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女子力に優れた俺は、学費が免除されました。  作者: 土星めがね
プロローグ
2/75

プロローグ②

 先生に言われた翌日。俺は一つの教室の前にいた。教室と言っても授業で使われているようなものではなく、いわば部室である。他の部室は部室棟にまとめられているのだが、ここだけは別らしい。部屋の扉にはきれいな文字で「奨学生部」と書かれていた。


 現在奨学生となっているのは俺を除いて女子二人。両者ともに容姿端麗。奨学生となった理由は対局的であったはずだが、彼女ら二人は非常に優れた能力に違いないとは、この学園に通う生徒にとって、周知の事実であった。なぜ知っているのかというと、これもまた奨学生のシステムにある。


 財閥関係者の多く在籍する学園において、奨学生というシステムは腐敗を呼びこむ。裏口入学やら、不当な献金など不穏なものが嫌でも引っ付いてくるだろう。

それを払拭するために行われたのが、奨学生の開示である。なぜその者が奨学生になったのかを張り出すというシステム。


 勿論、奨学生のプライバシーという問題もあるが学校側は客観的な評価であるという証明ができるし、生徒は具体的な理由を知ることができるため目標を建てられる。そもそも、財閥子息、令嬢の多いこの学園においては優秀であることは誰にとっても望ましいことであって、からかいの対象になることはない。

出る杭が打たれるということは絶対にないのだ。


 成績が良い、スポーツで記録を出している。単に学年一位であるだけでは足りず、そこからさらに優秀でなくてはならないのである。そういった理由なら、羨望を向けられるだろう。

  

 それがなんだ俺の理由は。


「志島 克人 女子力優秀につき奨学生とす」


 朝学校に行くと、これがいたるところの掲示板に張り出されていた。いくら治安のいい学校だからと言っても流石にいじめられるのではと一瞬、不安にも思ったが実際はただただ好奇の目を向けられただけであった。これも学費のためだ。致し方ない。


「なんか、うん。いや、えーっと、おめでとう……?」


 教室の席に着いた途端、後ろの席の友人が戸惑ったように声をかけてきた。その他のクラスメイトもほぼ同様の反応である。


「ありがとう」

「ま、理由は何であれ良かったな。奨学生っつったらあの極上美人二人組の仲間入りだろ。なんというか、お前があそこに入るのか、画が汚れるな」

「余計なお世話だ」


 俺は言葉少なく友人をあしらい、放課後までひたすらに耐えた。授業ごとに教師がこちらに気づいては目を逸らしていく。早く慣れよう。結局諦めて、何度か授業を抜け出したが。

 そんな一日を過ごした俺はいよいよこの扉を開くのだ。ごちゃごちゃと考えてきたが、学費がタダになる上、美人と同じ部活に入れるのだ。文句を言ったら罰が当たるというものであろう。俺は意を決し、扉をたたいた。

 こつんこつんという乾いた音がほぼ無人となった校舎内に響く。


「はーい。どうぞー」


 数秒経ったところで中から、少しくぐもった女性の声が聞こえてくる。


「失礼しま-す」


 緊張のあまり少し大きすぎたような気もしたが、一応礼節に沿った言葉と共に扉を開けた。


「っえ、男の声……っ、きゃぁぁぁあああ」

「せっちゃんじゃない? あらまーっす。一応、あたしも叫んでおくっすかね。きゃああー」


 扉を開けた途端聞こえてきたのは、二つの女声。

一つは耳から吸い込まれそうになるほど澄んだ声。

 もう一方は、明るさを余すことなく伝える芯のある声。

 

 目の前に広がっていたのは……ゴミだ。


「何だこの部屋は! 汚いなんてもんじゃねぇぞ!」

「あられもない姿を見て、汚いとはあなた、よっぽど度胸があるのか脳みそが足りないのか。しっかりと目に焼き付けなさい。わたしは綺麗よ」

「いや、汚いのはお前じゃなくてこの部屋って、なんちゅう格好をしてるんだ。早く服を着ろ」

「普通、女性の着替えを見てしまったらまずは扉の外に出るべきだと思うんですが」

「あ、確かに。すまん。この部屋の汚さに気を取られてた」

「はぁ。もういいです。着替え終わりましたから」


 俺の方を見た少女は、殺気のこもった眼で俺を見ている。青い髪を腰まで伸ばしている少女は、腰に手を当て平静を装っているようだが、白い肌のせいもあって頬は分かりやすく紅潮していた。

 そして、俺たちのやり取りを楽しそうに見ていた少女は、赤いショートヘア―を少し揺らしながら興味津々といったようにこちらを見ていた。


「こんちはっす。あなたが、新しい奨学生っすか。女子力っていうからてっきり女の子だとばかり思ってたっすよ」

「なるほど、だから不用心に俺を招き入れたってわけか」


 名前を確認すればわかるようなことの気がするが今は無視しておこう。


「そうっすね。ほら、美樹さんもそんなに怒らないで」

「はぁ、もうほんとに最悪ですね。ですが、今回の件については、わたしに非がありますので不問としましょう。以後、ここに現れないというのであれば、それ以上の要求は致しません」

「不問になってないっすね」


「俺はこの部活に入らなくちゃならないんでな。残念ながらお前の要求は受け付けられない」

「ほら二人とも、こういうのは早めに仲直りしたほうが良いっすよ。そこ座って」


 赤髪少女に促されるまま、教室奥の畳へあがり腰を下ろす。青髪少女もしぶしぶといった様子ではあるが同じく腰を落ち着けた。


「あたしの名前は赤坂あかさか 悠陽ゆうひっす。悠陽って呼んでくれると嬉しいっす」


 座ったとたんに自己紹介を始めた少女は、日焼けだろうか健康的に焼けた小麦色の肌をしており、ニカッと快活そうな笑みを浮かべている。


「わたしは青山あおやま 美樹みき。一応、よろしく」

「美樹ちゃんって呼んでね!」


 不機嫌さを隠そうともしない青髪少女は、後ろに隠れて余計なことを言った悠陽に睨みをきかせている。


「俺の名前は志島しじま 克人かつとだ。最初に聞いておきたい。この部屋はなんだ、物置か?」

「違うわ。ここは正式な部室よ」

「少し狭いっすけど、我慢してください」


 いたって真面目に言うこの女共に俺はできる限り冷静に、気を張って問い詰めた。


「そうか、それしゃあそこに転がっているのは?」

「ドラム缶ですね」


「それは?」

「バスケットボールっす」


「あれは?」

「何かの石像かしらね」


「これは?」

「魔剣ですね」


「そうかそうか。はっきり言おう。汚すぎるだろ!」

「そうですか?」

「あっ、あたしの魔剣はもっと大事に扱ってほし……投げ捨てないでっ」


「掃除するぞ」

『えー』

「えーじゃない」

『ぶー』

「廊下に立ってろ!」

『は……はい』


 有無を言わせず二人を追い出した俺は、まずは明らかに部活と関係のなさそうなものを廊下に投げ捨てていく。


「学園長のところ行って、それどうすればいいか聞いてこい」


 気迫に押されたのか、二人は素直にここを離れたようだ。さっさと済ませてしまおう。


 まさか、俺が奨学生になった理由って……。


 まさかな。

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