一話「死、そして出会い」
俺が学校へ行かなくなった事は取り立てて騒ぐことではない。むしろ喜ばしいことである。なのに両親は俺に対して「ふざけるな」「何のために金を出してやったんだ」「産まなきゃよかった」とぎゃあぎゃあ騒ぐのだ。「いったいどうしてこんな子に育ってしまったの」などと言われた日には流石の俺もムカついたので「親のせいだろうなあ」と呟いたら、もういい歳のジジイババアの癖してそんな時だけ耳がよくなるのか、俺は家を追い出されてしまった。
まず大学なんてのに行くのが間違いなのだ。俺は専門学校に行きたかったのに、友達も先生も、親ですら俺の夢を嘲笑った。曰く、「プロゲーマーなんか稼げるわけがない」と。
金だけが全てじゃない、夢があったっていいハズさ。俺が間違ってるんじゃない。夢だけで生きていけないこの世界が間違ってるんだ。
考えれば考えるほど人生という沼に浸かっていく気がした。何を言っても伝わらない、相談する相手のいない俺にとって、唯一心のはけ口となるのがコンビニで買う安い酒だ。俺は早速、近くのコンビニに入店した。
「金を出せ!今入ったお前もな!」
いかにもなコンビニ強盗だった。黒い目出し帽に手袋をして、ナイフが握られているが、指出しのじゃあ意味がないんじゃねえのか。
そのうち化石として発掘されそうな古めかしいコンビニ強盗だったが、ナイフを持たれては手の出しようもないと言うものだ。頼みの店員は産まれたての子鹿みたいにぷるぷる震えながら「なんとかしてくれ」という視線を俺に送っていた。
どうしろってんだ。
「お前が金を出しゃあ手は出さねえ。おらさっさと出せや!」
化石・ザ・強盗がレジをガンと蹴飛ばした。どうせなら俺も協力してレジをぶっ壊したいところである。それで助かるんなら。
「一銭たりとも出しません!あなたのような悪党にはね!」
店員の意思は固かった。俺がオーナーなら店長にしてやるところだ。だがこの場合は人命を優先するのが人道ってもんじゃないのかい?
「ならこうだ!」
強盗も引かなかった。強盗は一目散に俺の方へ走ってきて、ナイフを胸に突き立てた。抵抗も止む無く俺は死んだ。そもそも喧嘩なんかしたことねえ!
※
眼が覚めると走り出したくなるような綺麗な青空が広がっていた。床に「天国」と書かれた張り札でもあったら信じてしまいそうだ。何せ、俺が寝ている場所は畳の上だったからな。天国が僅か4畳の畳でできているわけがない。
「眼が覚めたか」
そして、青空に似つかわしくない今にも死にそうなジジイがいた。
「あんたは?」
「私は神」
「なんだ。まだまだ元気そうだな」
「うっかりそなたの命を奪ってしまった。ここはあの世じゃ」
「そりゃあんたの居場所だろ。俺は死んでな…あれ?そういや俺…」
「私はあの世の神。あの世を司るんじゃ。人間の生死を管理する、いわゆる生死バンクってとこかの」
うまいこと言ったつもりなのか、ジジイは細い喉をコツコツ鳴らしながら笑った。しかしこのジジイ、全ての動作が死に直結しそうなほどの細さだ。
「お主を生き返らせるのは簡単じゃ。しかし、もといた世界で生き返らせることは出来ん」
「なんで?」
「死んだ人間が生き返ったら嫌じゃろ」
「確かに。で、どうするんだ」
「別世界で生き返らせる」
「別世界…?」
「うむ。お主がいた世界とは別のな。並行世界とかそういうのではないぞ。上手く説明するのは難しいが、宇宙そのものが別物なんじゃ」
「おい。これって宗教とかじゃないよな。ジジイの趣味ほど俺は若くねえぞ」
「ケツに剣を刺されるのがお好みか?では、新たな世界へいってらっしゃい…」
俺は深い眠りに誘われた。
※
夢を見ていた。プロゲーマーになる夢。けどそれは、俺が現実逃避の選択肢として用意したかりそめの夢に過ぎない。
俺の本当の夢って、なんだっけな…。
「ここは?」
眼が覚めると、そのまま二度寝したくなるような青空が広がっていた。さっきと違うのは、俺の下にあるのが目一杯広がる草原だってとこだ。
「君、ここで何をしている?」
振り返ると、漫画でしか見ないようなイケメンが甲冑を着込んだ立っていた。腰に剣が携えてあって、もうどしようもないくらい厨二病が進行しているのが分かった。
「俺は目が覚めたらここにいたんだ」
「怪しいな。魔王軍のスパイか?」
厨二病というか、かわいそうな病気かもしれない。触れないのが優しさだ。
「いや、俺は王国より遣わされた援軍だ。多彩な魔法を操る」
「なんと!そうでしたか!先ほどの非礼お許し願いたい。魔王軍が近づいております。どうかお力を!」
「うむ」
イケメンに着いて行くと、100人ほどの集まりがあった。全員鎧を着込んでいるので、たぶんそういうオフ会かなんかだと思う。
「我々に心強い味方が訪れた!彼と共に戦おう!」
オー!と力強い返事に気圧されそうになる。この熱の入りようは一体なんなんだ…。
本当に異世界なのか?
「ジーク隊長!遠方より魔王軍です!奴ら、数に任せて我々を叩くつもりです!」
どっかから来た伝令みたいな奴の言葉に、俺たちもとい、彼らの団結はより深まったようである。あとイケメンの名前はジークらしい。
いかにも、だな。
「魔王軍に我が国は渡さん!進めぇーーっ!」
みんな一斉に魔王軍とやらに向けて走り出した。俺はいつの間にか持たされていた国旗を地面に叩きつけて、帰り道を探った。
相当運が良かったのか、高い建物が見えた。遊園地みたいなでかい城だ。俺はそれに向けて歩き始めた。かなり遠いが、そのうち着くだろう。
久々にこんなに歩いた気がする。散歩は嫌いじゃない。暇な時はよく一人で地元を練り歩いたもんだ。
だが、地元をほとんど踏破した時に、俺には街を出る勇気がなかった。俺は何か新しいものを探そうと歩いていたのに、実際はそれを恐れていた。
俺は自分の背丈の分しか世の中を見ていなかったんだ。
正直言うと、ここは異世界で間違い無いんだろうと思っている。だからだろうか、俺はワクワクしていた。
何かがあるかもしれない。俺の人生を変える、何かが、あのでかい城のある場所に──
つづく




