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1-13『夜くらい静かに寝かせて欲しいんですがねェ』


 あれから戻ってきた青年はヤト達のピリッとした雰囲気に少し不思議な顔をしていたが特に何かを尋ねたりはしてこなかった。

 何事もなかったように、時間だけが刻々と過ぎていく。


 青年の嘘が発覚したその日の夜――。

 青年が部屋に戻っていったのを確認したヤトはその足でジュゼートの部屋に向かっていた。

 訪ねる理由はもちろん、昼間の続き――青年の嘘について話をする為である。





——居住区/ジュゼートの部屋にて


「キリマルは?」


 自身の部屋の壁に寄りかかりながらジュゼートはベッドに座るヤトを見下ろした。

 その問いにヤトは暗い顔で首を横に振る。

 2つ目のバグが発生した時点でこの事は既に魔本を介しキリマルに報告済みなのだが、未だキリマルからの音沙汰はなかった。


「アレを殺してバグが直るなら今からでも奇襲に行くんですケド。キリマルの話からするとそれでは直りそうにないですし……ええいあのツチノコモドキめ、なんでこういう時に限っていないんですか!」


 そう言ってジュゼートは苛立ちを紛らわすように自身の髪をぐしゃりと掻き乱した。

 無闇やたらに動けないこの現状がひどくもどかしいのだろう。


「今更だけど、お兄さんの顔色が悪かった理由ってバグの話を聞いたからだよね」

「でしょうねェ」

「……ねぇ、ジュゼート」

「なんです?」


 もしさ、とつぶやいて、ヤトはベッドに寝転がった。ぽふり、と軽い音を立ててヤトを受け止めたベッドが僅かに揺れる。


「嘘をついた理由がさ、実は魔王と折り合い悪くてここにいたかったから――とかって可能性はないかな?」


 ヤトの口からこぼれたのは、諦めの色を纏った希望的観測だった。

 ヤトの心情を慮ってかジュゼートは静かに目を伏せる。ありえない事だ、と否定するのはなんとなく憚られた。


「……だとしたって、名前持ち(ネームド)主従契約(リンク)の上書きはできないんですよ。それはどうするおつもりで?」


 別の魔王の名前持ち(ネームド)配下と主従契約(リンク)を結ぶには、相手の魔王に主従契約(リンク)を解除させるかもしくはその魔王を殺して主従契約(リンク)を強制解除するしかない。この場に相手の魔王がいない今、どちらの方法も不可能だ。


「ま、私としては敵意を向けられた方が遠慮なく剣を向けやすくていいですケド」

「物騒」

「魔王が何言ってるんですか」


 ジュゼートは茶化すような口調でそう告げると、ヤトの隣にソッと腰を下ろした。


「もし仮に戦った場合――ジュゼート、勝てそう?」

「……勝てる勝てないではなく——勝つしかないでしょう」


 少し言葉に詰まったその間こそがヤトの問いに対する答えなのだろう。

 ヤトは苦しげな表情でジュゼートを見上げた。


「……やっぱりお兄さんの方が強いんだ」

「おいこらやっぱりってなんですか」

「ごめん、ジュゼート。僕が弱いばっかりに――あたっ」

「なにしけた顔してやがるんですかこのポンコツ主。勝つって言ってるでしょうが、少しは配下の言葉を信じたらどうですか」


 湿っぽい空気を取り払うようにヤトの額を指で軽く弾いたジュゼートはそう言って不敵に笑みを浮かべる。


「何か作戦でもあるの?」

「気合とか?」

「ちょっと!?」

「冗談ですよ。ほら、()()もある事ですし負けはしませんよ」


 そう言ってジュゼートは上着の胸元あたりをトンと指で軽く叩いて見せた。


「それはあくまで保険なんだからね。一番は怪我しない事なんだか――ジュゼート、今」

「夜くらい静かに寝かせて欲しいんですがねェ」


 ベッドから跳ね起きたヤトの隣でジュゼートもやれやれと面倒くさそうに立ち上がる。


「それでは真夜中の侵入者退治と洒落込みましょうか、主サマ」

「あれ、僕も行くの?」


 ヤトがきょとんとした顔でジュゼートを見上げた。


「このお馬鹿。私の居ない間にアレが襲ってきたらどうするんです」

「大丈夫じゃない? 僕たちがお兄さんの嘘に気づいたって事はまだ気づいていないだろうし」

「念には念をですよ……少し気がかりな事もありますし。解決するまでは私のそばを離れないでくださいよ主サマ」

「うん」


 そうして二人は周囲の気配を注意深く探りながら部屋を出て、明かりが落とされた廊下を息を潜めながら進む。

 昼間とは打って変わって寂寥感さえ感じるその廊下に何を思ったのかジュゼートの服の裾を握るヤトに、ジュゼートのジト目が向けられた。


「……主サマ?」

「べっ別に怖くなったわけじゃないし」

「私は何も言ってませんケド」


 ジュゼートの言葉にヤトがゔっと言葉を詰まらせる。


「違うんだよ、暗闇が怖いわけじゃなくてね?」

「はぁ」

「そう、これはお兄さんが――」

「わたしが、なにか?」


 ヤト達の正面方向、暗闇の中からぬっと現れた青年の姿にヤトは声にならない悲鳴をあげた。


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