入学
歩き方、服の着こなし、あらゆる動作がチャラチャラとした印象を与える集団がいた。
女一人に、男五人。
無駄に広がっている為、道の殆どを塞いでいる。
通行人は彼らと目を合わせないように速足でその狭い道を通る。
そんな所に、エアはやってきた。
「おい、貴族の僕が通るぞ。そこをどけ」
「はぁ?」
「んあ?」
「死ね」
集団は貴族の少年に鋭い眼光を飛ばす。
「な、なんだよ……。退かないなら、力ずくで退かすぞ!」
エアは狼狽え、従者の少女の後ろに隠れながら言う。
集団はそれを見て、どっと笑う。
「マジか、女の背に隠れて何言ってんだか」
「やべえ、めっちゃヘタレだ」
「ようよう坊っちゃん、おうち帰ろうねー?」
バカにされたエアはかっとなり、即座にアリアに指示を飛ばす。
「アリア!こんな奴らボッコボコにしてしまえ!」
「はい。エア様」
従者の少女は肩まで伸ばした淡い紫色の髪を揺らし、一歩踏み出す。
対する集団は、リーダー格の男子が進み出る。
「サイがいくの?アタシが行きたかったなー」
「ユキは今度な」
「はいはい」
集団唯一の女性である茶髪の少女との話を終え、リーダー格の男子、サイはアリアに向き直る。
がたいの大きいサイがエアを睨むと、エアは取り乱し、威勢を張る。
「う、うちのアリアは強いんだぞ!本当だぞ!なんたって、戦闘訓練を受けた、エリートメイドなんだからな!」
「メイドではあひません、エア様」
「女に守ってもらうのか?恥ずかしくねーの?」
「アリアは僕のものだ!だから、アリアの力も僕の力なんだよ!」
「その通りです。エア様」
「何言ってんのか分かんねーけど、何が言いてーの?」
「だ、だから、謝ってそこをどいてくれれば怪我はさせない……ぞ!」
尻すぼみになってきたが、最後はきちんと威勢を張った。
「ああ?なに言ってんの?そっちが土下座すんだよ。ついでに金も寄越せ」
「ぼ、僕をバカにしたな!アリア!やってしまえ!」
「はい」
アリアが神速でサイの胸部に回し蹴りをぶちこむ。
「え速、ぐああ!」
サイは数回地面にバウンドし、ピクピクと痙攣する。
「ちっ、逃げるよみんな」
茶髪の少女が集団を引き連れ去っていく。
エアはふんぞり返って言う。
「ふ、ふん!どうだ!これが僕のアリアの力だ!」
「ええ。どうぞ私を好きにお使いください」
少女は少し頬を染めてエアの後ろに控えた。
◇◇◇
モンスター討伐や、危険な場所にある薬草の収集、護衛など、様々な活動を通して収入を得る、冒険者という職業がある。
危険だがそれなりに収入は高く、また一種のステータスとして憧れを持たれる職業。
優秀な冒険者は王国に騎士としてスカウトされたり、有力貴族の護衛として雇われる。これぞ冒険者の成り上がりロードだ。
騎士になりたいがため、わざわざ冒険者になる貴族までいる。
また最近では、人生経験として子を一度冒険者にさせることが、貴族の嗜みとなっている。
そんな冒険者を育成する為に設立された学園の一つ、王立アインツ学園。
「新入生代表、シルヴィア・ネアレシス」
「はい」
カールのかかった輝かしい金髪を揺らしながら、美貌の少女が壇上に上がる。
皆が感嘆の溜め息を洩らす。
(僕の妹に見惚れるな!シルヴィアは僕だけの妹なんだ!)
エアは面白くない。
流麗な式辞を述べる妹を、恨みがましく見つめる。
入学式は流れるように終わり、それぞれのクラスへ案内される。
エアの席は真ん中だった。
「俺は担任のタルだ。じゃあ早速自己紹介から始めよう」
◇◇◇
「エア・ネアレシスです。貴族です!よろしくお願いします」
パチパチパチ
貴族だと言っても、皆の態度は変わらない。
ここでは貴族はざらにいるし、平民も貴族も皆平等に扱われる。
(どうして僕がこんなところに来なくちゃいけないんだ!お父様!お母様!)
エアは音をたてて椅子に座り、続いて隣の生徒が立ち上がる。
「ユキ・ハルシュトです。好きなタイプは笑顔が素敵な男性です。よろしくお願いします」
パチパチパチ
先日会った、茶髪の少女だった。
(ヤバイヤバイヤバイ!どうして昨日の奴がこんなとこに!)
エアは慌てて目をそらす。
「よろしく、エア君」
席に座った茶髪の少女、ユキは、エアに手を差し出す。
「よ、よろしく」
エアは顔を背けながらその手を取る。
グリグリグリ
(いやーー!!手がぁぁ!!もげるぅぅ!!)
エアの顔が悲痛に歪む。
無様に涙や鼻水を垂れ流しているので、別の意味で顔を戻せない。
エアの、ユキとは逆側の席に座っている女子は、そのエアの顔を驚愕の表情で見ている。
手を解放される。
(くそぅ!覚えてろよ!)
エアはハンカチで涙や鼻水を拭う。
そして振り返ってユキを睨み付けるが、目が合ったとたんに逸らす。
ユキの口角が再びつり上がる。