1章 8
僕の写真が公開されるという一悶着があったものの、結果的に楽しい晩御飯だった。
僕は自分の部屋のベッドに寝転がりながら、今日起きたあの出来事に思いふけていた。
真っ黒い化け物、食べられていた人らしき物、大鋏を持った絹姉さん、どれをとっても普通ならあり得ない事だらけだ。
他の人に話そうものなら、それなんてゲーム?とか、中二乙とか、言われてしまう案件だ。
まともな常識を持っている人間なら、時間の無駄と決めてまともに取り合わない。
というか僕も部外者ならそういう態度を取るに違いない。
絹姉さんに直接事情を聞いてみたい。
でも、絹姉さんは僕の質問に答えてくれるだろうか?
そもそも、それは僕が知るべき事、もしくは知ってしまっていい事なんだろか?
「佐倉君、お風呂上がったわよ。良かったら次どうぞ。」
「いえ、多分先に母さんが……っ!」
お風呂から上がったらしい絹姉さんに声をかけられて、ベッドから起き上がって振り向くと、母さんのパジャマを着て立っていた。
茹だって薄赤く染まった頬に、湿気を孕んで僅かに肌に貼り付く黒髪、熱いのか胸元をはだけさせたパジャマの隙間から見える肌に、物凄い色気を感じて無意識に生唾を飲んだ。
パジャマ自体は、見慣れてるはずなのに、着る人が違うと、こうも違うものかと舌を巻く。
「?どうしたの、地蔵みたいに固まって。」
「いえ、なんでもないです。」
エロい気分になってました、なんて言える訳ない。
気持ちが落ち着くまで、なるべく絹姉さんを直視しないでいよう。
「それにしても、相変わらず麗さんは、おっとりそうに見えて強引な人よね。
幼い頃、母が押しきられるところを何度も見たけど、見ると体験するとでは大違い。
今ならあの頃の母の気持ちが良く分かる。」
「それについて、なんかすみません。」
「別にいいの、嫌ではなかったから。
きっと、この気持ちを含めて母は麗さんの頼みを断らなかったんでしょうね。」
僕は部屋に入って来て、ずっと立っていた絹姉さんに、僕の部屋にあるロッキングチェアに座るように勧めた。
「ありがとう。それで佐倉君」
「ちょっと待って、絹姉さん。」
「ん?どうしたの?」
「そのですよ…佐倉君って呼び方は…えーと他人行儀な気がするんですよね。」
「あぁ、そういえば、いつの間にかに、私の呼び方が霧切会長から絹姉さんに替わっていたわね。」
「仕方ないでしょ、昔の事思い出したんですから。
会長ってよりもお姉ちゃんって印象の方が強くなったんです。」
僕は照れながらも本音を言うと、絹姉さんは一瞬キュンとした顔したのち、いつもの表情に戻って握りこぶしを顎に当てて考え始めた。
「さすがに、この歳になってあーくんは言う方も言われる方も恥ずかしいし、あかちゃんは、赤ちゃんみたいな響きだから除外として、
ん~~、シンプルに茜君でいいかしら?」
「うん、それでいいよ、改めてよろしく絹姉さん。」
「えぇ、よろしくね茜君。」
お互いの呼び方が決まったところで、そろそろ本題に入ろう。
絹姉さんも話を聞かせてくれるから、わざわざ僕の部屋に訪ねてくれたんだろうし、遠慮なく聞かせてもらおう。
「絹姉さん、僕を襲ったアレは何?」
「そうね。アレの事を話す前に、先に説明しないといけない事があるわ。
茜君、戦っている時の私の格好にどんなイメージを持った?」
あの時の絹姉さんの格好を思い出しみる。
身の丈ほどの大鋏を除けば、特徴的なあの赤い頭巾は、どう考えても。
「赤ずきんちゃんだよね。」
「その通り、私は自分の体に赤ずきんの力を宿しているの。
正確に言えば、童話の力ね。」
「え?それって、どういう意味?」
突然のカミングアウトに頭の中が?マークでいっぱいになった。
そんな僕を見て絹姉さんは、うーん、と言いながら、どう説明したら僕に分かって貰えるか考えて、ようやく考えがまとまったみたいで再び話し始めた。
「歴史には残されていないのだけど、大体15世紀あたりから超常的な力を持った人間が現れ始めたの。
これ等の人間の多くは歴史に名を刻んできたわ。
帝王、英雄、開拓者、武人、芸術家、哲学者、その形は十人十色だけど。」
確かに、歴史的に見ても色々と動いている。
日本は室町幕府が事実上崩壊し戦国時代になり、大航海時代の到来でコロンブスのアメリカ大陸の発見、古典古代の文化の復興をしようとしたルネッサンスが活発になり、などが起きている。
これほどの事が同時に起きたのを、タイミングや時代の流れだけでは納得出来ない。
「といっても、始めの頃は、創作物のように分かりやすい力ではなくて、桁外れているものの、あくまで人間の延長線上にある力だったらしいの。
例えば、カリスマであったり、頭脳であったり、第六感であったりね。」
「凄いけど、まだ人間みたい?な感じですか?」
「その認識で間違っていないわね。」
絹姉さんは背もたれに体を預けて、ゆっくり揺られながら、リラックスした様子で話を続ける。
「時を重ねるにつれて、力は形を変えはじめてきたわ。
始めは手品程度の事しか出来なかったけど、次第に多種多様に、そして強力になっていき、ついには人知を超える力になった。
その力にはいくかの法則と、とある物との関連性があった。」
「それが童話に関連があったと?」
「ええ、力を完全に顕象されると適応する童話に関する姿になり、童話の内容に即した能力が発言するの。
私に宿っているのは、赤ずきんだから、ああいう姿になったの。
そして童話の力を宿した人間を私達は童師と呼んでいる。」
なんとなく理解した、つまり童話を元とした力を使う事が出来るって事か。そして、その力を持っているのが童師か。
「なら絹姉さん、あの鋏と針は?」
「狼に丸呑みこまれた赤ずきんとお婆さんはどうやって外に出てきた?そしてその後お腹に石を詰めてどうした?」
そう、狼はお腹を鋏で切られ、切られたお腹を針と糸で縫い付けられた。
「そうか!もしかしてあれは異能の一つなのか。」
「そう、私の第一異能『孕斬鋏と死咒針』それがあの武器の名前よ。」
「第一?童話の異能って複製あるの?」
「ええ、でも一つの童話につき、第三異能まで、というのが法則の一つ。」
絹姉さんは一息つくように、猫のように背伸びをして一休みをする。
反った事でお腹の布まではだけて、無駄な脂肪と筋肉のない綺麗なお腹とへそが丸見えになっていて、エッチィです。
僕も立派な男の子なので、頼みますからやめてください。
「けどね、異能はそんな簡単に覚醒しないのよ。
異能が覚醒する事は、ただ単に優れた手札が増えるだけじゃないの。
私達童師には能力値という各適性パラメーターが存在しているのよ。」
「ゲームキャラのステータス値みたいな物?」
「そういう物と思って間違いはないわね。
戦闘スタイル、本人の資質、各童話の初期能力値の合計値で決定し、その後変動しない。
たった一つの例外を残して。」
「なるほど、その例外が異能の覚醒か!」
楽しそう顔をして、差し指をピンと立てて、絹姉さんはクスリと笑った。
「大正解!
異能が覚醒される度に、私達童師の能力値の各パラメーターが上昇するの。
パラメーターの最低ランクはFで、最高ランクはEX、パラメーターの値が一つ違うだけで、性能差は大きく変わってくる。」
「こう言ったらなんだけど、本当にゲームみたいだね。」
「でも、解りやすくていいでしょ?」
今までの話を聞いて、ふと興味が湧いた事がある。それは!
「絹姉さんの能力値はどうなってるの?
すっごい興味ある!」
「えー、本来、簡単に他人に教えるものじゃないのよ。
自分の能力値を知られるのは避けないとダメなの。
けど、茜君ならいいか。」
少し困った顔をした絹姉さんは、僕の頼みを聞いてくれて、机の上に置いてあったメモ用紙に何かを書き込んだ後僕に渡した。
そこに書いてあった内容はこうだった。
【名 前】 霧切絹恵
【童 話】 赤ずきん
【異 能】 第一 孕斬鋏と死咒針
第二 ???
第三 未覚醒
【筋 力】C
【魔 力】 E
【機動力】 A
【魔展開】 F
【耐 久】 E
【魔抵抗】 B
【幸 運】 D
絹姉さんの能力値は見た感じ、手数や一撃離脱を主体で闘うスピードアタッカータイプ。
しかも耐久値が低いから一撃でも当たったら、大ダメージになるから敵の物理攻撃は基本回避しないといけない。
この分、魔力抵抗値が高いから、魔力を使った攻撃があったら、ある程度無視出来る。
魔力抵抗値が高いのは普通魔術師タイプじゃない?
明らかに戦士タイプなのに、アンバランスだな。
「片寄ってるでしょ?私の能力値は。」
「そうだね。ゲームでこのキャラを使うなら、回避系の装備やスキルで回避率をガン上げするか、後衛に置いて遊撃として戦場を攪乱させるかな。」
「さらに言えば、スタミナは筋力値と耐久値依存だから、長期戦闘は向いていない。
私自身ピーキーすぎるから、常に自分の土俵の上で闘い、戦闘時間をなるべく短くするように気をつけてるもの。」
常に動き続けないといけない戦闘スタイルなのに、スタミナが少ないとか設定ミスとしか思えない。
赤ずきんの能力を考えた人は、確実に鬼畜だ。
『当たらなければ、どうという事はない』も回避するだけのスタミナが残っていて始めて言えるのだ。
「ぶっちゃけ、きつくない?」
「きついわよ、
せめて耐久値がもう2ランク上だったら良かったのにって、何度思った事か。
きっと師匠との修行であんなに痛い思いしないで済んだのに。」
哀愁漂う絹姉さんの姿に資質と才能は、自分の望んだものが貰えるとは限らない事を鏡で自分の姿を再確認して、そっと静かに同情した。