孤立のエア
とある屋敷にて。
「はぁ………、いつまで会えないのかしら。早く会いたいわ、あなたは、心も身体もわたしのものなんだから……」
人間離れした美貌。
さらりと靡く淡い金髪。
魔性の宿る赤い瞳を儚げに潤ませ、少女は待ち焦がれる。
◇◇◇
「スキルには三種類あり、まず、モンスターを倒すことで得られる、獲得型スキル。次に、ある一つの動作を極めることで得られる、習得型スキル。最後に、生まれながらにして持っている、固有スキルです」
「どれが一番強いんですかー?」
「特にこの三つに優劣はありません。ただ、固有スキルを持っている人はほんっとうに少なく、もうほぼいないと言っていいでしょう。なので、とてもレアであることは否定できません。最も一般的なのは、やはり獲得型スキルですね。約95%の人は獲得型スキルしか持っていません」
「習得型はー?」
「習得型スキルは、その道を極めた者。達人の中の一握りの人のみが得られます。まあこれは無理なので、諦めましょう」
「はあ?!無理じゃねーし!絶対ゲットしてやるし!」
「まあ無駄な足掻きをしてみるのもいいでしょう。それと、固有スキルを持つ人は1%もいません。持っていたらカッコいいですが、どうやっても後天的に得られるものではないので、習得型スキル以上に諦めましょう」
「お前本当に教師か!どんだけ諦めろ諦めろ言うんだよ!」
貴族であり優秀な家庭教師に教わったエアは、既にこの程度の知識はある。
故にエアは授業を侮り、先日の赤髪の美女のことを考えていた。
(戦闘訓練を受けたアリアと互角だなんて、あいつも戦闘訓練を受けたメイドなのか?)
「この三つの分類の他に、レベル固定型とレベル変化型の二つに分類することも出来ます。この分類はまあそのままです。レベル固定型はレベル表示がなく、レベル変化型はレベルが表示されます。習得型と固有スキルは全てレベル固定型ですが、獲得型にレベル固定型はそうそうありません」
つまらなそうにしているエアを、教師は複雑な表情で見ていた。
◇◇◇
数日たった。
「あのエアって子、かっこよくない?」
「いや、私あの子無理」
「私もー」
「性格最悪」
女子はすぐに大きな集団を形成した。
女子グループでまずなされるのが、男子の選定だった。
「私、あの優しそうな子タイプかも」
「あー、うーん、私は微妙かな」
「わたしはあの背の高い子かな」
「ちょっと分かるかなー」
「ねえねえ、アタシも混ぜてよ」
「いいよ、ユキちゃん」
「名前覚えてくれたんだ。うれしー」
特定の人気が高い男子はいないが、最も人気がないのは、断トツでエアだった。
理由はその性格だ。
「ユキちゃんは誰がかっこいいと思う?」
「ごめん、誰もかっこよくないかなー。でも、一番嫌いなのは決まってるよ」
「なんとなく想像つくけど、誰?」
「エア」
「あーやっぱりー」
◇◇◇
「当主様は、どうしてあのようなクズを受け入れたのでしょう」
「本当にクズですよね!」
「こらアンナ、聞かれたらクビよあんた」
「そうでした。気を付けなければ」
「エア様、剣の師にも見限られたそうですよ」
「まあなんと」
「アンナ、実はね。エア様は、元々シルヴィアお嬢様の婚約者だったそうですよ」
「まあなんと!」
「どのような経緯でシルヴィアお嬢様の兄に?」
「まあ、いろいろあるのよ。それに、もしかしたら、婚約はまだ解消されてないかもしれませんよ」
「そんな最悪です。あの心優しいお嬢様が、あんなクズと……」
「認めるけど、控えなさい。本当に聞かれたらクビだから」
エアはメイドにも評判は最悪だった。
◇◇◇
ある日。
その日は、地下迷宮の探索の為のパーティーを決める日だ。
申請書は今日の夕方までに出せばいい。
授業は全てなし。
『アリア、シルヴィアに男を近づけさせるな』
アリアは主の命令を思い出す。
「あの、あちらにおりますシルヴィア様が、あなたと組みたいと」
「ままま、マジですか!憧れのシルヴィア様が?!俺、死んでもいい!」
そして、忠実にその逆を行っていた。
(エア様には、私さえいればいいのです)
アリアの働きや、シルヴィアの元々の魅力により、そこには溢れんばかりの男が群がっている。
それを嬉しそうに眺めているアリアもまた、とびきりの美少女である。
当然男共が放っておくはずがない。
「ねえねえ、一緒に組まない?」
「すみません。先客がおりますので」
だがアリアは、エアと二人きりのパーティー以外頭にない。
一方シルヴィアは、群がる男に辟易としていた。
(どうしてこんなに男共が集まってくるのでしょう)
シルヴィアは、既に女子だけのパーティーに所属している。
男子はいれてはならないと言っていた。
「あの、申し訳ありませんが――」
「シルヴィアさんは、あのエアってくそガキと関係あるんですか?同じネアレシスですけど」
「はい。兄妹です」
「ああ、大変ですね」
「いえ……」
シルヴィアは少し悲しそうな表情をする。
(昔は、あんなんじゃなかった)
原因は分からない。
エアは突然変わってしまった。
記憶も失っており、なにかがあったことは明白なのだ。
シルヴィアの初恋は、ボロボロに汚された。
あんな人は、エアではない。
あの優しかった頃のエアは何処へ行ってしまったのだろう。
一方のエア。
「おいそこの女、僕と組めることを光栄に思うがいい」
「あの、遠慮しておきます」
「なーに、遠慮することはない。なに、金がほしいのか?いくらだ?」
「いえ、いりません。さよなら!」
「あ……。なぜ、どうして……おいそこの女!」
「すみません私も無理ですー!」
こちらはかなり苦戦していた。
◇◇◇
その日はやってきてしまった。
「誰とも組めなかった……」
「エア様、私がいます」
「アリアはもともと僕のものなんだから、組んでるんじゃない」
「はい」
地下迷宮での演習が始まった。