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1-2 『文句はゴブリンを自力で倒せるようになってからにしてください』


「ったくもう少し思慮深さというものをもって欲しいものです。主サマは雑魚なんですから」

「雑魚……」


 あの後無事ジュゼートに捕獲された810は、くどくどとジュゼートの説教を浴びながら洞窟内を歩いていた。


「はーぁ、やっぱり飛べるのってずるいよね。いいなぁー僕も飛びたい」


 この世界には様々な種族が生息している。ジュゼートはといえば魔族系統に属する闇属性の人型翼有種族、デーモンであった。


「説教聞いてました? はぁ、私は主サマに羽がなくて心底良かったと思いましたよ。主サマは逃げ足だけは一人前ですからねェ」

「それ全然嬉しくない」

「事実でしょう。文句はゴブリンを自力で倒せるようになってからにしてください。せめてそのくらいはできないと今のままじゃ使命なんて到底果たせませんよ」


 使命というのは魔王が造られた時に管理者から一様に与えられたものだ。


 それすなわち――『生き残ること』


 たったそれだけ。

 至ってシンプルだがこれまでに900体もの魔王が造られているという事実を鑑みれば、それが決して容易なものではないというのは容易に察せられる。

 

「いや、今度こそ勝てると思うよ、うん」


 先日、見回りと称して領域内を1人で歩き回っていた810がゴブリンに遭遇し逃げ回り駆けつけたジュゼートにより事なきを得た事件は記憶に新しい。

 さらに言うとこのゴブリン、この世界では最弱の種族と名高い存在であった。


 ここらでもうすでにお分かりだろう。810は魔王として造られたにもかかわらずゴブリンすら倒せない弱小魔王であった。

 いくら造られたばかりとはいえ魔王ならば本来はゴブリンくらい余裕で倒せるように造られているはずである。魔王にも一応個体差というものが存在するが、それを加味したとしても810の弱さは『異常』の一言に尽きた。魔王の使命的にも致命的な問題なのはまず間違いない。


「何か作戦でも?」

「根性?」

「……はぁ」

「あっほらレベル! きっとレベルがあがっていけばいつかきっと、ね?」


 そう、魔王には『魔王レベル』というものが存在しており、このレベルの上昇に伴って魔王の身体能力もまた強化されていくのだ。

 他にもレベル上昇で様々な恩恵――具体的にはスキルの習得、権限や領域機能の解放といったものだ――が受けられるようになるのだが、それはさておき。

 とにかく、レベルが上がれば人並みもとい魔王並みに強くなれるはずだ、と810は考えてい()、のだが。


「いや無理でしょう?」


 そんなささやかな期待を容赦無くバッサリと斬って捨てたジュゼートは、恨みがましげに自身を見やる己が主を呆れ顔で見下ろした。


「主サマ、今の魔王レベルっていくつでした?」

「3だけど」

「レベル0から3つ上がって、それでも勝てない現実を楽観視しないでください」

「うっ……でもでもレベル4になったら一気に強くなるとか。なんかすごーく強いスキル習得するとか!」

「アホな事考える前に弱くても勝てる方法を模索しては?」

「わかってるよばかー! でも少しくらい希望を持ったっていいじゃんか」


 ちょっぴりやさぐれてその辺の小石を蹴り始めた810にジュゼートは肩をすくめた。


 810は胡乱げな表情でジュゼートを見上げた。


「とにかく自衛できるようにはなってくださいよ。焦らなくてもいいですケドね………………私がいますし」

「最後、なんか言った? あっもしかしてまた悪口」


 810は訝しげな表情でジュゼートを見上げる。先ほどの事をまだ根に持っているらしいその様子にジュゼートの口元に苦笑いが浮かんだ。


「さて、どうでしょう」


 そう言いながらジュゼートが眼下の濃いグレーの髪をわしゃりと掻き乱してやれば、うわっ!と驚く810の声が洞窟内に反響する。


「なんだよもー、頭ぐちゃぐちゃじゃんか」

「ふふ、お似合いですよ」

「ちょっとどう言う意味だよそれ!」


 薄暗い洞窟の中、少々賑やかな二人分の声と足音が響く。腑に落ちない様子の810の追求をはぐらかすように、ジュゼートは唐突に「そういえば」と声をあげた。


「侵入者ってどこにいるんですか?」

「ん、ちょっと待って」


 ジュゼートの問いに810は立ち止まって宙を見上げる。


「場所動いてないかもっかい探ってみる」

「ああお願いします」


 わかったと元気よくうなづき810は目を瞑った。

 先ほどの賑やかさが嘘の様に、洞窟内がシンと静寂につつまれる。

 

「主サマ、そのまま寝ないでくださいよ」

「いや魔王はそもそも寝ないし――って集中集中……」


 茶々を入れるジュゼートの表情は言葉と異なりどこか優しげで。


 時折軽い会話を交えまながら、二人は侵入者の動向を探るのであった。


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