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幻想にて踊れ  作者: ロマンスの馬
3/19

1章 2

「茜ちゃんー!朝よ!起きてご飯食べちゃいなさい。」


居間にいる母さんの目覚ましの声で、僕は半覚醒状態からエンジンをかけ始めて、むくりとベッドから半身を起き上がらせた。


「はぁ~~、学校行きたくない。」


我ながら起床してからの第一声が随分とネガティブなのは、どうしたものかと思うが、残念ながら偽らざる本音なんだから仕方ない。


それでも行かなければいけない。

両親に学費を払って貰っているしね。

ちゃんとした教育を受けて欲しいという、親の愛情が分からない程子供じゃないし、僕の将来にも期待してくれているのも知っている。

親の愛情と期待に応えたいと思うくらいには、両親の事は尊敬しているし、大好きだ。


「あ~か~ね~ちゃ~ん」

「聞こえるよ、母さん

顔洗ったら、そっち行くから」


はいはい、という母さんの返事を聞こえ来た。

ゆっくりと残り半分をベッドから引き摺りだして、その足で洗面台のある部屋まで、寝惚け眼でフラフラしながら向かう。

洗面台の前まで着いて、蛇口をひねり冷水でバシャバシャ顔を洗うと、やっと目が覚めてきた。


濡れた顔をタオルで拭いて、顔を上げると鏡には当たり前だけど、僕の顔が写し出されいる。  

かなり整った可愛らしい顔、流れるような髪、どこからどう見ても女の子にしか見てない。


「これが自分の顔じゃなかったら、素直に可愛いと思えるんだけどなぁ、贅沢な悩みなのかなぁ。」


誰に言った訳でもないし、返事がかえってくる訳でもなし、ただの独り言。

さてと、そろそろ机につかないと、母さんが待ちくたびれてここまでやってくる。

我が佐倉家では、ご飯は皆で、が一番強いルールだ。

母さんは律儀に僕を待ち続けてくれているから急いで、母さんのいる居間に向かおう。


「おはよう、茜ちゃん。

よく眠れた?そして今日も可愛い!ママ嬉しい。」

「おはよう、母さん。学校に行かないといけないと思うと気が重いよ。それと可愛い禁止。」

「もぉ!茜ちゃん、ママの事はママって呼んで、って言ってるでしょ?昔はママって呼んでくれたのに。

今日のコンソメスープだけど、パンとご飯どっちにする?」

「いつの話をしてるの?高校生になって、ママはさすがに恥ずかしいよ。ご飯で。」

「ご飯ね~、ちょっと待っててね。」


母さんは朝食の仕上げをするために、台所に小走りで消えていくのを見送り椅子に座った。

軽いウェーブのかかった長い髪が楽しそうにフリフリ揺れているのが、台所からチラチラ見える。

母さんはすごく子煩悩で世話好きだから、僕の世話を焼くのが嬉しいんだろう。


佐倉(うらら)それが母さんの名前だ。

名は体を表すとは、よくいったもので非常におっとりマイペースな人で、いつも笑顔で怒っている所を見た事はない。

涙もろいから、よくテレビドラマをみて泣いてるけど。 

性格も体も母性溢れる感じで、老若男女分け隔てなく優しく暖かく接している事と、小走りするだけで揺れる大きな乳房をしている事で、近所では浜波の聖母様と呼ばれている。

「あらあら、うふふ。」なんて台詞を素で言う人なんて、僕は母さん以外に見た事がない。

 

「茜ちゃん、ママの愛情ご飯が出来ましたよ。さぁ食べましょう。」


母さんの明るい事とともに、机の上朝食が並べられていく。

今日のメニューは、白米(母さんは食パン)、スクランブルエッグ、カリカリウインナー、コンソメスープ、ヨーグルト。

控えめに言っても、パーフェクトだ。


「いただきます。」

「どうぞ召し上がれ。」


4月なんてまだまだ寒いとりあえず暖まりたいし、スープから食べよう。

ずずっ、と口に含むとコンソメの強い味と風味の中に優しい野菜の甘味が、口一杯に平がる。

美味しい。それに暖まる。やっぱり母さんの料理は美味しい。

一気にスープを食べ干して、ふぅ、と息をつくと視線を感じるから、顔を上げると、案の定母さんがニコニコ顔でこちらを見ていた。


「美味しかった?おかわりいる?」

「美味しかった。おかわり、半分くらいでいいよ。」 

器を渡すと、すぐに近くに持ってきておいた鍋からスープをよそって僕の前に置いてくれたのち、母さんも朝食に手をつけ始める。

特に喋る事なく、母さんと朝食を食べていると、ふいに母さんがはなしを振った来た。


「茜ちゃん、どうしたの?

あまり顔色がよくないけど、風邪でもひいた?熱ある?

今日は休んで、ママがあーんから添い寝までしっかり看病しなくて大丈夫?」 


さすが母さん、僕が気分が優れない事に気がつくなんて。

休む程じゃないし、ここでちゃんと拒否しておかないと、本当におはようからおはようまで、付きっきりの看病をやりかねない。


「体調なら大丈夫だよ。

入学して二日目で学校休みたくないし、ちゃんと行くよ。」

「それならなにか心配事でもあるの?」

「いや、だってさ、またこの時期が来てしまった。しかもだよ、学校替わったから、より増えそうで。」

 

なにが?みたいな態度をとらないでくれるかな?母さん。

原因の一端は母さんにもあるんだから。

未だに僕が何に頭を痛めているのか、分かってない母さんに軽くイラッとする。

はっきり言わないと分かんないかな、はっきり言いたくないんだよこっち、見たくない現実を直視しないといけないから。


「だから、男の子からのお付き合いの告白が増える時期だから憂鬱なんだよ!」

「あらあら、そうなのね。仕方ないわよ、茜ちゃん可愛いから。」

「その褒め言葉は嬉しくない!それに男の子だよ」

「……そうよね、茜ちゃんは男の子だもね。」

「何今の間!?」

「ママ嬉しいわ、皆が茜ちゃんにメロメロなんて。

でも、そうよね、こんなに可愛いかったら、放っておかれるなんて絶対ないものね。」

  

正直放っといて欲しいよ。

昔と比べて、同性愛が当たり前の世の中になったとはいえ、僕は普通に女の子が好きだ。

女の子にしか見えない容姿と声のせいで、多くの男の子からは恋愛対象に、女の子からは女友達みたいな感覚で対応される。

素で男の子だと忘れられて、女の子にトイレに誘われた時は泣きそうになった。 


「だいたい僕が女の子に間違えられる原因の一つは名前だよ。

茜って、どう考えても女の子の名前だよね?

もっと男の子らしい名前つけてくれなかったの!」

「ん~、それは元々ママは女の子が欲しくて、いえ女の子が産まれてくると決めてつけて、女の子の名前しか考えてなかったの。」

「考えたなかったって、」

「でも、結果オーライね。

茜ちゃんがこんなに可愛く育ってくれただもの。

やっぱり女の子らしい名前をつけたから可愛い育ったのかしら?」

「だとしたら、男の子らしい名前をつけて貰って、格好良くなりたかったよ。今からでもいいから、せめて身長160は超えたい。」

「それはそうね、ママも秋紘さんも背は高いから、茜ちゃんも同じように身長が高くなると思っていたけど、遺伝も100%じゃないし。」


突然母さんが顎に手を添えて、考えるポーズをとった。

長年のカンで分かる、どうでもいい事を考えているに違いない。


「背の高い茜ちゃんか、……全然ありね。

きっと美人さんになるに違いないわ。ああ、どうしましょう。」


ぼそっ、と呟かれた母さんの独り言が、予想通りどうでもいい事だった事に心の中でため息をついて、僕は茶碗に残ったご飯を無心でかきこんだ。



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