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幻想にて踊れ  作者: ロマンスの馬
7/19

1章 6

化け物に食い殺される恐怖で目を閉じて、来るべき終わりを待った。


(………あれ?いつになったら喰われるの?

痛いのは、待つのも味わうのも一瞬で終わって欲しいんだけど。)


いつまで立ってもその時が来ない事に、疑問を感じた僕は恐る恐る目を空けて状況を確認した。

眼前にあったのは、大口を開けた化け物ではなく、頭部を切断された僕に襲い掛かろうとしてところで停止している化け物の姿だった。

すぐ近くには、僕が目を瞑る前に見た、口を異常な程大きく裂けさせた化け物の頭部がゴロリと転がっていた。

改めて良く見ると、化け物の牙は返しが付いていて、さらに牙の一本一本がノコギリのようにギザギザしている。


「うわぁ、こんなので噛みつかれた凄い痛かったんだろうな。

良かった噛まれなくて。」


ついさっきまで死の覚悟をしていたのに、こんな場違いな感想が湧くあたり、僕は神経が図太いだろうか、それとも母さんからの遺伝?

なんて取り留めのない事を考えていると、化け物の身体が燃えカスの炭のようにボロボロと崩れて、崩れて先から霧状になって完全に消えてなくなった。

危険がなくなった事に安堵して一息すると、とある事に気が付いた。

そう、あの化け物を倒した奴がいる。

何もしていないのに、自然に首が綺麗に切断される事が行われるなんてありえない。

確実に誰かの仕業だ、そして下手人はまだ近くにいる。

その事実にまだ安全が完全に確保されていない事を理解し、恐怖がぶり返してきた。

コツコツという音に、ギョっとし音が聞こえて来た方を見た。

すると電柱の灯りの向こうから、何かが近付いて来ている。

まず見えたのは、身の丈くらいの大きさの巨大な鋏だった。

燃えるような赤色を基調として、金色の装飾が所々に施されたおり、芸術的だけど、見た目は完全にアニメやゲームに出てきそうな、敵を叩き斬るための大剣。

僕がそれを鋏だと認識したのは、かろうじて刀身の真ん中に切れ目が見える事と、柄の部分が少し形が独特だけど、鋏の持ち手と一目見たら分かるからだ。

そして灯りの向こうから鋏の持ち手が姿を現した。

その鋏の持ち主は、腰まで伸びた黒髪、姿勢良くピンとした良く引き締まったスタイルで、冷たいイメージを持たせるスッと長い目が強く印象に残るクールスレンダー美人さん、霧切絹恵会長だった。


「こんばんわ、佐倉君。

いい夜ね。と言う事がテンプレートだけど、生憎そうとは言い難い状況ね。

それよりも、こんな遅い時間まで外を出歩くなんて感心できないわね。夜は危険や誘惑が沢山あるのだから。」


校則違反をした生徒に注意するような、実際そうなんだけど、軽い感じで霧切会長は話し掛けてきた。 

あまりにも普通過ぎる対応で、一瞬異常な状況にいる事を忘れてしまった。


「なんで、霧切会長、ここに?」

「生徒会長としての見回り、っていうのは少し無理あるわね。」

「それよりもその鋏は?」

「これね?なんと説明すればいいのか…ッ!!」


そう言うと、霧切会長は気軽い態度から突然、何かに気が付いたような反応を示すと、目を細めて厳しい表情に変わった。


「どうしたんですか?霧切会長。」

「佐倉君、少し下がって、私がいいと言うまで大人しくしてて。」

「まだ何かあるんですか!?」

「だって、まだ終わっていないから、さぁ来るわよ。」


辺り一帯の地面から黒いモヤがかかり、空気が重くざらつき、息が苦しくなる。

黒いモヤが少し先が見えなくなるくらい濃くなると、まるで物語りのゾンビが地の底から這い出てくるように、さっき僕を襲った化け物に良く似た漆黒の獣が、次々と出現した。


「うわあぁ!また出た!さっき倒したばかりなのに。」

「さっきのは群れからはぐれたあぶれ者にすぎないわ。

なら、群れの仲間が狩り殺されたら、総出で敵討ちくらいはしてくるでしょう。」


完全に実体化した大量の化け物達は、雄叫び声を輪唱のように響かせて出来た音の大瀑布に空気がビリビリ震えて、鼓膜を破りそうな勢いで耳に襲いかかる振動に耐えかねて、僕は両耳を押さえた。 

一体残らず今にも飛びかかろうと殺気だっているのに、一向に仕掛けてこない。

強い警戒心とどう攻めたらいいか分からないから攻められないで威嚇したまま、その場から動けないでいる。

化け物達の警戒は僕ではなく霧切会長に向いている。 

当の霧切会長は、これ程の警戒と威嚇をされているのに、吹き荒れる暴風をよそ風程度にしか感じていないみたいに涼しげにしている。



「どうしたかしら、かかってこないの?

美味しそうなご馳走が、ほら、二つもあるのに来ないなんてお腹が空いていないの?

と言っても黙って食べられるつもりはないけど。」


霧切会長に語りかけられた化け物怯えたように呻き後退りした。


「それとも意外と慎み深いのかしら?

それとも私との逢瀬を出来るだけ長く楽しみたいとか、これ程多く方にそう思って貰うのは女冥利に尽きるのたけど。

でも残念、明日も学校があるの。

だから早く終わらせて帰りたいから、こちらから行くわよ。」


鋏を地面に突き刺すと、瞳を閉じて右手を胸に添えた。


「我は断つ者、魔性の腹を喰い破り滅する刃なり。

顕象し我が身に宿れ、赤ずきん!」


厳かに詠われた詠唱の後に、目が眩む程の光に包まれる。

光が晴れると、霧切会長の姿が大きく替わっていた。

大きく目を引くのは、頭に被った赤色の頭巾に、夜風にたなびく赤色のマントに、白いシャツを黒いコルセットで引き締めて、赤色のゴスロリ風のミニスカートに黒いガーターベルトを身に付けて、膝近くまで焦げ茶色のブーツを履いている。

完全にイメージ通りの赤ずきんちゃんだった。


「狼退治の始まりよ。」


強烈な踏み込みからの疾風迅雷の勢いで、敵中央を駆け抜けると同時に両手で獲物を握り、右上段から一閃した。

一気に数体の化け物を真っ二つになった。

続いて回転して方向転換すると、回転を初期加速に利用して、一度目の突進よりもさらに速度の増して、右へ左へと忙しく戦場を駆け回りながら、化け物を斬り捨てていく。


「す、凄い。」


凄く綺麗で格好いい、こんな危険な状況なのに、紅い閃光と化して鋏を振い闘う霧切会長に魅力されていた。

霧切会長はこちらを向くと、銀色の何かを投擲してきた。

飛んできた物に驚いて、目を閉じて腕で顔を覆ったけど、銀色の何かは僕の横を通りすぎた。

後ろを振り向くと、糸のように細い紐がついた銀色の棒が、今にも僕に襲いかかろうとした化け物に突き刺っていた。


「危機一髪。」


僕の無事と化け物が倒れたのを確認して、紐を引き戻すと戻ってきた銀色の棒を掴み取った。

回収した銀色の棒は大きな針だった。

針を回収をすると、近付いて来ていた化け物を蹴り跳ばして、さらに後ろにいた化け物に激突してところに、鋏を高速で投げて複数体まとめて串刺しにして、息絶えるところで、鋏のところまで近付いて斬り抜いた。


僕が惚けている間に、最後の一体を一刀両断した。

全ての化け物が倒された後、辺りを覆っていた黒いモヤが晴れると、霧切会長の手に握られた鋏が光の粒になって消えた。


「怖かった?

でも、もう大丈夫よ。」


霧切会長は僕の方を振り向くと、僕を安心させようと優しげな柔らかい笑みを浮かべた。

それに僕は事が終わった事に安堵して緊張を解いた。

だが緊張を解いた瞬間ガシッと何か足を捕まれた感覚を感じ、足元を見ると、真っ黒の腕だけが地面から生えて僕の足を掴んでいた。


「うわあぁ!なんだこれ!離せ!」


足を必死に振ったり、ばたつかせても拘束は弛くならない。

それどころか腕だけだった物は、上半身を僕の影から出現させて背中に覆い被さった。


「まさか、彼の影の中に潜んで!

クゥッ!!間に合え!!」


霧切会長の手が光ると、その手には大きな針が握られていて、それを僕の真後ろにいる黒い影に向かって投擲する。

既に完全に僕と身体を密着させて、僕が喰われるか、針が黒い影を刺し穿つか、どちらかが早いかは子供でも分かる。

今度こそ、僕は死の覚悟をする 


「あーくん!!諦めないで!!」 


その言葉にハッとして、上体を勢いよく屈めた。

それにより黒い影の噛みつきが空振りして、一瞬の間が出来た。

さらに屈んだ事で飛んでくる針の直線コースになって、口から侵入しお尻から真っ直ぐ針が突き抜けて、黒い影は断末魔の声も上げずに静かに消滅した。


「佐倉君、本当に大丈夫!?」


急いで駆け寄って来た霧切会長は、僕の体を触って怪我がないか確認している。

いつもならこんな美人にベタベタ触られていたら、顔を真っ赤にして心臓がドキドキしている場面なのに、今はそれどこじゃない。


「良かった、怪我がないみたい。」


 ―――― あーくん、今日は何して遊ぶ? ――――


あーくん、そう僕を呼んでいたのは誰だった?


 ―――― 泣いちゃダメ、あーくんは男の子でしょ? ―――― 


そうだ、清尊と信と会う前に、遊んでくれたお姉ちゃんがいた。


 ―――― あーくんはお姉ちゃんが守ってあげるからね。 ――――


いつも僕の手を引いて、色んな所に連れて行ってくれて、泣いていたら、頭を撫でてくれた優しいお姉ちゃん。

けど、僕が小学校に通う前に、どこに引っ越してしまった。


 ―――― 泣かないで、あーくん。

  またいつか帰ってくるから、大きくなったらまた会おうね。

  それまでに素敵な男の子になってね。 ――――


思い出した、今僕を抱き締めているこの人は。


「きぃ姉、なの?」

 

「正解、久しぶりね、あーくん。」


嬉しそうな笑顔で、きぃ姉はそう答えた。

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