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歪んだ恋

 



 一目惚れだった。


 輝くような銀髪。

 吸い込まれそうな青い瞳。

 粉雪のような柔らかく白い肌。

 華奢で、今にも散ってしまいそうな儚げな雰囲気を持つその少女の名前は、リノア・アインツロード。王女である。


「欲しい……。どうしようもなく、彼女が欲しい」


 男の恋心は歪んでいた。

 それは、性欲ではなく、食欲に基づく。

 今の彼には、普通の恋などできない。


「食べてしまえばいいのさ。そうすれば、君と彼女は一つになれる」


 隣で、金髪の少年が囁く。

 彼は人間ではない。

 悪魔だ。

 魔界から、王を選定する為のゲームのためにこの世界へやってきたらしい。


 ゲームの名前は『デモリアル』。

 参加者は7人。

 他の悪魔を全て殺し、最後に残った者が魔界の王となる。


 男、アングレン・セイトンは、悪魔と契約を交わした。

 そのゲームに協力するかわりに、彼はとてつもない力を手にした。


 七つの大罪、『暴食』。

 食べた人のスキルを奪う力。


 この力さえあれば、平民である彼には手の届くことのないはずのこの恋も、届くかもしれない。

 そう思い承諾したのだが、その力は、その恋心をも変質させた。


「ついでにその姉も食べちゃえばいいよ。ノア・アインツロードだっけ?姫騎士って呼ばれてるあの人。凄い力が手に入るよ」


 悪魔が囁く。


 今の彼に、抗う意志はない。




 ◇◇




 ネアレシス邸の玄関。

 シルヴィアが振り返ると、輝く金髪がふわりと広がる。


「そ、それでは、行ってきます。……え、エア」


 メイド達は頭を垂れる。

 エアは首を傾げる。


「なぜ一緒に行かないの?」


「あの……恥ずかしくて」


 シルヴィアが頬を染めて俯く。

 一応納得したエアだが、首は傾げたままだ。


「あと、今までは呼び方、兄様だったんだよね?」


「なんのことですか?私達は婚約してるのですから、エアです!も、もしくは……あなた」


「そのような戯れ言に耳を貸さないでくださいエア様。婚約など過去の話。シルヴィア様とエア様は立派なご兄妹です」


 エアの後ろに控えているアリアが、いつもの静かな口調で告げる。


「従者は控えてなさい」


 シルヴィアが完璧な笑顔でアリアをたしなめる。

 アリアは他には聞こえないように舌打ちした。


「ではまた学校で……あなた」


「……涙目だよ」


「恥ずかしすぎて……。やっぱりエアで」


 シルヴィアは逃げるように学校へ向かった。


「じゃあ僕達も少し待って出ようか」


「はい。エア様」


 アリアが自分の鞄を取りに行く。

 その途中、アリアの口許は常に小さく動いていた。

 偶然にも、メイドはそれを耳にした。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 聞かなかったことにした。




 ◇◇




 食べる部位は心臓。

 でなければスキルは奪えない。


「足りない。こんなんじゃ足りない」


 アングレンは口の中の生肉を咀嚼しながら、飢えを嘆く。


 甲冑を着た男性が横たわっており、その胸部だけが削り取られ、真っ赤に染まっている。

 アングレンはそこに手を突っ込み、赤黒い塊を、血管をぶちぶちと引きちぎりながら取りだし、口にいれる。


 アングレンの口周りは血だらけで、顎からぼとぼとと赤い液体が滴り落ちている。

 悪夢のような光景だ。


 後ろに佇む金髪の少年は、口の端を不自然なほど吊り上げている。




 ◇◇




 ユキは偶然それを見てしまった。


(なに、これ……)


 目はこれでもかというほど泳ぎ、内からこみあげる吐き気は抑えられない。


「うえええぇぇぇ」


 吐瀉物が地面に落ちる音がやけに響いた。

 おかげで、アングレンはユキの存在に気づいた。


「目撃者だよ。消しておきな」


 金髪の少年が、いかにも普段通りといった口調で告げた。


(こ、殺される!!!)


 ユキの心臓が跳ね上がる。


 アングレンは口の端を吊り上げ、のっそりと立ち上がる。

 ユキは後ずさる。


(死んでたまるか!!)


 ユキの手の甲に、奇妙な紋章が浮かび上がり、青く光りだす。


 ――エインヘリヤル、『幻想』のルーン。


 アングレンと悪魔の少年は、あり得ないものを見た。


 少女との間に、一匹の竜が降り立った。


 ランクSS、レッドドラゴン。


 神話出てくるような、伝説の存在。

 存在するはずのない、未知なるランク。


「な、んだ……。これは……」


「待つんだアングレン。石を投げてみてくれ」


 言われた通り石を投げると、レッドドラゴンの体をすり抜けた。

 幻覚だと分かった頃には、既に少女の姿はなかった。


「……あいつ……絶対、殺す!!!」





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