第1話 転生
目を覚ましたらベッドの上`だった。
どうやら、俺は転生したらしいことがわかる。
死んだ瞬間どころか全ての記憶がおぼろで、日本のことを懐かしく思う気持ちすらわいてこないのだ。
だが、しかし――それでも、戻れるならあの頃に戻りたいと思う。なぜなら。
この世界は新生學園ルミナス☆ルインというRPGゲームなのだから。
転生した俺の名はロキ・ダインスレイフという元の世界ではありえなかった名前で……そして第6王子と言うおまけつきだからやってられない。
他の名前だったらよかったのだが。これはもう間違いないと言っていい。
前世を思い出したきっかけは階段から突き落とされたことがきっかけだが、これは別に珍しいことではない。
もちろん元の世界が常に誰かが階段から突き落とそうと虎視眈々と狙っていたわけではなくて、ロキ・ダインスレイフだからこそ、それは日常茶飯事だ。
なにしろ、彼が本編まで生き残ったことこそがご都合主義とまで言われている。
しかも、そいつはそれで運を使い果たしたとか悪口を言われているのだから、やはりこんな奴に転生したくはなかった。
そう、第6王子は暗殺の危険にまみれた生涯を送り、それがために人を信じられず疑り深い性格に成り果てて……しかして強かった。
彼は障害を実力で敵を排除してきた人間だった。
誰も信じないから味方がいなくて、だから誰にでも噛み付いていたが、その有様で生きていけることこそが強さを示している。
そして……大いなる秘密が隠された學園へと入学。挙句の果てに信頼できる仲間を持つ主人公に嫉妬して戦いを挑み、そして散ったくだらない人生。
――この死を回避できるかというと難しい。
なぜなら、このRPGはバトルものである。ならば、最終決戦は世界の一つくらいは滅ぼさないと格好がつかないというものだ。
學園の7大勢力を倒して経験値を得て封印が解けたラスボスを倒すと言うもの。
ロキがこの過酷な運命から逃げ出せば、経験値が足りずレベルが足りずにラスボスを止められずに国そのものが滅ぼされてもなにもおかしくない。
人類のために思うなら、ロキ・ダインスレイフは主人公様の経験値の贄になるしかない。
そして、そんなくだらない人生を拒否するのなら。
ーーならば、全てを殺す以外にない。
原作で失敗した主人公殺しを成し遂げ、他の6勢力全てを刈り取る。
そのうえで、この俺がラスボスを殺す。
足りないのがレベルだけであるのなら主人公の代わりにもの皆全てを殺せば問題がない。
まあ、血脈とかそういう設定もあったりするのだが、必須と明言されていたわけではないから希望はある。
だが、それ以前に”そこ”までたどり着く必要がある。
ロキを人間不信に追い込んだ暗殺者どもを殺し返さなくては順当にデッドエンドしか残らない。
この世界にはレベルと言う概念があるから、強くなくては暗殺者に殺されるのみだ。
魔物を殺せば強くなれることは誰でも知っているが……同族、つまり人間を殺すことが効率の良い経験値取得方法と言うのは一般的な知識ではないことが明言されている。
ロキの記憶は残っている。
だが……どうやらロキ・ダインスレイフどいうガキは相当に殺意に溢れた人間だったらしい。
まだ8歳だと言うのに、階段から突き落したメイドの顔をはっきりと覚えている。
館に居るメイドの名前と顔はまったくもって一致しないが、それだけは覚えている、復讐のために。
強くなり、必ず殺すために。
「起きましたかな?」
横を見る。小太りのおじさんがいた。
「……あなたは?」
「わしは医者じゃ。階段から足を踏み外したとお聞きしましてな。あなたを診ておりました。幸運にも特に大きな傷は見当たりませんでしたが、お気分は悪くありませんか?」
ロキは自ら要望して戦闘訓練を受けていた、そのときにできた傷を診てもらっていた。とりあえず信用はできる。
「気分は悪いさ。この俺を突き落してくれたあの子にお礼をしたい気分だよ」
「――わしは貴方様が階段で足を踏み外した、と聞きましたがな。まあ、そこまで受け答えがしっかりしておられるなら問題はないのでしょう。万が一があってはいけないので、わしはここに残りますが、お眠りになられますかな?」
「……ああ」
とりあえず、口調はこれで問題ない。ロキはくそ生意気なガキだ。
そして、王族はみな優秀、多少受け答えがしっかりしたくらいでは疑われない。
しかし、どちらにせよストーリーは捻じ曲げる必要がある。
なぜなら、ロキ・ダインスレイフは登場時点で傷だらけ、隻腕、さらに味覚障害まで患っている。
それだけの後遺症が残るような戦いを経た。
そして、その地獄のような暗殺劇の始まりを告げるのが8歳の時、屋敷に現れた暗殺者3名を返り討ちにしてからだ。
その3名は軍人で、そいつらは王家の人間を人質に取った交渉が目的だった。
目的は、確か――「戦で負傷した兵士たちに補償を求める」だったか。
実際のところ、声明を届けた時点で目的を完遂している類の交渉だ。むろん、要求を飲んでもらったほうが都合がよいだろうが。
自らの命を顧みない本来の意味での直訴だから、政府としては対応する以外にない。
テロリストと交渉することはあり得ない、人質を取っていようが殲滅は確定事項だが――そこまでやる人間が居るとなると、負傷した兵士への援助を考えないわけにもいかなくなるのだ。
こういうのは、人質の命よりも、第2第3の事件が発生して治安が悪くなるぞという脅しで、それをやらずに手をこまねけば、それこそ本当に第2の事件が起きるだけだ。
行きつく果ては要求が飲まれるか、国から人がいなくなるかの二択しかなくなる。
彼らにとっては苦悩の果てに、自分すらベッドしての崇高な行いかもしれないが、しかしそれで犠牲になるほうはたまったものじゃないことは言うまでもないだろう。
そして、ロキはそいつらを殺し尽くし、殺し尽くしたことが危険視される始まりとなった。
いくら継承権持ちが多いと政権争いの元になるとはいえ、王子が暗殺される時点で治安は相当に悪いのは言うまでもない。
日常的に殺し、殺されているような連中が平和な政治など、ちゃんちゃらおかしいのだ。
だから、必然殺し殺されの世界は限定されたものとなる。
最初に巻き込まれたロキを中心に、闇はどこまでも濁っていくから。
「ーーどうでもいい。少し眠るから見張っておけ」
ロキはそういうガキだった。そして、5日後に一人のメイドが足を踏み外して頭を打ち、死んだ。
「さて、確認をするか」
一人で部屋にこもる。
それはもう、いつものことだ。
復讐に時間がかかったのはまあ、いい。ロキの能力『マグネティカ』をもってすれば事故に見せかけることにも分けはなかった。
殺し方は何パターンか用意していたのだが、結局は階段近くに誰かがハンカチを落としていたから、それを利用させてもらった。
マグネティカは物体に引力と斥力を与える能力、言ってしまえば何でも磁石化する能力だ。
ハンカチと床にプラスを付加すれば、踏めば滑る氷もどきの完成だ。そして、証拠は他の落とし物に紛れてわからなくなる。
自分でハンカチか何かを用意すると疑われる危険があるから、誰かが落とし物をして彼女が通りかかる機会を待っていた。
偶然に頼りすぎていると言われるかもしれないが、むしろこれくらい不確定でないと疑われるし、計画は複数用意していた。
そこで、はたと気付く。
――果たして、己はここまで人間をあっさりと殺せるような人間だっただろうか?
だが、心の中ではまだまだ甘いと言っている。
そも、自分が落とされていた時は受け身を取っていたから傷が残らなかった。
だが……子供であるがゆえにダメージで動けなかった。首でも踏み折っておけば殺せたのに。
だから殺されるのだと彼女を嘲笑う。
いや、待て。これではまるで全勢力に喧嘩を売り歩いた挙句に不和のタネをばらまいてラスボス復活の土台を作ったロキ・ダインスレイフの思考そのものではないか。
だが、自分だと思っていたものの名前を思い出そうとしても思い出せない。ならば、これは。今の”俺”だ誰かと言うのなら。
「なるほど。俺はロキ・ダインスレイフと言うことか」
社会人として生まれ落ちた人間がロキ・ダインスレイフの幼い魂を食いつぶしてしまったと思っていたが、実は逆だったわけだ。
ロキ・ダインスレイフの方が大人の薄汚れた魂を喰って、記憶と知識を手に入れたことが真実。
ゆえにこそ、これは叛逆の物語。最初に脱落するはずだった雑魚が知識を使い、残酷を尽くして黒幕に成りあがる物語。
第1話終了時点でのロキ・ダインスレイフの能力値
レベル4
出力:F
消去性:F
放出性:F
操縦性:F
付属性:D
維持性:F
強化性:F