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ノアとエア

 



 ヒュドラの放つ白い光線を躱しながら、ノアはそろそろ【霊核武装】が消えることを感じていた。

 武装系スキルは特殊な能力の他に、身体能力の飛躍的な向上心は全てに共通しており、ノアはその向上した身体能力でなんとか耐えていた。


「なにか……なにか……」


 ノアはこの状況を打破する為のなにかを探しているが、見つからない。

 ヒュドラは9つの頭を広げ、多方向から攻撃してくる。

 その軌跡を予測し、避けながら首をひとつ切り落とす。

 だが、切った頭はすぐに再生する。


「どうすれば……」


 ノアは唇を噛む。

 武装系スキルは、一度解除されると、少なくとも3時間は使えない。

 このままだと、殺されることは目に見えている。


「ジャアァァァ!!」


 ヒュドラが新しい攻撃をしてきた。

 大きな白い光球が放たれる。

 光球は遅かったので余裕をもって躱したが、なんと追尾してきた。


「うそっ」


 再びヒュドラに意識を集中させていたノアは、追尾してきた光球への対応が遅れた。


「【プロテクション】」


 ノアの展開した円陣はまるで紙きれのようにあっさりと突破される。


「【プロテクション】」


 そこに、エアが割り込んだ。

 エアの展開した円陣により、光球は防がれる。

 突然現れた少年に、ノアは戸惑う。


「え、だれ!?」


「【アクセラレータ】」


 エアはノアを抱いて加速し、ヒュドラから距離をとる。


「今のが【アクセラレータ】!?まるで瞬間移動……」


 驚いているノアをおろすと、エアは一歩前に出て、ヒュドラと対峙する。


「あの、ありがとうございます」


「いえいえ」


 エアは冷静に相手を見て、使用するスキルを選ぶ。


「【終桜絶花】」


 辺り一帯に、無数の剣が浮かび上がる。

 その刀身は紫色に輝いており、一本一本がノアの見たどの宝剣とも比較にならないほど美しい。


「なんじゃこりゃ!?」


 ノアは目を剥いて叫んだ。

 突然景色が一変し、美しい紫色に埋め尽くされた。

 こんなスキルは聞いたことがない。


「いけ」


 エアはポケットに手を突っ込んだまま指令を下す。

 すると、全ての剣が一斉にヒュドラに向かう。


「ジャアァァァ!!!」


 ヒュドラは白い結界を展開するが、結界は剣の一本も止めることが出来ずに、一瞬にして砕け散る。


「ギャアアアアアア!!!」


 剣はヒュドラの体をも豆腐のように貫通し、後ろの壁に穴をあける前に消える。

 剣は細胞の連結を断っているのではなく、細胞ごと消滅させている。

 よってその質量はごっそりと減っていく。


 1秒もかからず、ヒュドラの体は跡形もなく消え去った。

 剣により肉体を削られ消滅したのか、その前に光の粒子になって消えたのかは分からない。


 ランクSを一瞬で倒した。

 馬鹿げていた。

 ノアは今見たものが信じられなかった。


 思えば最初にヒュドラの光球を【プロテクション】で防いだことからおかしかった。

 ノアの【プロテクション】のレベルは13。はっきり言ってとても高い。ここまで上げるのに、どれだけ苦労したことか。

 それが紙切れのように突破されたのだ。


 だが少年の【プロテクション】はそんな光球を受け止め、罅すら入らなかった。

 どう考えても彼の【プロテクション】のレベルは30を越えている。そんな人は見たことがない。


 そして【アクセラレータ】。

 あれはあそこまで加速するものなのか。

 まるで瞬間移動だ。

 ノアの知り合いで最も高いレベルの【アクセラレータ】をもっている者はLv52で、それが世界で最も高いと思っていた。

 だがあれは明らかに彼女の使う【アクセラレータ】よりも速い。


 そして最後の訳の分からない馬鹿げたスキル。


 一体彼は、何者なのだろう。


「あ、今得たスキル、見せてください!」


 ノアは、少年が倒したのがランクSの化け物であることを思い出した。

 ランクB以上のモンスターを倒した時、その人は必ず武装系スキルを得る。

 それに、今回は前代未聞のランクS。

 ランクSのモンスターから得た武装系スキル。興味を持たずにはいられない。


「……スキル?特に会得してませんけど……」


 エアは困ったように頭をかいた。

 そこから分かることは一つ。

 彼も、武装系スキルを持っているということだ。

 まあ、あの強さなら、持ってない方がおかしい。ノアは納得した。


「上に戻りますか?下に行きますか?」


「戻りましょう」


 ノアは即答した。

 もうこんなところは御免だ。


「その武装系スキルって、飛べますか?」


「いえ、残念ながら。それに、もう解除されます」


 シャリンッ

 ノアの【霊核武装】が解除された。


「じゃあ、僕が運びましょう。上へ続く穴がありました」


 エアの周りを、黄金の光が渦巻く。

 そして、エアの体が浮いていく。

 エアはそのままノアをお姫さま抱っこで運んでいく。


「……は、恥ずかしいですね」


 ノアは頬を染める。

 それにしても、また謎のスキルだ。

 これは一体なんのスキルだろう。


 穴は第一階層まで続いていた。

 エアはそこでノアをおろす。


「あ、ありがとうございました」


 ノアが頬を染めて頭を下げてくる。


「いえ」


 エアは涼しい笑顔を返す。

 その笑顔を見たノアは、ますます頬を染める。


「あの、お名前をうかがってもよろしいでしょうか」


「エア・リネスです。あなたは?」


「ノア・アインツロードです」


「ノア・アインツロード……?それって」


「はい。王女です」


「し、失礼いたしました!」


 エアは膝をつく。


「や、やめてください!エア様は、命の恩人です。そんな堅苦しい態度はやめてください。それと、私のことはノアで結構です。様もつけぬように」


「……分かりました。ノア。では僕もエアでお願いします」


「はい。エア……誰か来ますね。ではまた」


「はい。ではまた」


 ノアは奥へ消えていった。


「すみませんエア様!なかなかシルヴィア様が見つからず、遅れてしまいました。シルヴィア様は特に問題なくモンスターを狩っていました」


 反対側から、アリアが姿を現す。


「ありがとう」


 エアは涼しい笑顔を返す。


「……え」


 アリアは固まる。

 数秒して。


「記憶が、戻りましたか」


「うん。でも逆に、最近の記憶が曖昧だけど」


「そう、ですか」


(……そう、ですか)


 今までのエアは、貧弱な分、かなりアリアに頼っていた。アリアなしでは生きていけないほどに。

 だが、今のエアは強い。

 恐らく、世界中の誰よりも。

 だから、今までのようには頼られなくなってしまう。

 アリアは複雑な気分だった。


「これからも、よろしく」


 エアはアリアを抱き締めた。

 アリアは恍惚の表情でエアに体をあずける。


(まあ、いいか。エア様のそばにいられるなら)








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