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psycho pather  作者: ヤマ
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1話 ツイテクル

 登校中だ。

 暇だし、少し話でもしようかな。

 ――いつも頭によぎる歌がある。

 綺麗な、透き通った声。頭に残る声。

 ずっと私の後ろにいて歌っていると錯覚するぐらい、すぐ近くにあり、聞こえる、頭がそう思う歌。

 まあ、いつも聞こえてくるからといっても、私の後ろをいつもついて歩いている人がいるわけない。

 まあ、あれだ。

 こんな表し方をするのだ、何かしらの違和感があると思っていただけただろうか。

 何が違和感化というと――声はいいのだ、違和感は、歌の歌詞にある。

 なんだ、気分を害されても困るので、どうしようか。

 さわりの部分だけでも教えてあげようか。




 赤を持って

 えぐりましょ

 音を立てて

 えぐりましょ

 ぐちゅぐちゅ

 ぐちゃぐちゃ

 いろんなおと

 きこえるよ?

 たのしいおと

 きこえるよ?

 ぐりゅぐりゅ

 とびちるよ?

 えぐってえぐって

 そまってそまって

 ちょうがこんにちは

 いぶくろこんにちは

 おめメガ

 ぱっちり

 こっちをみてるよ

 ちゃーんとさすよ

 おくまでぐさりと

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …

 …


 ――――――――



 きみのもちょうだい

 いつもいつも

 きみのうしろで

 いつもいるよ?

 だからだから

 きみのもちょうだい?




 ――大丈夫だろうか。

 気分を害していないだろうか。

 だが待ってほしい。

 これをいつも耳元で聞かされている私は、いったいどうだろう?

 いや、聴者に無理をしろと言いたいわけではない。ただ、分かってほしいだけだ。

 私の精神は――もうだめなのかもしれないから。

 ――もう学校へ着いてしまう。

 この物語は少しの間、休息を得ることとしよう。

 もう学校の中だ。学校は勉強をする場所だ。だから物語は休息することにする。

 ――特に何もなければ、だが。

 靴を履き替え、校舎へと足を踏み入れる。

 もう夏というのもあって、校舎の中は少し入っただけでも、蒸し暑く感じてしまう。

 天気予報でもよくやっている。今年は異例の暑さだと。

 それも相まって、校舎の中はとても暑い。例年よりもクーラーが付くのが速いのもそのせいだろう。

 暑い中、頑張って足を引きずり、教室まで到達した。

 引き戸を開ける。ガラガラと音をたてながら、クーラーから出てきた冷たい風が、私の顔を撫でる。心地いい。

 教室にはまだ誰も来ていなかった。いつもの友達も、たまにいる担任もいなかった。この空間は私一人だけ。

 ――そんな中、あの歌が聞こえたならば――とうとう私はタメかもしれない。

 聞こえないことを祈りつつ、私はこの孤独空間と、冷風を、目を閉じ、触覚で楽しむ。

 目を閉じ暗い中、クーラーの動く音と自分の鼓動だけが、聞こえる。

 からだ中には、冷たい風が這い、暑さが遠のいていく。夏とは思えない、この感覚が、夏の風物詩なのだと私は思う。

 途中、ガラガラと誰かが扉を開ける音がした。少しの熱風が体に体当たりする。やめてほしい。

 目をゆっくりと開き、誰が入ってきたのか確認する。

 入ってきたのは担任と、私の友達(Aとしておく)が同時に話しながら入ってきた。

 Aは担任と楽しそうに会話をしている。あれを自然体で出来ることがすごいと、私は切に思う。

 Aは誰とでも仲良くなる。私とは違って。誰にでも自然体で接せられて、しかも気遣いもできるときた。こりゃかなわん。

 そんな景色をぼーっと眺めていると、気付かぬうちに、ぞろぞろとクラスメイトの半分ぐらいが教室に足を踏み入れていた。

 そのほとんどの初めの会話には共感せざるを得ない。何を言っていたかは、個人で予想してほしい。

 私はいつもの友達の輪に入っていき、そこで楽しく会話をする。

 ――あっという間に時間が過ぎ、もうすぐ一時間目が始まるというところまで来てしまった。

 この楽しい時間を捨てたくはないが、不良生徒にはなりたくない。

 ということで――皆もだろうが――渋々自分の席に着き、授業の準備を開始する。

 もうすぐ授業開始のベルが鳴る。

 ――どうせ、何も耳に入ってこない。入ってきたとしても、何もない風に頭の中で変換されてしまう。

 音は何も入ってこない。

 何も何も……。

 ――ノイズが、耳を、走る。

 あの歌の、イントロが、始まる……。

 ――何で。何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で。

 聞こえるはずない。幻聴だとしても、今、聞こえてしまってはいけない。

 だめだ、今聞こえてはだめだ。

 私が――コワレル……・・・・・・。







 ――目を覚ますと、そこは白い天井のある部屋だった。

 私が知っている限り、白い天井を持っているのは、保健室ぐらいしか知らない。

 ――何が、あったのだろうか。といっても大方、思い出したくもないあの歌のせいなのは確実だろう。

 しかし、学校生活にまで支障をきたしにきたらしい。迷惑極まりない。

 だが、何故、今日だけ学校で聞こえてしまったのだろう。

 気になるのが、今日だけなのか、それとも――今日から、なのか。

 もしも後者だった場合、本当に私の精神が異常をきたしてしまう。

 考え事に夢中になっていると、隣から声が聞こえた。

 その声は、いつもの明るいような声ではなく、なんなら少し、弱々しいという印象を与えるような声だった。

 ――彼女がそんな声を出せると思っていなかった。だから余計に驚いた。

 そこにいたこと、そして――いつもの活力あふれる声ではなく、真逆の声だったこと。

 ――Aは、私に話しかけてきた。


「大丈夫……」


 その声は、本心なのだろうか。

 信じられない。

 誰にでも気を遣っているからこその、してはいけないはずの、疑い。


「なんとか、ね……」


 まだ、百パーセント絶好調ではない。

 それにAとも、仲良くなって少ししか経っていない。

 昨日、席替えがあって、それで後ろの席になったぐらいの付き合い。

 それまでも、少しは会話できる程度の仲なのに。

 私は――そこまで知らない人を、信用できない。

 あなたはどうしてそこまで心配してくれるのだろう。


「教室、もどろっか」


 Aに催促され、私たちは、重い足取りで、教室へ戻る。




 教室は、やはりどこか冷たくて、それでいて言葉で表せない熱さを持っていた。

 そんな教室だからこそ――先程の気まずさがシュワリと消えていく。溶けていく。

 私は席について――休み時間だったため、というか放課後だったため、少しばかりの無新時間を作ろうとした。

 ――が、それもすぐに消え去って。

 いつものメンバーが私の周りに集まる。

 皆口々に心配の声を聞かせる。私はそれに合わせ、大丈夫と声を出す。

 そんな中、一人の男の子が口を開いた。


「な、なあ。早速なんだけどさ……今日話し合った件については、どうなるんだ……!?」


 抑えきれなかったものを、解放したように嬉々として話す男の子。

 それと対照的に、周りの反応は凄惨なものだった。

 場が鎮まる。


「わたしは――いってみたいな」


 静寂を切り裂いたのは――Aだった。

 その声を聞いて、周りの時間はようやく動き出した。

 その解答が、たとえどんなものでも、この時は動き出すのだと私は実感した。

 そして結局、その『話し合った件』とやらは決行するらしい。

 集合場所が、廃校、というだけあって、嫌な予感しかしないが。

 それよりも私が嫌な感じがしたのは。


「ワタシハ――イッテミタイナ」


 ――果たして、私の耳がおかしいのだろうか。

 あの時のAは――人間とは思えなかった。







 廃校に足早に皆が集まったおかげか、日が暮れる前に潜入することになった。

 正直言って、今日ほどいろんなことがあった日はないと思うだろう。

 そして、これから起こることも――私は何も知りえないのだろう。

 廃校の錆びた門を引く。

 今にも壊れそうな、そして不快な音が、私たちの耳を刺す。

 そんな中、Aだけは――何故か不気味に微笑を浮かべていた。

 こんなにも暑く感じていたのに、一瞬にして寒気が体を襲った。それこそ、今日の教室での出来事のように感じた。

 ――Aは今、どんな気持ちでここにいるのだろう。それが、先程の微笑でさらに分からなくなった。

 建物は今にも崩れそうにそこに佇んで、まるで私たちに「入ってくるな」とでも言いたげな佇まいだった。

 それに気付かず、好奇心のまま動き出す私の友達は――もうどうなっても知らない。

 私は正直自分の心配しかしていない。今の状態で他人を心配できるほど――Aのように強いハートは生憎ながら持ち合わせていない。

 ――ましてや笑うなど。

 中はもちろんだが、閑散としているものだった。静寂、それすら音を感じ取ってしまうぐらいに静寂だった。音も何者かに吸い取られているような、視覚だけの世界。

 友達はそんなことを気にせず、ずかずかと前に進んでいく。

 私はそれを後ろから追っていく。あまり乗り気ではないのもあるが、それよりもAのほうが気になってしまって、観察の意を込めて、後ろから追っていく、という形をとっている。

 Aも後を追っていくという形だった。

 何故だか、妙にまねされている感じがして、気味が悪くなった。




 ――決行された肝試しは、特に何も起こることなく、終了した。

 とりあえず私は、何故終了かどうかを、外に出てから決めないんだという気持ちに駆られていた。

 何故中でそれを決めようと思ったんだか。


「じゃあどうする?」


 帰る以外の選択肢があるのか。


「どうするもなにも――」


 ばたん!

 物音が、すぐそばで。

 私たちの後ろで、した。

 誰も動けない。

 恐怖で誰も。

 ばたん、ばたん。

 物音が増える。

 私の周りから、物音が増える。

 同時に理解する。

 この音は――人の倒れる音だと。

 誰かが皆を、倒していっているのだと、理解した。

 それでも、足は――動かない。

 動かせない。


 ――――……――。


 ――私は、戦慄した。

 全身がぞわりと、それに拒否反応を示した。

 何で、何で……。

 今、それが聞こえるの……?


 きみのもちょうだい


 嫌だ。


 いつもいつも


 やめて。


 きみのうしろで


 その声で近付いてこられたら。


 いつもいるよ?


 私はもう、信じられなくなるから。


 だからだから


 誰か分かった。けれど。


 きみのもちょうだい?


 私に明日は――なくなった。




 ――きみノも、チョウダイ……?


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