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1-5『先ほどの話ですが』


「つまり——あんたは別領域の魔王の配下で、気づいたらこの領域に迷い込んでいたという認識であっています?」

「……はい」


 その問いかけに青年はぎこちなくうなずいた。あれから、目覚めた青年に事情を聞いているのだが分かったことといえばそれだけだ。

 とはいえ敵対するでもなくこうして素直に会話に応じてくれているだけマシだろうか。不意打ちに備えていたジュゼートには少々肩透かしであったようだが。

 今のところ目立った問題はなさそうだと810は人知れずそっと安堵の息を漏らした。


「迷い込んだ理由は記憶がないのでわからない、ですか。…………疑わしさしかないですねェ」


 反応の薄い青年を見下ろしながら、ジュゼートが嫌そうに顔をしかめた。


「ジュゼート……」

「これだけの情報でどう信じろと? 仮にもし本当だとして、明らかに面倒事のにおいしかしませんよこれ」


 流石に810も同感だったのだろう、だが当事者の前で肯定もできず曖昧に笑う。

 迷い込んだと言っているが、正直簡単に出来る事ではないのだ。

 魔王が住む裏層は、『闇』で満たされた空間にそれぞれの領域が独立して存在している。

 ゆえに領域間を移動してきたということは『闇』の中を通ってきたということになる。


「受け答えを見る限り狂ってはいないようですし、『闇』の中を正気のまま闇を抜けるって可能なんですかねェ」

「うーんそこなんだよねぇ」


 二人が頭を悩ませているのは、過去に彼らが魔王の補佐妖精キリマルからもたらされた情報故だ。

 曰く、過去に何らかの原因でこの『闇』に飲まれかけた他領域の配下がいたらしい。『闇』に触れていたのは数分にも満たない時間だったにもかかわらず救助された後数日間は錯乱状態が続き、治った後もしばらくは精神の不調が見られたとの事だ。

 この『闇』がなんなのかはキリマルにはぐらかされてしまったが、少なくとも取扱注意の危険物質であるのは確かである。

 余談だが、日頃領域に侵入してくる魔物は『闇』がこの世界の生物の姿を形取って凝縮されたモノである。魔物の凶暴性や意思疎通ができない理由などもこの『闇』の特性に起因していそうだというのが810達の見解だ。閑話休題。


「記憶が欠けているのって『闇』を漂っていたから、とか? だから正気なのかも」

「なんにせよキリマルに丸投げでいいでしょう。ところでキリマルはどこに?」

「定期報告って言ってた。少ししたら戻ってくると思うよ」


 ひょこっとジュゼートの背中から顔を出した810は気遣わしげな表情で青年を見やる。


「主サマ、どうしました?」

「……あのお兄さんもお兄さんの主もきっと離れ離れで心細いだろうなって」


 侵入者()ではないと分かった途端早速お人好しっぷりを発揮する810に、ジュゼートが脱力した。


「主サマらしいといいますか、本当になんといいますか」

「え、ジュゼートは心細くならない?」

「私はポンコツ主がアホなことしでかしてないか心配してそうですねェ」

「アホ……」

「それよりも主サマ」


 何とも言えない表情の810をジュゼートはジロりと見下ろした。

 先程の発言にどうにも嫌な予感を感じたのだ。

 どうしたのと不思議そうな顔で首を傾げるその姿に、自身の考えが杞憂であることを願ってジュゼートは口を開いた。


「先程の話ですが……まさかアレを元の領域に送り届けようなんて考えていませんよね」

「え? 考えてるけど」


 さも当然、と言わんばかりの810にジュゼートは思わず自身のこめかみを押さえた。


「主サマのその甘っちょろい考え、別に嫌いじゃないですがねェ……いつか敵として戦う相手である事は忘れないでくださいよ」

「別に忘れてないんだけどな……」


 訝しげなジュゼートに、810が苦笑を浮かべる。そして、「これ話してなかったけど」と言葉を続けた。


「すべての魔王と敵対する必要はないんだよ」

「と、言いますと?」

「協力関係を結ぶのもありってこと。僕らの使命は生き残り続ける事で排除する事じゃない。もちろん障害は排除しなきゃだけど、魔王同士で手を組むのはありなんだよ」

「ちょっとそれ初耳なんですケド」

「いやー正直僕も知ったの割と最近なんだよね」


 そう、『あり』なのだ。魔王同士で手を組む為の能力も成長過程で手に入るらしい。


――よくお気づきになりましたね~魔王様。時が来たら詳しく説明いたしますが、魔王同士で”同盟”というものが結べるようになりますぞ


 とは、この事についてキリマルへ問うた際に言われた言葉だ。弱い身でどうやって生き残れるか日頃から考えていた810だからこそ気づけた事かもしれない。


「主サマも意外と考えているんですねェ」

「意外とってなにさ」

「まぁ、そう簡単に上手くとは思えないですケド」

「あの」


 その声に810とジュゼートは振り返った。その視線に怯んだのか一度目を伏せた青年が、意を決した様子で顔を上げる。

 青年の表情がどこか翳っているように見えた。


「その話、なんですが……。それは無理、だと思います」

「えっ!? なん——」

「主サマ、シッ」


 驚きの声を漏らす810の口をジュゼートがぺしっと手で塞ぐ。その光景に少し目を細めながら青年は再び言葉を紡いだ。


「……わたしのマスターはすでに他の魔王に殺されましたから。ですから、送り返されても困ってしまいます」


 感情を感じさせない、ひどく静かな声だった。その声で紡がれた重い事実に810は言葉を失った。


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