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2-6『武運を祈っているよ』


 無事ヨシュア達と合流できた一行。

 顔合わせもかねて簡単な自己紹介を行なったのだがーー


「……なぁおい、こいつがもう一人の魔王か? 何をどうしたらコレと同盟組む流れになるんだ」

「いえ、まぁ……色々とありまして」


 訝しげなマクベスの視線を受け、ジュゼートは言葉を濁しそっと視線をそらした。

 癖の強いヨシュアの自己紹介とその後お決まりのごとく炸裂したメルヒオルのハリセン(ツッコミ)というコントばりの光景を見せられたマクベスはひどく口元を引き攣らせていた。その時の彼の心情を表すとすれば「なんだこいつら」に尽きる。当然口に出してはいなかったが。

 カトレアはというと普通に「ヨシュアちゃんとメルヒオル君ねぇ~よろしくねぇ~」なんて既に順応していた。流石マイペース、強い。

 余談だがそんなカトレアも自己紹介時にマクベスの自称”おかーさん”を名乗り、一行のなんとも言えない視線を集めることとなったマクベスが頭を抱えるといった一幕もあった。


「色々、とは?」

「あー……領域戦には関係のない話ですのでどうか気になさらず」


 マクベスが訝しげに見上げれば、ジュゼートが死んだ魚のような目が視界に入る。その様子にこれ以上触れない方がいいと判断しただろう、マクベスはそっと口を閉ざした。尊大な口調に似合わずマクベスは意外と気遣いの出来る魔王である。

 そんな会話をしていれば、ヤトから軽く事のあらましを聞かされていたヨシュアがマクベスを振り返った。


「ところでそこのチェリーボーイ」

「は? 俺かーーって誰がチェリーだはっ倒すぞ!」

「あら~はっ倒すなんて随分と情熱的じゃない♪ でもワタシにはーーってそうじゃなかった、チェリーちゃんも同盟結んじゃいましょ」

「だから俺はッ! マクベスだッ!」


 そう叫び、舌打ちしたマクベスは不貞腐れた表情で残りの枠に彼の番号を打ち込んだ。

 同時に、ピコンと同盟締結を告げる無機質なアナウンスがヤト、ヨシュア、マクベスの脳裏に鳴り響く。


「これでチーム組めたってことかしらン?」

「だろうな」


 マクベスが示す先、いつの間にか領域戦受付完了の文字を記したウィンドウが現れていた。

 しばらくするとウィンドウは空気に溶ける様に消えていく。その様子を見送ったヤトはやや驚いた表情でマクベスを見上げた。


「というかマー君。683……って、マー君って第7世代なの?」

「そういやさっき番号は言ってなかったか」


 じゃあ大先輩だねと呑気に告げるヤトの隣、同じくウィンドウを眺めていたヨシュアが眉をひそめる。


「……ねぇ、チームの世代がバラバラの場合ってマッチングってどうなるのかしらン」


 レヴァンの説明にしろ、ウィンドウに記されていた領域戦の説明にしろ、”同レベル帯の魔王とランダムで当たる”という情報しかない。

 ヨシュアとしてもヤトがマクベスを連れてくるまでは同世代の魔王と組むとばかり思っていたのだろう、だからこそ今までは特に気にしていなかったのだ。


「過去の経験から言えば同じ構成のチームと当たるかもしくは俺たちのレベルの平均と同等のチームが当たるってとこだろうな」


 その疑問に答えたのはマクベスである。


「だろうなって……それ下手すれば確実にワタシ達より格上の魔王と当たるって事じゃないのン」


 淡々と述べるマクベスにヨシュアが困ったような顔でため息をついた。

 場合によっては第8世代の魔王と当たる可能性があるーーなんて聞かされてしまってはそんな反応でも無理はない。

 マクベスはヨシュアを一瞥しふてぶてしい態度で鼻を鳴らした。


「組んでやる以上、その時は貴様らの手に負えない場合は俺が片付けてやる。貴様らは最低限自衛さえしていればいい」

「あら……随分な自信じゃないのン」

「貴様俺を舐めるのも大概にしろよ……? 第8世代なんぞに遅れをとってたまるか。俺を誰だと思ってやがる」


 やや威圧を滲ませながら不快感を滲ませるマクベスにヨシュアが静かに言葉を飲み込んだ。だんだんツッコミキャラで定着し始めているマクベスだが、彼は第9世代の魔王が太刀打ちできるような相手ではない。ピリピリとした空気が場を支配していく。そんな中、ヤトがはい!と勢いよく手を挙げた。


「マー君!」


 自信ありげに放たれた見当違いな解答により場の空気が一気に弛緩した。

 先程の威圧はどこへやらマクベスも気の抜けたような呆れ顔を晒している。

 なんとも言えない周囲の空気に気づいたのだろう、あれ?とどこか気まずげなヤトの横でジュゼートは自身の額を抑えた。


「主サマ、あれはそう言う意味じゃないですから」

「え、ちゃんとマクベスって答えるべきだった?」

「こいつに空気を読めと言うのは酷だろう。お前も、まぁあれだ……もうそのままでいいと思うぞ」

「何が!?」

「……ああこんなことしてる場合じゃなかったな。さて、定刻まで作戦会議始めるとするか」

「ねぇちょっと!?」


 ヤトの情けない声に苦笑を浮かべた一行は、気を取り直して領域戦開催時間まで作戦会議を始めたのだった。






 そうして迎えた定刻ーーいよいよヤトやヨシュアにとって初めての領域戦が始まろうとしていた。

 今から始まる命のやりとりに会場内は興奮と緊張が充満し奇妙な熱気に包まれている。

 そんな空気の中、気を引き締めていたジュゼートが静かすぎるヤトの様子が気になって見下ろせば、眼下には血の気の引いた顔で口を引き結んだ主の姿があった。会場の雰囲気に引きずられたのか紫苑の瞳に浮かんでいるのは緊張と不安。

 タフさはそこそこあれどゴブリンに負けず劣らずな攻撃力しかないようなステータスで、この領域戦に挑まなければならないのだ。

 魔王としては締まりがないが、こうガチガチに緊張してしまうのも無理はない。


「先ほどの元気はどうしたんですか」

「なんか緊張してきちゃって……」


 顔を引き攣らせながら、あははとから笑いをするヤトを前にジュゼートは呆れ混じりのため息をついた。


「主サマはいつもみたいに間抜け面晒してヘラヘラ笑っていてください、調子が狂います」

「間抜け面……」


 言ってる内容は割とひどいが彼的には励ましのつもりなのだろう。

 軽く頭を撫でるジュゼートの手を素直に受け入れながら、ヤトはなんとも言えない表情でジュゼートを見上げた。

 素直じゃないがゆえに行動と台詞がチグハグな事になっているのだがおそらく本人に自覚はない。


「事実じゃないですか。カルセメイヤの料理を前にした時のような顔をしていますよ」

「えっカルセの料理の時そんな顔してたの僕!?」

「お前ら少しは静かに待てんのか」


 緊張感のかけらもないそんなヤト達のやりとりを横で聞いていたマクベスは呆れ顔で。


「そもそも、お前は今回後ろで待機だろう。不安がる暇があったら後学の為に今回の戦い方でも観察してろ」

「う……そうだよね。ごめん、ありがとマー君。ゼトもありがとうね、……間抜け面は余計だったけど」


 ヤトにジト目を向けられたジュゼートはそっぽを向いた。


ーーさて諸君、開始時刻だ


 直後聞こえたその声に、会場が静けさに包まれる。


ーー今より領域戦の場へ転移を行う


 レヴァンの声とともに、ヤト達の視界暗転する。


ーーさぁ皆、武運を祈っているよ


 その声を最後にレヴァンの声がぱたりと聞こえなくなった。

 ヤトは恐る恐る閉じていた瞼を持ち上げるやいなや、眼前に広がる光景に思わず困惑の表情を浮かべた。


「え?」


 そこは先ほどまで居た会場だ。ただし、あれだけ居た魔王や配下は見当たらずがらんどうとしていた。

 この場にいるのはヤト達と、もう1チーム。ヤト達の知らない者達ーー彼らが今回の相手なのだろう。

 呆然とその場に立ち尽くしていたヤトへマクベスの怒声が飛んだ。


「ボケっとするなヤト! もう始まってんだぞ!」


 慌てて周囲を見渡せば、武器を構え各々動き出している相手の姿があった。

 ヤトがあたふたしている一方、相手の動きを目で追っていたマクベスは相手のうちの一人を見るとスッと目を細める。


「……なんだ、あいつか」


 どうやら見知った相手らしい。


「おい貴様ら朗報だ、相手どうやら俺たちと同じ編成らしいぞ」

「あら、よかったわン♪」

「貴様ら想定通りに動け。同格相手に無様な姿を晒すなよ。カトレア!」

「はぁい、おかーさんはいつでもいいわよよぉ〜! それじゃあ、皆ぁ~頑張ってねぇ~」


 言い終えるや否や相手へと向かっていくマクベスとカトレアの後ろ姿を見送ったヤトは隣で剣を手に背中に羽を生やして臨戦体制のジュゼートを見上げた。


「ゼト」

「主サマは予定通り後ろへ下がっていてください。相手が来ます」

「うん、わかった。……気をつけてね」


 ヤトが後ろに向かうのを横目で確認しつつ、ジュゼートは黒い欠片で拵えた剣を片手に敵を見据えた。

 敵の姿は視界ではっきり捉えることができる程既に接近している。


「さてジュゼートちゃん、準備はいいかしらン」

「ええ」


 ヨシュアがジュゼートの隣に立ち並ぶ。その拳には先ほどは見られなかった鈍色に輝くメリケンサックが嵌められている。


「うふっ始めての共同作業……胸がキュンキュンしちゃうわ」


 顔を引き攣らせるジュゼートの横、発言とは裏腹に好戦的な笑みを浮かべたヨシュアは拳を構えーー接近する敵に目をすがめた。


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