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【完結】侍は迷宮を歩く  作者: DRtanuki
幕間:アーダル外伝:はじめてのパーティ
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外伝七話:オーガとの戦闘

 向かってくるオーガ(人喰い鬼)は誰を狙っているのか。

 オーガの視線を探ると、一歩前に立っているイサームの方を見ているのがわかる。


「イサーム! オーガの攻撃はまともに受けるなよ!」


 ユリウスが叫ぶ。

 剣を構えていたイサームはユリウスの声に反応し、素早く横に転がった。

 オーガはそのまま体当たりの体勢に移行しており、そのまま突っ立っていたらイサームは吹き飛ばされていただろう。

 後衛の僕たちもオーガが通り過ぎるルートは開けておいて、避ける。

 オーガは既に勢いが付きすぎており、減速できずにそのまま僕らの後ろの壁まで通り過ぎていく。

 もちろん壁に突っ込み、突っ込んだ部分の壁は跡形もなく砕け散る。

 轟音が迷宮に響き渡り、皆は顔をしかめて耳を塞いだ。

 もうもうと土埃が舞い、天井からは埃や細かいチリが落ちてくる。

 石造りの壁はちょっとやそっとの衝撃では砕けるものではないのだが、オーガの膂力に掛かれば柔らかいチーズのようにボロボロと砕けてしまう。

 壁に突っ込んだからにはオーガも無事では済まないかなと思いきや。


「全然ダメージがありませんな」


 ルロフが息を呑む。

 仲間はオーガの圧倒的な大きさと力を目の当たりにして、動きが固い。


 オーガは地下三階の魔物で正直な所、地下一階を探索するパーティにとっては手に負えない程強いのは間違いない。

 階層を一つ下るだけでも生息する魔物はがらりと様変わりし、地下一階の探索を余裕で行えるようになったとしても、地下二階をすぐに全部探索できるようになるわけじゃない。

 それにしても、魔物にはそれぞれのテリトリーがある。

 棲んでいる階層をある程度巡回などはしているけど、別の階層にまたいでやって来る事はごく稀だ。

 さっきのパーティは一体オーガに何をやらかしたのだろうか。


 後衛の背後にオーガが来る形になったので、前衛と後衛が位置を入れ替える。

 しかし、僕はあえて前に立った。


「アーダル、君は盗賊だろ? 前に立つなんて危ないぞ」

「わかってるよイサーム。でも、僕ならやれる」


 皆が怪訝な顔をしているが、僕はこれでも盗賊の迷宮を攻略した自負がある。

 ミフネさんと一緒とはいえ、様々な魔物と戦ってきた経験がある。

 だからオーガを見ても、思ったより怖さを感じなかった。

 

 そうさ、僕ならやれる。


 少なくとも、竜人の騎士や亡国の女王より強い訳が無い。

 僕は更に一歩前に出る。

 オーガは前に出た僕を見て、ターゲットを僕に絞ったらしい。

 オーガの顔に笑みが浮かんでいる。

 戦う事が至上の歓びだとか言う、鬼人。

 鬼とは言うけど、多分ミフネさんに憑りついている鬼神に連なる存在ではないと思う。

 そんな事を考えていると、オーガは力任せに右腕を振りかぶる。


 遅い。


 僕は弓を構え、矢を放つ。

 エルフの弓と水晶の矢ではなく、普通のショートボウと鉄の矢だ。

 矢は容易くオーガの体に刺さるものの、まるで意に介していない。

 その勢いのままに右腕を僕の頭に振り下ろしてくる。

 前に転がり、オーガの横をすり抜けるようにして躱す。

 拳が地面に叩きつけられ、石畳の一枚が破壊されて破片が飛び散る。


 やっぱ、弓じゃだめだな。


 致命傷を与えるには肉を切って骨を断つ武器じゃないと。

 弓じゃ目を撃ちぬいて脳天まで達する狙撃能力がないと無理だ。

 僕はハンドアクスに持ち替える。

 次いで、オーガは今度は左腕を振りかぶった。

 今度は振り下ろして来た拳を皮一枚の際どさで躱し、腕をハンドアクスで斬りつける。

 腕から鬼の青い血が噴出する。

 少し浅いな。

 それでも出血は、オーガの顔色を変えるには十分だ。

 

 うん、戦える。この調子で出血を強いればいけるはず。


 そう思った矢先、横から鋭い何かが飛んできた。

 とっさにレザーシールドで胴を守ったが、蹴られた衝撃で横の壁に吹き飛ばされた。

 一体何を喰らった?


「回し蹴り!? オーガの癖に武術みたいなものを会得しているのか」


 イサームが呻いた。

 回し蹴り。なるほどね。体術を使うとは思わなかった、油断したな。

 吹き飛ばされて背中を壁に叩きつけられた。

 体は動くだろうか。

 痛みはある。でも骨は折れて無さそう。レザーアーマーが衝撃をちょっと吸収してくれたのかな、運が良いな。

 僕の動きに触発されて、ようやく前衛三人が動き始めた。

 でもまだ腰が引けている。

 果敢に向かっているのはイサームくらいだけど、流石の彼もオーガの一撃をまともに喰らったら不味いと思ってか、踏み込みが浅い。


「くそっ」


 立ち上がり、体の動きを確かめる。

 まだ動ける。まだやれる。

 オーガは三人を適当にあしらいつつ、僕に再び向かってくる。

 そうか、僕さえ殺せば後は簡単に処理できると思っているのか。

 ならば。


「リース! スリープ(睡眠)を唱えて!」

「了解」

「イヴェッテとルロフはプロテクション(物理防御上昇)覚えてる?」

「わたしは覚えてる」

「なら、イヴェッテは前衛の三人にそれぞれ唱えて! ルロフはイサーム、ユリウスと一緒にオーガを叩いて!」

「承知」

「アーダルはどうするんだ?」

「僕はスリープが通るまで囮になる」


 矢継ぎ早に指示を繰り出し、それぞれ動き始める。 

 リースヴェルトの詠唱を待つ間、僕は攻撃をせずにじっとオーガの攻撃を待ち、躱す。

 他の三人もオーガを叩こうとするが、オーガの攻撃に怯む。

 幸いプロテクションのおかげで、喰らっても骨を折るような重傷を得てはいないけど、それでも壁に吹き飛ばされたり地面に叩きつけられてそれなりにダメージは貰っている。

 まだ迂闊に攻めこんじゃあダメだ。

 三人にはちょっとけん制する程度にしてもらい、僕がオーガの周りをうろちょろする。

 オーガの前蹴り、回し蹴り、そこからの振り下ろし殴り。

 コンビネーションもやるのか。

 でもどれもよく見ればなんてことはない。

 

 ちらと背後をみやる。

 時間を稼げたおかげで、リースヴェルトの詠唱が完了した。


「スリープ!」

 

 唱えた瞬間、オーガは途端にふらふらとし始めた。

 何度も目をしょぼつかせ、突然の眠気に襲われて困惑している。


「かかった、いくぞ!」


 イサームの叫びを皮切りに、前衛三人の総攻撃が仕掛けられる。

 魔術による眠気は長くは持たない。

 即座に畳みかける。

 イサームが胸を斬りつけ、ユリウスが太腿を刺し、ルロフが背骨を思い切り叩く。

 如何に初心冒険者と言っても、無防備な所に攻撃を喰らえばオーガでも怯む。


「かってえ! 一体どんな筋肉してやがる!」


 イサームが叫ぶ。


「うおおおっ!」


 僕は飛びつき、オーガの首筋を狙ってハンドアクスを叩き込む。

 手ごたえはあった。

 首筋から血が噴出している。

 オーガは人型だから、急所も基本的に僕らと同じはずだ。

 でもイサームが叫んだ通り、筋肉がマジで硬い。

 僕の腕力と技量では、この武器では、首の切断は無理だった。


「GUOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


 それでもオーガには十分な傷を与えられたようで、僕らを腕の薙ぎ払いで吹き飛ばし、慌てて階段の方へと逃げて行った。


「追撃、するか?」

「いや……やめておこう。今の僕らでは手が余る。逃げたならそれでいいよ」


 手負いの魔物は、追い詰めすぎると時に凶暴さを露わにする。

 そうなった場合、逆にこちらが何人か殺されるかもしれない。

 まだまだ僕らの力は足りない。


「ああーっ。流石にもう限界! 魔力無くなっちゃった」


 イヴェッテが座り込んでわめいた。

 リースヴェルトも顔色が悪い。

 前衛たちもオーガの圧力に消耗したのか息切れしている。


「引き上げようか。ちょっとしたお宝も手に入ったし、初めての冒険を祝おうよ」

「ああ、でも迷宮から脱出するまでが迷宮探索だろ?」

「そうだね。気を引き締めて帰ろう」


 イサームの言う通り、戻る道で魔物に遭遇して全滅してしまうパーティは数知れない。

 地下一階でも油断せずに戻らなくちゃ。


 

 ……幸い、僕らは魔物に遭遇する事なく地上に戻る事が出来た。

 その時のみんなの安堵した顔は忘れられない。

 

 みんなを生きて帰す事ができた。

 それが僕にとっては一番うれしい。

 次もみんなで迷宮に潜って、生きて帰るんだ。

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