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【完結】侍は迷宮を歩く  作者: DRtanuki
幕間:アーダル外伝:はじめてのパーティ
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外伝二話:世の中そんなに甘くない

「うーん、中々僕が受けられそうな依頼は無いなあ」


 冒険者ギルドの二階に掲示された依頼書の数々を見て、ため息を吐いた。


 二階の手すりから下の様子を眺める。

 一階は酒場になっており、依頼を受け終えて対価を得たり、迷宮探索をして宝を分け合っている冒険者たちが酒を飲みながらバカ騒ぎしている。

 早く彼らのようにお酒を飲めるようになりたいなぁ。


 掲示板には数々の依頼が張り出されている。

 例えば、「隣街までのキャラバン護衛」、「北の山脈の断崖にてイワツバメの巣を採取」、「西の国境沿いの草原で薬草採取」、「道案内:北の山脈寺院まで」などなど。


 色んな依頼があるけど、僕が受けられそうなものはほぼ無かった。


 例えば、「キャラバン護衛」はまず護衛の人数が一パーティ必要という条件があった。

 商人キャラバンを野盗や獣から守る為には一人では厳しいからだ。

 「イワツバメの巣採取」は、まず僕に土地勘が無いのもあって無理だ。

 まだこの国に来てから三か月くらいしか経ってない。

 首都サルヴィの街ならともかく、他の場所に足を運んだ事がほとんどない。

 道案内をつけて向かったとしても、断崖を登り降りする技術や道具が無い。

 よってこれも無理だ。

 「道案内」の依頼も僕が土地勘が無いから不可。

 受けた所で更に道案内が必要になり本末転倒だ。


「薬草採取ならなんとかなるかなぁ?」


 この依頼は、依頼主のアルケミストと共に行くし、何よりイル・カザレム西の国境はシルベリア王国だ。イル・カザレムとの仲はけして悪くない。

 また国境沿いの草原は大型の獣はおらず、治安も安定している。

 となれば、これを受けてみようかな。


 ギルドの依頼受付のカウンターまで向かい、職員に尋ねてみる。


「すいません。この薬草採取の依頼を受けたいのですが」

「ああ、申し訳ありません! この依頼は今しがた他の冒険者の方が受けてしまいまして」


 ええええ、そんなあ。


「依頼成立のサインを書こうと思っていた所なんです。本当にすみません」


 職員さんに頭を下げられてしまった。

 受けられないものは仕方ない。

 再度、他の依頼書を睨んでみたものの、やっぱり単独で経験不足の盗賊が出来そうな依頼は無かった。

 

 わかっちゃいたけど、やっぱり厳しいな。


 バリバリと頭を掻く。

 こうなったら仕方がない。

 臨時の迷宮探索パーティでも組むしかないか。



 サルヴィの迷宮は、何時から存在するのか定かではない。

 一説には、とある魔術師が研究を行う為に作ったらしいけど、今はその魔術師も迷宮には居ないらしい。

 迷宮探索は昔はそんなに行われていなかった。

 せいぜい、探索そのものが好きという人が潜り込んでみたり、あるいは宝があるという噂を聞きつけてやってきた盗賊が単独で挑んでみたりとか、その程度だった。

 大した宝も見つけられずに引き上げる連中を笑うのが定番だった。

 

 事情が変わったのは、東国からやってきたと言われる鬼神が迷宮の主に収まったと言う噂が広まってからだった。

 そもそも誰が鬼神を目撃したのか、それすら不明だったけどその姿は何故か今まで伝わっている。

 鬼神はまるでミフネさんが使っているカタナを持ち、鎧を着こんでいると言う。

 まあ東国から来たって言うし、そう言うのを持ってても不思議じゃないよね。

 

 鬼神が主となって以来、迷宮に蔓延る魔物の数が飛躍的に増えたのだ。

 迷宮内をうろついているだけならまだしも、時折地上に現れては都市までやってくる魔物も居たり、あるいは都市に居られなくなった犯罪者や後ろ暗い人々が迷宮を根城とするようになり、治安が飛躍的に悪化した。


 だから、イル・カザレムの時の王様は迷宮の主の討伐命令を下したのだ。

 およそ五百年前の話になる。

 最初は普通の兵隊たちを行かせたのだけど、彼らは誰も帰ってこなかった。

 次に選抜部隊を組んだのだけど、それも音沙汰無し。

 仕方が無いから王直属の親衛隊を向かわせた。

 三度目の正直を期待した王様は、しかし二度ある事は三度ある事態となってしまう。

 

 帰って来たのは、親衛隊の隊長ただ一人だった。

 一番腕が立つと言われた彼ですら、城に戻って来た時には息も絶え絶えの状態だったらしい。


「迷宮に潜んでいるのは強烈な悪意。あれに立ち向かうには並大抵の者では不可能……少なくとも我らには」


 隊長はそう一言残して息を引き取った。


 そういう訳で、迷宮の主を討伐できるのならもはや何処の誰であろうと問わない。

 討伐できた暁にはその者が望む宝、あるいは待遇を与えるというお触れが下された。

 その話を聞きつけて、イル・カザレム国内のみならず、国外からも冒険者たちが次々と訪れるようになり、そのおかげで国は栄えるようになった。

 でも、未だに迷宮の主は討伐されていない。


 五百年も冒険者たちは地下五階以下に踏み込めず(ミフネさんは単独で地下六階までは潜ったらしいけど)、足踏みしている。

 それには理由があって、迷宮は浅い階層でもそれなりに宝があったりする。

 何処から魔物たちが調達してくるのかは知らないが、それも迷宮の魔素マナがなせる業なのかもしれない。

 多少の危険を承知で地下三階~四階までを一年うろうろしているだけでも、それなりの財を築けてしまうのだ。

 

 今となっては真面目に迷宮の下まで潜ろうとする冒険者たちは少ない。

 それでも、いずれは自分が迷宮の主を倒すという野望に溢れた人々がいる。


 僕たち初心冒険者だ。

 僕らはまだ経験不足なだけに、経験を積んだ冒険者たちはまず組もうとはしない。

 だからお互いに、まず初心者同士で仲間を募る。

 経験を積むために。魔物を倒すために。

 ゆくゆくは背中を任せるに足る仲間を見つけ、真のパーティを組んで迷宮を踏破するために。

 

 臨時パーティを組む場所はギルド二階にある。

 待合室のような場所で、そこはいつでも登録を終えたばかりの新人冒険者でごったがえしているのだ。

 

 その部屋の前に立つと、既に中から声が漏れ聞こえてくる。

 やっぱりかなりの人数が中に居るんだな。

 ドアノブを捻り、扉を開けると熱気がむわっと伝わってきた。

 僕が部屋に入ると、一瞬話し声が途絶えて視線が一斉にこちらを向いた。


「盗賊か」

「盗賊、あんまりいなかったよな」

「誘ってみるか」


 などと言った話し声が次々と聞こえてくる。

 なるほど周りを見回してみれば、盗賊の格好をした人はあまり多くない。

 代わりに戦士が若干多いかなという程度で、魔術師と僧侶は同じくらいだろうか。


 冒険者になる時、まず職業の適性を最初に見られる。

 だいたい、力自慢の若者は数が多いから戦士になる人が比率的に多くなる。

 その次に信仰心が篤い人で、彼らは僧侶になる。

 同じくらい、比較的知恵のある人が魔術師となる。

 知恵か信仰心があれば僧侶か魔術師には就けるので、力自慢の僧侶なんかが居るのは珍しい事ではない。

 

 そして最後に、僕のように体力や筋力がそこまでなく、賢くなく信仰心がそこまであるわけでもないけど、素早さと器用さがある人が盗賊となる。

 実は生来の運の良さも関わっているらしいけど、僕にはピンとこなかった。

 他にも職業があるんだけど、まずド素人が就ける冒険者職業としてはこれら四種となる。

 

 盗賊は戦いでは中々活躍しづらいけど、迷宮を安全に歩き、宝を探し求めるなら必須だ。

 なんせ迷宮は罠が張り巡らされてるし、宝箱にも罠が仕掛けられているのだから。

 

 みんな誰もが目立つ職に就きたがる。

 盗賊はそれほど人気がない。戦いで活躍出来ないから。

 でも、一度でも罠解除に失敗したり、迷宮の悪意に引っかかった冒険者であれば、盗賊の存在は痛いほどに必要だと実感する。

 僕はこないだの冒険で嫌と言うほど迷宮の危険性を味わった。

 それ以外にも隠し扉や戸棚を見つけるのにも、盗賊の研ぎ澄まされた勘が必要になる。

 

 ミフネさんも迷宮を歩くなら盗賊は絶対に必要だと言ってくれた。

 だから僕は盗賊であることを卑下しない。

 誇りに思う。


 部屋に入って周囲を見回していると、一人の癖毛の戦士が僕に近づいてきた。


「君も仲間を探しているんだろう? 俺のパーティに入ってくれないか」


 願っても無い事に、僕から誘う前に向こうから誘いがやってきた。

 さて、今回組むパーティには一体どんな人たちがいるんだろう?

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