砂糖ひとつ
喉が渇いた、少し休みたい気分だった、雰囲気のいい喫茶店だった
本当にその程度だった
だから予想外の展開に脳が着いてこなかった
「いらっしゃ………」
まさか
「…………元カレ?」
元カノに出逢うとは予想だにしなかった。
ーーーーーー
「ご注文は?」
「コーヒーひとつ」
何気ないやり取りが少しぎこちない
「ミルクひとつに砂糖ふたつね」
「いや、砂糖ひとつ」
「あ、3年前とは違うよね」
元カノが少し気まずそうにする
「そりゃ俺だって変わるよ」
俺の好みを覚えていてくれた喜びが昔と同じように蘇る
「…最近調子どう?」
元カノがきりだした
「別に…どうってことないよ」
何故か自分のセリフに引っ掛かりを覚えた
「そう、何事もないなら…」
元カノが不自然に口を閉じた
「あ、コーヒー取ってきますね」
厨房の奥に行ってしまう
心のどこかで『止めなくては』と囁くが俺にはそんなに資格はない
両手をキツく握る
「ご注文のコーヒーです」
貼り付けた笑顔を俺に向ける
コーヒーをテーブルに置き、元カノはそのまま仕事にもどる
ミルクひとつに砂糖ふたつ
俺はいつもの様にミルクを注ぎ砂糖を…ひとつ入れた
「苦い…」
いつもの様に入れたはずなのにとても苦かった