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幻想にて踊れ  作者: ロマンスの馬
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1章 3

纏わりつくような好奇の視線に辟易しながらも、なんとか登校拒否せずに学校に向かっていた。

なんせ去年まで通っていた中学校と、昨日から通い始めた高校は完全に逆方向だ。

一昨日までいなかった、少なくとも見た目が美少女で男子用制服を着て歩いていたら、それは注目の対象になる事は火を見るより明らかである。 


『あわ~、あの娘凄く可愛い。』

『なんで男子の服着てんの?』

『お近づきになりたい。』 

『恋に落ちた。運命はここにあったんだ。』


ある者は驚愕し、ある者は見惚れ、彼の虜になっていた。

こういう事になると、分かっていたからこそ、何を言われようとも無視する覚悟をしていたし、出来てはいる。 

それに周りが当たり前の日常の光景の一つと認識し始めたら、かなりマシになるから、それまでの辛抱すればいい。

だが、しかし。

たが、しかしだ。


「お前、何故男の制服を着ている!

自分の性別にあった制服を着用するのが校則だろうが!

新入生でここまで堂々と校則違反をするとは、学校を嘗めているのか!今すぐ着替え直してこい!」


生徒指導の先生に女の子と断定されて、女性用制服を着用されられそうになる覚悟まではしていない。

本当に勘弁して欲しい。


「だから、先生何度も言っているじゃないですか。

僕は男の子です、って。」


何度目かの僕の意見に先生は、額に浮き出た血管をピクピクさせて、怒りを露にしている。

別にからかっている訳じゃないし、言い逃れしようともしていない。

そういえば中学生の始めの時もこんな感じだったな。

あの時は母さんが出て来て説明しても信じて貰えず、個人IDを見せても信じて貰えず、最終的には戸籍標本を取り寄せる羽目になったなぁ、と思いだし少し気分が盛り下がった。


「くだらん冗談をいうな!

そんなにスカートを履きたくないのか!そういう生徒も一定数はいるのは知っているがここは学校だ。

学校には学校の守るべきルールがある!」

「いや、それは分かっているんですけど、冗談とかじゃなくて本当に僕は男の子なんですよ。

ほら、生徒手帳を見てください。」


先生は僕の生徒手帳を受け取って中身を見ると、怪訝そうな顔して、ため息をついた後に僕に生徒手帳を返した。

「これは偽造じゃないよな?」

「先生、僕はそんな気合いの入った事はしません。」

「生徒手帳では性別は男になっているが、佐倉茜どう見ても女の子の名前じゃないか。」

「名前の文句なら母に言ってください。」

「そこまで言うなら、今から職員室に確認を」


「竹中先生、彼は間違いなく男子生徒ですよ。」


先生が確認をとるために、SMES(個人ID、電話、パソコン、財布などの様々なツールが一つになった高性能の携帯機器)を取り出そうとした時に、凜とした声が会話に割り込んできた。


声のした方向を見ると、凄い美少女が立っていた。

腰まで伸びた長い黒髪に、姿勢良くピンとした良く引き締まったスタイルで、冷たいイメージを持たせるスッと長い目が強く印象に残るクールスレンダー美人さん。

良く見ると、浜波第一高校生徒会執行部と書いた腕章を、右二の腕に着けているから、生徒会役員の人なのかな?


「おお、霧切か。おはよう、朝から生徒会ご苦労だな。

それでお前はこの子の事を知っているのか?」

「おはようございます、先生。

はい、新入生の名簿は全て確認しましたし、彼とは少しだけ縁がありますから。

佐倉茜君が男子生徒だという事は私が保証します。」

「新入生の名簿を全て確認、っていくら会長とはいえそこまでやらなくてもいいんだぞ。」

「学校行事の運営を任されていますので、これくらいは。」


へぇー、あの人会長って事は、この学校の生徒会長なんだ。

新入生って確か、僕を含めて500人くらいいたはずなんだけど、それ全部をただ見るだけでもかなり時間が掛かるのに、確認済みとは凄い。

責任感のある人なんだ、こんな人が生徒会長をしている学校なら充実した学生生活が送れそうだ。

あれ?でも僕と少し縁があるって言っていたけど、会った記憶がない。

あんな美人さん会ったら、そうそう忘れない訳がないんだけど。


「取り敢えず、霧切がつまらん嘘はつかんし、本当なんだろう。

悪かったな佐倉、だが、生活指導の担当としては、本当に校則違反だったら、見逃せんかったからな。」

「いえ、大丈夫です。

慣れてますから、慣れたくないけど。」

「そ、そうか、お前も大変なんだな。

俺は戻るが、佐倉も霧切も授業に遅れるなよ?」


竹中先生は少し気まずそうに頭を掻きながら校門の方に戻っていった。 

今の世、同性愛が認められたせいか、同性に対するセクハラも認められるようになった。

今回の件は場合によってはセクハラにとられかねない案件だった、というよりも竹中先生が気まずそうにしていた一番の原因は、今日みたいな状況が慣れてしまう程に間違えられる環境に同情していた事だろうな。


「相変わらず、女の子に間違えられるなんて、君は昔から変わらないわね。

と、いってもお互い体も心も、あの時とは比べ物にならないくらい大きくなったけどね。」


やっぱり、僕の事を知っている。でも思い出せない。


「ちゃんと自己紹介してなかったわね。

私はこの浜波第一高校で生徒会執行部で会長を勤めている、霧切絹恵よ。これから何度か見かけると思うから改めて宜しく。」

「は、はい、宜しくお願いします。佐倉茜です。

えっと、その霧切先輩?」

「何?」

「僕達何処かで会った事ありましたっけ? 

先輩はなんだか以前から僕の事を知っているような感じでしたので。


すると霧切先輩は、ほんの僅かに顔をほころばすと、悪戯っ子のように人差し指を唇に添えた。


「秘密よ。どうしても気になるのなら、頑張って思い出しなさい。」


そう言うと彼女は僕の頭を撫でた後、校舎の方に歩いていった。

僕と霧切先輩は一体どんな関係だったんだ?

頭を撫でられるなんて、そういう癖じゃない限り、それなりの親愛がなければ絶対やらないはずだ。

母さんはもしかしたら、知っているのかな?

なんだか考えれば、考える程モヤモヤしてきた。

女の子に振り回される男の子ってこんな気持ちなのかな?と少し的外れな考えが浮かんだ僕はきっとストレスが溜まっているだろう。

今日は早く布団に入って寝よう。そうしよう。


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