分の事なのに、まるで他人事だ。

 その様子に違和感を拭えずジュゼートは思わず眉を寄せる。


「でもまぁ、主サマのことですしきっと——」

「呼んだ?」

「何でもないですよ」


 うっかり漏れた心の声を飲み込んだ代わりに、ジュゼートは深く息を吐いた。

 810の性格上、領域で面倒を見ると言いだすのも時間の問題だろう。事実それを可能にするスキルが存在するのだから。


 そのスキルとは通称『名付けスキル』と呼ばれているものである。


 本来はこのスキルは自身の配下を強化する事を目的としたスキルだ。

 魔王の配下は通常、名無し(ネームレス)名前持ち(ネームド)に分類される。

 魔王によって召喚された配下は皆、最初は自我の薄い名無し(ネームレス)だ。

 そして、名無し(ネームレス)がこのスキルで名付けられる事で自我を有する名前持ち(ネームド)となる。

 補足だが、召喚された名無し(ネームレス)の配下は必ずしも自我が薄いとは限らない。レアリティA以上の配下は名無し(ネームレス)でも皆自我を有しているし、そうでなくともごくたまに自我を持ったまま召喚される配下もいた。


 名前持ち(ネームド)となった配下はスキルにより魔王との繋がりが強化され身体能力の向上等様々な恩恵にあずかれるのだが、このとき結ばれる契約——主従契約(リンク)は実は他領域の魔王の配下とも結べる仕様となっている。つまり寝返りが可能なのである。

 ただし魔王と配下双方が同意した時のみかつ、主が現存する名前持ち(ネームド)以外という条件付きだ。


 他にも、主従契約(リンク)は解除が可能――一度契約を切った相手とは再度結ぶ事はできない――だとか、自我が芽生えたことで配下が魔王に不信を抱き裏切ることがあったりだとか、主従契約(リンク)は魔王のレベル分しか結べないだとか、注意するべき点はあるのだが——今はさておき。


「ったく……どうしてこういう時に限っていないんですかねェ、あのツチノコモドキは」


 ジュゼートの何気なくつぶやいた独り言に、上空から反応する存在が一つ。


「だから何度も申し上げました通り当方はツチノコモドキではなく補佐妖精ですぞジュゼート殿」


 そう言って810の頭の上にポトッと落ちてきたこの黄色の生物。この存在こそ、会話の中によくでてきたツチノコモドキもとい魔王の補佐妖精のキリマルである。

 背中に生えた小さな半透明の羽をぱたつかせながら抗議するキリマルに810は「うわでた」と呟いた。

 810の頭を短い尻尾でぺちぺちと軽く叩きながら、キリマルはガラス玉のような薄水色の瞳を青年へと向ける。


「だいたいの状況は把握しておりますゆえ……そちらのエンジェルですが魔王様達の好きなようにして良いと思いますぞ」

「……領域に変な影響とかはないんですね?」

「領域をすり抜けてしまう事自体はちょいちょいある話ですし……まぁ大丈夫ではないですかな。別領域にこうして流れ着く事は稀ですけれども」

「稀なんだ」

「そうですよぅ! ほとんどは別の領域にたどり着く前に『闇』に飲み込まれて消えてしまいますからなぁ」


 あっけらかんと放たれた言葉に、810がぎょっとした表情を浮かべた。


「しかもそのエンジェル、五体満足じゃないですか。どこも溶けていないとか、かなり運がいいですぞ」

「運がいい……ですか」


 首を傾げる主を見下ろして、考える。主を失って生き延び流ことが果たして、『幸運』といえるのか。『闇』に飲まれて消えた方がいっそ救いだったのかもしれない――だなんて。


「ジュゼート?」

「……いえ」


 なんとなくその言葉を聞かせたくなくて、ジュゼートははぐらかすように810の頭をわしゃりと掻き乱した。


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