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見つからない

 母親が病室に戻ってきて、柚星の容態も落ち着いていたので、片之坂は一端家に帰っていた。


 眠いからということもあったが、柚星の部屋を片付けておいた方がいいと思ったのだ。

 幸い、まだ警察は呼ばれていない。


「うわ……」

 部屋のドアを開けてみると、時間が経って黒くなった血痕があちこちに染み付いていた。

 漂ってくる鉄の匂いに気分が悪くなり、すぐさまドアを閉める。


「寝てから考えよう、うん」

 

 そう言ってはみるが、掃除はともかくとして、折れた剣だけは早く何とかしなければと思う。

 刃物というだけでなく、誰のものとも知れない血が付いていた。

 とりあえずベッドの下に押し込んで隠してはあるが、誰かが部屋に入れば、すぐに見つかってしまうだろう。


「あの剣、どこに隠そう……」


 天井裏、押し入れ、庭に埋める、壁に……


 どこに隠そうが、運が良ければ見つからないだろう。

 ただ、運が悪ければ……


 片之坂としては、自分や妹に余計な嫌疑がかかるのは避けたいので、最低限家の中には置いておきたくないと思った。

 とはいえ、他に良い場所も思い浮かばない。


「…………」


 ***


「いやぁー。今朝は既読スルーしたくせに、わざわざお招き頂いてどうもありがとう!」

 玄関のドアを開けると、川南が両手を広げて立っていた。


「ごめん、ちょっと立て込んでて……」

 片之坂は友達が少ない上に、異世界がどうのという話ができる相手は他にいなかったので、苦肉の策で川南を呼び出したのだった。 


「カタノが俺を家に呼ぶなんて珍しいじゃないのー? さては死体の隠し場所にでも困っているのかなぁー?」

「……まさか」

 片之坂は笑ってみせるが、内心ドキリとした。

 空気は読めないくせに、なぜかこういう時ばかり勘が良い。


 ***


 自室で川南にお茶を出し、今までのいきさつを話した。

「へぇー。妹がねー。そりゃあー大変だったなー」

 川南は床に寝転がって菓子くずをまき散らしながら、片之坂の話を聞いている。


「それでこれがその剣なんだけど……」

 片之坂は机と壁の間に隠していた剣を取り出す。

「おお!? すっげぇ、本物!? 血が付いてるじゃん! やっべー!」

 川南が起き上がり、興味津々で剣を見る。


「どこかいい隠し場所ないかな? 家に置いておきたくないんだけど……」

「いい隠し場所ねぇ……。海に沈めりゃそれでよくね?」

 川南は剣を手に取り、柄の装飾をまじまじと眺めながら考える。


「できれば後で回収できる方がいいんだけど……一応柚星のだから」

「なるほどねぇー? ふぅむ……」

 川南はしばらく考える。


「海外に流すって手もあるけど……まぁ近場がいいか。山に埋めるか……ああ、そうだ」

 川南は何か思い付いたらしく、にやりと笑った。

「いい場所があるぜー。あそこなら見つかりにくいし、隠すのも取りに行くのも簡単だ」

「それってどこ?」

「それは後で教えてやるよ。どうせなら面白い場所がいいだろ」

 川南の提案に、片之坂は不安を抱く。

 面白くなくてもいいから、安全な場所がいい。


「もっとも、絶対に見つからない保証もないけど……どうします? カタノくん」

 川南が意地の悪い笑みで問うが、片之坂には他に良い案も浮かばない。

「……とりあえずそこでお願いします」


「了解! 見つかっても俺は一切責任取らないけどー」

 川南は無責任な態度だったが、実際今回は何の責任もない。

 ただ上手くやってくれることを祈るのみだ。


「ちょっとデカいから分解するけど、いいよな?」

「ああ、うん、それは全然。でもできれば壊さないで」

「大丈夫大丈夫ー。ついでに血とか指紋とか拭いとくわ。持って帰って家でやるから、何か隠すもん持ってきてくれよ。大きいバッグとか。なかったらタオルとか新聞紙でもいいからさ」

「わかった」


 クローゼットに大き目のバッグがあったが、直接刃物をしまうのは危ない気がしたので、バスタオルを取りに部屋を出て行った。

 川南が引き受けてくれてほっとしていた。

 正直今まで何を考えているのか分からない奴だと思っていたが、困ったときには案外頼りになる。


 バスタオルを数枚持って、部屋に戻った。

「おお、サンキュー」

 川南はバスタオルを受け取り、剣を包み始める。

「こっちこそ、ありがとう。……何か、ごめん、大変なこと頼んじゃって」

 片之坂が言うと、川南は手を止める。

 少し斜め上を見て、再び作業を再開する。


「……ところでカタノ、あのノート最近どうしてるよ?」

「ああ、ノート……そういえば触ってない」

 机にしまったままになっているノートのことを思い出す。


「こないだ俺が言ったこと覚えてるか?」

「えっと、どのこと?」

「カタノの周りの人間が異世界に召喚されまくっている、って話」

「ああ……」

 確かに以前そんな話をしたが、片之坂には今更のように思えたし、今はそれどころではなかった。


「で、どう思う?」

「だから、俺がそういう能力なんじゃないかって話でしょ?」

「じゃなくて。お前がどうしたいかって話」

「どうって……山本君や柚星はかわいそうだと思うけど……。正直、柚星にはもうあっちの世界には行ってほしくないし……でも俺にはどうしようもないから」


「つまんねぇな」

 川南は包み終わった剣を、バッグにしまう。


「え……」


「前みたいな情熱はないのかね? ……まあ、それはそれでいいんだけど。カタノ、今のお前はただ流されてるだけだぜ」

 川南は不機嫌そうに言うが、片之坂にとっては完全に余計なお世話だ。

 周りの人間がこれだけ酷い目に合っているのに、自分の勝手な都合で異世界に行きたいなどと思い続けられるわけもない。

 

「流されたって仕方ないだろ……普通の人間なんだし」

「普通ねぇー」


「だったらもうこんな普通じゃないアイテムはいりませんよねぇー?」

 片之坂の目の前で、シャラッ、という金属音がする。

 川南が、山本にもらった鍵をかざしている。


「!?」

 とっさに机の方を振り向く。

 机の引き出しにしまっておいたはずなのに、いつの間にか勝手に持ち出したらしい。

「いつの間に……! 返して!」

 鍵に手を伸ばすが、川南は素早く避ける。


「いやいやカタノにはもう必要ないでしょ? だったら俺が有効活用してやんよ。そうだなー、あっちの世界を征服してやろうかな。そしてそこに川南キングダムを築く……」

「いや、そういう問題じゃないから! っていうか世界征服するのに王国(キングダム)って何? 全然わかんないよ!」


 片之坂のツッコミはスルーして、川南はバッグと鍵を持ったまま窓を開ける。


「返してほしくばー……そうだなぁ、初心に返って……――カタノだけが”どうしても異世界に行けないのはなぜか”、100文字以内で答えよ。それがわかったら返してやるよ」


「えええ!? そんな無茶振り……!」

「じゃあ、せいぜいがんばりたまえー」

 川南は手を振り、窓から外に出て行った。


「ちょっ……川南! ここ2階……!」

 川南が落ちたのではないかと思い、窓から身を乗り出して下を見る。

 しかしすでに川南は家の敷地の外に出ていて、道路を走り去るのが見えた。


「あー……もう……!」

 追いつくのは無理だろう。

 片之坂は厄介な問題が一つ増えたことに、頭を抱えた。

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