従者アリア
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サイ・レボルグ
■称号
オーガキラー
■スキル
ファイアーボールLv6
プロテクションLv2
超越Lv5
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サイの目の前に、薄く青い光の文字が浮かぶ。
ステータスと呼ばれるもので、他者には見えない。
自身のステータスを眺めてにやけるのが、サイの日課だ。
隣の席の女子が、にやけているサイを見て引いている。
「では次、アリアさん」
ぎくっ
「アリア・シグナレスです。エア様の従者です」
パチパチパチ
(マジかよおい!)
「おい、あの子可愛くね?」
隣の男子が話しかけてくる。
「ああ、そうだな」
出来るだけアリアから顔を背けつつ、サイは心ここに在らずな様子で答える。
(なんであの女が同じクラスに!)
冷や汗が止まらない。
背中を丸めて縮こまっていると、肩を叩かれる。
びくっと震えて振り向くと、隣の男子だった。
「次、お前だけど?」
(ここで俺かよ!)
サイは静かに立ち上がり、早口で自己紹介を始める。
「サイレボルグです得意スキルはファイアーボールですよろしくお願いします」
………パチパチパチ
声が小さすぎて皆聞き取れなかったようだが、自己紹介が終わったのを察し、まばらに拍手がおこる。
「お前声小さすぎだろ。全然聞こえないぞ」
(うるせーよ!)
サイはぎこちない愛想笑いを浮かべた。
この男子、好きになれそうにない。
◇◇◇
モンスターは、強さによってランクが決められる。
ランクはFからSまであり、その中でもBから上は別格とされる。
「えー、お前らには一人ずつあのスライムを倒してもらうからな。ランクFだから問題ないだろ」
場所は校庭。
不気味な大きな箱には、束縛系スキルをかけられたスライムが詰められている。
教師がそこからスライムを一匹取りだし、生徒達の方へ放り投げる。
「解除」
束縛系スキルが解かれる。
「じゃあそこの奴から」
「は、はい!」
指名された男子は、剣を構えてにじり寄る。
スライムは、半透明の赤いプルプルした体を縮ませ、反動をつけて男子へ跳ぶ。
「うわ!」
男子は剣を大振りに振るが、空振ってしまう。
スライムは男子の胸部に激突し、男子は吐血しながら体を浮かせる。
「大丈夫か!」
見守る生徒達から声があがる。
男子は答える余裕もないようで、左手で胸部を押さえながら、スライムを睨み付ける。
「こんのぉ!」
先程とは速度の違う、力のこもった剣だったが、スライムは後ろに跳んで避ける。
次の瞬間、再び男子の胸部にスライムが跳ぶ。
鈍い音をたて、再び男子の体が浮き上がる。
スライムは地面に落ちると、少々男子から距離をとる。
「ごふっ……がっ!」
男子は喀血しながらうずくまる。
もはや戦えまい。
「こいつランクFなんだけどなぁ………おーい、手は出さないぞー」
教師の無慈悲な宣告。
男子は口から血を垂れ流しながら立ち上がる。
「俺は……俺は、諦める訳には、いかないんだあああ!!」
その目には、強固な意志が宿っていた。
「あいつ、どこにそんな力が!」
「やめるんだ!体がもたない!」
「そんな、無茶だ!」
生徒達の注目を一身に受け、彼は疾駆する。
対するスライムは自らの頭上に炎の玉を生み出し、彼に撃ち出す。
男子は、ピンポン玉程度のゆらゆらと飛んでくる炎の玉を、サイドステップで華麗に避ける。
だが、待ち受けていた炎の玉は一つだけではなかった。
新たに二つの、直径一センチメートル程度の炎の玉がゆらゆらと飛んでくる。
「ふっ!はあ!」
彼はそれらを体を沈ませることで見事に避けきり、スライムへ駆ける。
「はあぁ!喰らえ、【スラッシュ】!」
銀線が煌めく。
スライムの体は真っ二つに分かたれ、光になって消滅する。
「あいつ、とうとうやりやがった!」
「本当に、いいもん見せてくれたぜ!」
「ああ、諦めないことの大切さを学んだぜ……」
――かくして彼は、ランクF、レッドスライムを見事倒してみせた。
「えー、はい、次の人ー」
◇◇◇
(ぼ、僕は貴族だぞ!こんなモンスターは恐るるに足らん!)
エアは震える脚をゆっくりと前へ進ませる。
対するイエロースライムは、プルプルと震えている。
(アリアさえいれば、こんなモンスター、すぐに倒してくれるのに!)
スライムが体を縮ませる。
これは反動で跳んでくる前兆なので、エアは恐怖で固まる。
予想通りスライムが跳んでくる。
かなりの速度なので、直撃したらそれなりのダメージを受けるだろう。
恐怖のあまり目を瞑っていたエアは、そっと目を開く。
スライムが見当たらないので、キョロキョロと見渡すと、後ろで光になって消えていく、真っ二つになったスライムが見えた。
「はーっは!こんな雑魚、僕の敵じゃないね!」
エアは意気揚々と皆の元に戻る。
エアを見る皆の目は冷たい。
◇◇◇
「――そこで僕は、類稀な動体視力でスライムの動きを完全に把握し、たったの一撃で真っ二つにしたわけよ」
ネアレシス家の屋敷。
エアはシルヴィア相手に学園初日の武勇伝を滔々と語っていた。
シルヴィアは適当に相槌をうちながら紅茶を嗜んでいる。
だだっ広い部屋には丸いテーブルが置いてあり、そこで向き合うように座っている。
部屋の隅には使用人が静かに立っている。
「兄様」
シルヴィアがカップを置く。
音はたたない。
「なんだシルヴィア?紅茶が不味かったか?」
「いえ、そろそろ剣の稽古の時間では?」
「………あー、はいはい」
「では、ご機嫌よう」
シルヴィアは少し嬉しそうに口許を綻ばせ、嫋やかに手を振る。
「……また後で」
エアは未練がましく部屋を出る。
扉を閉める前にシルヴィアを見るが、彼女は既に視線を外していた。
扉をゆっくりと閉めると、使用人が寄ってくる。
「エア様、こちら、木刀です」
「……ちっ」
エアは心底嫌そうに差し出された木刀を受けとる。
使い古された木刀は、ぼろぼろになっている。
「おいそこのメイド!新しい木刀はないのか!」
「すみません。ありません」
「ちっ、使えないメイドめ」
舌打ちするエアに、苦笑するメイド。
そのメイドに同情の眼差しを向ける使用人。
庭へ出ると、剣の師が待っていた。
立ち姿からして隙がなく、只者でないことが窺える。
「エア様、学園はどうでした?」
「平民共ばかりで、正直僕のいるべき場所じゃない」
「………そうですか」
剣の師は一瞬悲しそうな表情をするが、それはなにか諦めの混じったものに変化する。
「長年教えてきたことを、何も理解していない。もう手遅れのようです。すみませんエア様。私は今日にてお暇をいただくことにします」
「そうか、それはご苦労さん。今までありがとな」
「いえ、では当主様と話をして参ります」
「おう」
剣の師はエアの横を通り過ぎる。
彼は一度も振り返ることなく、扉の向こうに消えていった。
エアは剣の稽古の時間が無くなったことを嬉しく思っていた。
「アリア、出掛けよう」
「はい、エア様」
◇◇◇
町に繰り出したエアは、例の如くアリアを侍らせ、道の中央を闊歩する。
道行く人々を見る目は、まるでゴミを見るかのよう。
その綺羅びやかな服装と、傲慢な態度から、自然と周りはエアを避けていく。
「アリア」
「はい」
「もうちょっと近くを歩いてくれ」
「はい」
学園ではアリアと離れ離れなので、アリアが恋しくなったエアである。
と、そこへ。
「やーい!逃げろ逃げろー!」
「くそ、まてー!」
幼い少年二人が走ってきた。
無邪気な笑顔を振り撒き、楽しそうに走ってくる。
前を走る少年は前を見ておらず、避けようともしないエアにぶつかる。
少年は反動で倒れ、尻餅をつく。
エアは優しく片手を差し出す。
「ねえ、貴族の僕の服によごれをつけたよね?」
「あ、す、すいません!」
少年は掴もうとした手を戻し、その場で土下座をする。
後ろの少年は、ぼうっと立っている。
「あはは、もうちょっと誠意を見せてよ。もっと頭を地面にこすりつけて」
エアは少年の頭を踏みつけ、ぐりぐりと地面に押し付ける。
周りは、関わってはいけないと彼らから距離を置く。
「え、あの……」
後ろの少年はおろおろとし、他の皆に混じり、下がっていく。
衆人環視のなか、頭を踏みつけられ、友達からも見捨てられた少年は、悔しそうに涙を流す。
そのエアの肩を掴む者がいた。
「君、その辺にしときな」
赤毛の美女だった。
首だけ振り返ったエアは数秒見惚れるが、我に返ると、その手を振り払う。
「僕に触るな、平民」
「うん?私の身成を見て気が付かないかな?私も貴族だよ」
途端、エアは弾かれたように少年から足をどかし、美女に向き直る。
「はは、分かりやすくゲスだね」
美女は苦笑しながら少年の頭についた汚れを払い、立たせる。
エアは苦々しく顔を歪ませ、美女に食って掛かる。
「お前、誰も連れていないじゃないか。本当は貴族なんて嘘だろう?」
「はは、そう思うんならそれでいいよ」
「はっ!平民が貴族を名乗るとは!身の程を弁えろ!」
エアは愉快に笑う。
それを見て美女も意味深に笑う。
野次馬が集まっているが、エアが剣を抜いたことで、散り散りに去っていく。
「お前見た目だけは良いな。僕のメイドになれ。さもなくば……」
「さもなくば何かな?本当にろくでもない貴族がいたものだね」
態度の変わらない美女に苛立つエアは、従者の少女に命令を下す。
「アリア!この女をちょっとでいいから痛めつけろ!」
「はい、エア様」
紫髪の少女の姿が残像を残して消える。
次の瞬間、美女がその拳を掴んでいた。
アリアは目を見張る。
「ば、馬鹿な……。アリアは戦闘訓練を受けた、エリートメイドだぞ……」
「め、メイドではありません、エア様」
露骨に動揺するエアと、動揺が隠しきれていないアリア。
美女は溜め息をつき、その手を放す。
アリアはエアの前に下がる。
「そうやって暴力に頼っているのは、大抵雑魚ばかりなんだよ。分かるかな?」
「ふん!たかがまぐれでアリアの攻撃を防いだ程度で、図に乗るなよ!」
「君みたいな貴族には、きちんと現実を教えておいた方が良さそうだね」
美女はどこから取り出したのか、木刀をエアに投げ渡す。
「な、なんだ?」
「決闘をしよう。君が負けたら、今後はこのようなことはやめてもらうよ」
「ああ、いいだろう。ただし、こっちが勝ったら、お前は僕のメイドだ!」
エアは木刀をアリアへ渡す。
「え、君がやるんだよ。剣の稽古は受けているでしょ?」
「何を言ってるんだこの女は……。アリアは僕のものなんだから、アリアが決闘をするのは当然のことだ」
「その通りです、エア様」
「……本当にどうしようもない。まあいいよ。どちらにしろ、結果は変わらない」
「ああ、お前は僕のメイドだ!」
場所を変え、二人の女性が対峙する。
「やっちゃえアリア!戦闘訓練の成果を見せてやれ!」
「はい」
「それじゃあ始めよう」
決闘が始まった。
同時に、美女が横に吹き飛ぶ。
「くはっ!」
美女は大きく目を見張る。
何が起こったのか分からないといった様子。
「防がれましたか……。やはり只者ではありませんね」
アリアは剣を振り抜いた姿勢のまま、横目で美女を見据える。
アリアがゆっくりと姿勢を戻し、その姿がぶれると同時に、美女が再び吹き飛ぶ。
爆発音と共に砂塵が舞う。
砂塵が晴れると、美女の目付きが変わっていた。
まるで獅子の如き威圧だ。
「…………」
美女は何も喋らない。
次の瞬間、無数の剣戟が鳴り響く。
一瞬のうちに何があったのか、二人ともぼろぼろになっている。
「なっ!アリア!」
エアの声も耳に入らないようで、アリアは美女を鋭い目付きで睨む。
対する美女の視線もまるで刃のよう。
再びの無数の剣戟。
風圧で砂塵が荒れ狂う。
この一瞬で、二人は更にぼろぼろになる。
「ま、待て!これは引き分けだ!」
ここでエアが止めに入る。
二人の間に入るなどと危険なことはせず、遠くから声を張り上げている。
二人の様子が元に戻る。
「………うん。引き分け……だね」
「分かりました、エア様」
美女は何やらぼうっとしながら答え、アリアは静かに受諾する。
「行くぞ、アリア!……肩貸そうか?」
「いえ、大丈夫です。……ありがとうございます」
エアはアリアを気遣い、幾つかのポーションを飲ませ、アリアに肩を貸す。
「くっ!アリアと引き分け……そんな馬鹿な……アリアは戦闘訓練を受けたエリートメイドのに……」
「メイドではありません」
エアはぶつぶつと呟きながら去っていく。
アリアもそれについていく。
その場には、美女一人が残る。
ひゅーひゅーと風が吹き、美女の髪を揺らす。
「は、はは……」
美女は乾いた笑いを浮かべた。
(……………私、剣聖なんだけど?)
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ジャンヌ・アルトリウス
■称号
剣の頂
■スキル
フライLv20
アクセラレータLv52
ファイアーボールLv15
スターダストΣ
ブレイブソードLv43
騎核武装(コード:ヴァルキュリアクイーン)
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ジャンヌ・アルトリウス。
この世に知らぬ者はいないとまで言われる、世界最強の剣士がそこにいた。