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stage01

新連載です。よろしくお願いします。









 アルレオラ伯爵令嬢エメリナは屋敷のエントランスに入った瞬間持っていたクッションを床にたたきつけた。

「もうっ!」

「エメリナ! というか、馬車からクッションを持ってくるな!」

 エメリナが床にたたきつけたのは馬車備え付けのクッションだった。本当は靴や髪飾りでもいいのだが、そんなものをたたきつければ兄どころか宮廷の影の支配者と言われる母に怒られる。


「まあまあお兄様。お父様とお母様が帰ってくる前に発散させておいた方がいいわよ」


 のんびりと言ったのは姉だ。母譲りの淡い金髪に碧眼。文句なしの美女で背も平均より少し高い程度。性格はどちらかと言うと父に似ている。

「いや……そうかもしれないが、しかしだな!」

「お兄様、うるさい!」

 エメリナは振り返って長身の兄に向かって叫んだ。兄ヘラルドは妹二人から攻撃を受けて「うっ」となった。ヘラルドの背中を姉のマルシアがさすった。


「まあまあ。エメリナもこっちに来なさい。お話ならお兄様とお姉様が聞いてあげるわ」


 エメリナは唇を尖らせたが、姉の言葉にひとまず怒りを鎮めた。両親に見つかるのは避けたいと本人も思ったからだ。近寄ってきた妹の手を姉が握る。

「じゃあ、着替えてからお兄様の部屋に集合。いいわね」

「うん」

 勝手に妹たちの集合場所にされた部屋の主ヘラルドは、妹たちには逆らわずに引っ込んで行った。エメリナは髪をほどきドレスを脱ぎ、化粧を落としてから室内着に着替え、ヘラルドの部屋に向かった。

「あ、お姉様はまだなのね」

「お前が早いんだろ」

 と、こちらも室内着に着替えたヘラルドだ。エメリナは兄の部屋に入り、置かれたソファにぽすんと座る。一人がけの椅子に座るヘラルドをじっと眺めた。兄がびくっと体を震わせる。

「な、何だ?」

「……別に」

 ぷいっとエメリナは顔をそむける。そこに、マルシアがやってきた。

「あら、早いわねエメリナ。さて、どーんと話を聞いちゃうわよ」

 こんな感じで、姉はちょっと変人だ。いや、エメリナは自分も変わっている自覚はあるけど。

「またふられたの?」

「人が惚れっぽいみたいに言わないでよ。違うわよ。またベロニカと比べられた……」


 ベロニカはエメリナと同い年の従姉妹だ。そのため何かと一緒に行動するのだが、従姉妹とはいえタイプが全く異なる二人なのである。

 従姉妹のベロニカは、彼女の母親に似たはちみつ色の髪と淡い青緑の瞳をした少女で、父親譲りの柔らかな顔立ちをした美少女である。背丈は女性にしては少々高いが、出るところの出た体形をしている。

 対するエメリナは外見は父親似の中身は母親似と言われる。明るめの茶髪に青みがかったグレーの瞳。父は優しげな顔立ちをしているが、彼女がややきつめの印象を与えるのは目元がきつめだからだろう。全体的に父親似なのに、目元は母に似ている。

 性格もきつめと言われる。自分でも気が強いなぁと思う。性格が可愛くない。まあ、外見も美人ではないが不細工ではないので、最大のネックは性格だろうなぁと思う。さらに、エメリナの兄妹は全員そうだが、両親譲りで頭がいい。それが男性には不評だったりする。

 加えてエメリナは女性にしてはかなりの長身だった。両親とも長身の家系なのだ。父は普通くらいだが、母は女性にしては背が高い。その母より、エメリナは背が高い。


「いや、ベロニカは可愛いわよ。可愛いってもてはやしたくなるのもわかるわよ。でも、ベロニカをほめるのと私を貶すのは別でしょ! セットじゃなくてよくない!?」

「お前……今日はその調子で論破したんだな……」


 やれやれとばかりにヘラルドが首を左右に振った。エメリナは兄を睨み付ける。


「うっさい!」


 物理的攻撃としてクッションが兄を直撃した。マルシアが「あなたたち、仲いいわよね」とちょっとすねたように言う。確かに、エメリナとヘラルドが喧嘩しているのを、マルシアが笑ってみていることが多い気がする。

 それにしても、よくあるのだが、ヘラルドの元に『お前の妹が生意気だ』と苦情が入ってきたらしい。これはもう、夜会に出るとお決まりなのだが、エメリナが声をかけてきた男性を論破してしまう。と言うか、声をかけてきた非常識なことを言う男性に正論を言っているだけなのだが、それが気が強い、生意気だ、と言う話になり、現在に至る。

 また隣にいるのが庇護欲を誘うベロニカなのも事態に拍車をかけているのだろう。エメリナは不細工ではないが、きつめの顔立ちで実際に気が強い。これでも母くらいの美女なら何かが違ったのかもしれないが、世の中そんなに甘くない。


 姉のマルシアはもちろん、兄のヘラルドも美形に分類される。騎士の家系である父方の血が強く出たのか、お前本当に両親の子か? と言うような美丈夫であるが、美形は美形だ。アッシュブラウンの髪に青い瞳をした美丈夫。上二人が美形だからこそ、エメリナは余計に憐れまれる。

「激しく余計なお世話なんだけど!」

「そうねぇ。エメリナはこんなに可愛いのにね」

 マルシアが妹の頭を撫でまわす。エメリナはぶすっとしながらされるがままになる。

「せめてお姉様の半分くらい美人なら……」

 いや、でも、性格は変わらないから一緒か。結局いつも通り自己完結してしまった。

「人間、外見だけじゃないだろ。実際、うちだって母上はものすごい美人だが、父上は普通だろ」

「あれはお母様が異常。お父様はダンディだわ」

 ヘラルドの言葉に、エメリナがそう返した。いや、母は本当に美人なのだ。父は顔立ちは普通だが、大人の男、と言う感じで素敵、と言う意見もある。マルシアも「確かに、たまに聞くわねぇ」と相槌を打つ。

「そうなのか……いや、でも、お前は可愛いだろ」

 などと真剣に言ってくるので、エメリナは「お兄様はシスコンよね」と遠い目になる。


「エメリナは可愛いわよ。他の人たちはあなたの表面しか見ていないから気づかないだけ。そんな人の言葉にあなたが傷つくいわれなんてないのよ」


 マルシア、強い。そして正論だ。エメリナもそう思う。


「私、お母様に似てるってよく言われるけど、やっぱりお姉様の方がお母様に似てる気がする」


 その気の強さはお母さん譲りだね、と父に微笑みながら言われたエメリナだが、エメリナ自身は外見も性格もマルシアの方が母に似ていると思うのだ。

「まあ、私もお母様の娘だからね。それに私、性格はお父様寄りだと思うのよ」

 確かに、腹の底が読めない感じは父に近い気はするが! マルシアが微妙な表情を浮かべた妹の頬を引っ張る。

「ちょっと元気が出てきたみたいね。もう大丈夫かしら?」

「うん」

 エメリナがうなずくと、マルシアは頬から手を放した。ヘラルドも時計を持て、「そろそろ母上たちが帰ってくるぞ」と言った。では頃合いだ。

「じゃあ部屋に戻る。お休み、お兄様」

「ああ、お休み」

 ヘラルドが妹たちの頭を撫でる。二人とももうそんな年ではないが、笑って兄なりのスキンシップを受け止めた。

「あ、エメリナ。どうせなら一緒に寝る?」

「うん。じゃあそうする」

 仲の良い姉妹である。一人だけ仲間外れで、ヘラルドはさみしげな表情を浮かべていたが、さすがに成人した妹と一緒に寝るのは、シスコンを通り越して変態だな、と言う自覚はあった。ので、あきらめた。









ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


今日はもう1話投稿します。


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