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stage12









 不思議なメンツだなぁと、エメリナはボックス席に一緒に座る者たちを見た。エメリナの左隣にベロニカ、そのさらに隣にヘラルド。エメリナの右隣りにはクルス。この四人で、オペラを見に来ていた。

 自分が言いだしたこととはいえ、よくみんないいと言ったものだと思う。特に、ベロニカとクルスなどほとんど面識がないはずだが。

 提案は、ベロニカからだった。誘われたなら、一緒に行けばいい。しかし、ベロニカとも先に約束しているし、昼間に移動動物園に行った時とは違い、オペラに行くとなると夜に密室で二人、と言うことになりかねない。

 それはよろしくないだろう。父はもちろん、いくら天然入っているとはいえ一般的な常識くらいはある母だって許可しない。

 なら二人じゃなければいいんじゃない? とベロニカ。確かに、ベロニカも入れれば二人にはならないが、女二人に男一人もどうなんだろう。じゃあ、監督役に兄を入れよう、と言うことで今ここに至る。

 女同士でならともかく、兄や一応友人……? の男性と見るにはちょっと恥ずかしい内容だなぁとエメリナは思った。隣で、ベロニカは真剣な面持ちで見ている。涙ぐむ人もいる中、彼女の見方も変わっているな、と思った。


 先日のアルレオラ伯爵家での夜会で披露された人形劇のオペラバージョンである。ロマンスだ、ロマンス。

「うーん、オペラもいいわよね。音楽が壮大で臨場感があるわ」

「内容見てたわけじゃないんだ」

「いろいろ版があるから、比べてみると面白いのよ」

 ニコッと笑ってベロニカが言うので、エメリナもつられて笑みを浮かべた。アンコールも終わり、拍手が鳴り響く。

「……しばらく待ってから出るか」

 今、出口に人が殺到しているだろう、とヘラルドが言った。確かにエメリナもそう思う。近衛に所属しているだけあって、その辺の段取りが得意な兄だった。

「クルス様、どうでした? 退屈じゃありませんでした? お兄様とか、確実に寝てましたけど」

「エメリナ!」

 ヘラルドから半泣きの声が飛ぶ。寝てたわねぇ、とベロニカもけらけらと笑った。これでも、ベロニカはこの従兄のことが好きなのだ。大好きだ。観察対象として。

「なかなか興味深かった。古典を今風に書き換えてるんだな」

 おお、さすがはデル・レイ侯爵家のご令息。教養がある。一応エメリナも調べたので知っているが、初見でそれが出てくるのは普通にすごい。

「さすがですねぇ」

「……一応、広く知っておくことが大切だと思うから」

 クルスが少し照れたように言った。それから言う。


「誘ってくれてありがとう」


 この人、本当に生真面目だなぁと思いながら、「先に誘ってくれたじゃないですか」と笑う。しかも、勝手に二人ほど連れてきてしまった。

「楽しんでいただけたなら幸いです」

 一応、礼儀としてそう返した。クルスはじっとエメリナを見つめて、つぶやくように言った。

「本当は……」

「なんですか?」

 聞き取れずに首をかしげて問い返したが、クルスは顔をそむけた。見えている耳が赤い気がする。

「二人とも! 行くぞ!」

 兄の大きな声に、エメリナとクルスはそろってびくっとなる。ヘラルドはクルスを半眼で見ていて、睨まれたクルスは顔をひきつらせていた。

「お兄様、顔怖いって」

「……お前……いや、お前はそういう子だけどさ!」

 茶化すように言うと、ヘラルドはため息をついて肩を落とした。
















「やっぱりクルスのやつ、エメリナに気があるんじゃないか」


 どこかで聞いたようなことをヘラルドも言いだした。オペラハウスからの帰りのことだ。ベロニカとクルスを送り、エメリナはヘラルドとアルレオラ伯爵家に向かう。

「それ誰かにも言われたわ」

 ベロニカだったかマルシアだったか忘れたけど。どっちでもいいので覚えていない。

「じゃあほぼほぼ確定じゃん! あの堅物が義弟になるのかぁ……」

「なんで確定なのよ。私何も言ってないんだけど」

 エメリナが容赦なくツッコミを入れると、ヘラルドは眉をひそめた。

「お前、クルスのことは嫌いか?」

「……好きか嫌いかで聞かれたら、好きな方だと思うけど」

 少なくとも嫌いではない。義務感とはいえ、あれだけ気にかけて優しくしてもらって、エメリナも悪い気はしないし、ほだされるのも仕方のないことだと思う。


「……そんな都合のいいこと、あるわけないでしょ」


 ため息をついてエメリナが言ったとき、馬車がアルレオラ伯爵家に到着した。先に降りて妹に手を差し出しながら、ヘラルドは呆れたように言った。

「お前、現実主義者も行きすぎると弊害だぞ」

「余計なお世話よ」

 兄に甘えるように頬を膨らませ、エメリナは兄の手を取って軽やかに馬車から降りた。

「とはいっても、お前、大学を卒業した後の進路を決めたのか?」

 もともとはそういう話なのだ。ヘラルドはちゃんと覚えていたらしい。エメリナはうーん、と首をかしげた。

「……実は、エンシーナ公爵家に潜入捜査みたいなことをしたときは楽しかった」

「……今、お前ってやっぱり母上と父上の娘なんだなって思った」

 自分も息子だろう、と言うツッコミはあえて入れない。基本的にアルレオラ伯爵家には変人しかいない。たぶん、この兄が一番まともな感性をしているのではないだろうか。

「ちょっとね、興味があるだけだけど」

「やりたいことなんてそれで充分だろ。お前は伯爵令嬢なんだし、普通に考えれば仕事なんかしなくても生きていける」

「でも、ずっとこの家にお世話になるわけにはいかないじゃない」

「お前一人くらいなら養えるぞ」

「それはちょっと」

 経営学などを学んでいれば、領地の維持とかで手伝えたのに、何故法制史を選んでしまったのだろうか……当時はそれにいちばん興味があったのだ。

「……お母様から経済学を学ぼうかしら」

「いいんじゃないか。母上、喜びそう」

 兄妹そろってあまり感情が顔に出ない母の喜ぶ姿を思い浮かべる。穏やかに笑っている姿しか思い浮かばなかった。でも、教えるとなるときっとスパルタだ。


「な、何事も経験」

「母上のセリフだけど、ホント失言」


 ヘラルドがまじめな表情で言った。仲良く話していたので誰も声をかけなかったが、すでにエントランスに入っていた二人の様子を、使用人たちが微笑ましそうに見ていた。

「ていうか、経済学まで学びだしたら、お前、王太子殿下の側近まっしぐらだぞ」

「えっ」

「むしろ、母上と同じ道を歩むコース」

「ええっ!?」

 エメリナとヘラルドはそれほど年が離れているわけではないが、やはり両親から得ている情報に差があるな、と思った。

「今度、母上の話聞いてみろよ。父上からな。面白いから」

「面白いんだ……」

 面白いとは対極にいる人のような気がするけど。仲の良い兄妹を、やはり使用人たちは微笑ましく見守っていた。








ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


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