遠い君にも愛を
君を捕まえたの続編です。
「嫌だ。嫌だ。嫌だ。いやだ。いやだ。いやだ。いやだー!」
背の高い男、秀吉はブツブツと呟きながら、酒を流し込んだ。
「ちょっと、飲みすぎないでよ?」
秀吉の隣にいるのは、秀吉が愛してやまない恋人である実だ。
実は呆れたように、秀吉に声をかけた。
「だって、1ヶ月も出張なんだぜ?愛しい実に会えないとか、干からびるー!しかも、実の誕生日の前日までだぜ!?」
秀吉は駄々をこねるように実の腰に抱きついた。
その様子を見ていた実は、内心悶えていた。
「(かわいい。凄くかわいい。今すぐ抱き締めたい。)」
実の内心には気付かずに、秀吉は実の腰に抱きついたまま眠ってしまったようだ。
実は、その寝顔を見て頬を指でつついて秀吉が起きない事を確認すると、
「秀吉だけが寂しいんじゃないんだからね?出張から帰ってきたら甘やかしてね?」
実は秀吉の寝顔を見ながら、拗ねた様に呟いた。
そして、出張日当日。
「今日は、快晴。出張日和!」
と言う実に対し、秀吉は未だ愚図っていた。
そんな秀吉を電車に突っ込み実はホッと一息ついた。
「頑張ってくるからなーーー!!!」
実は苦笑しながら、
「うん。待ってる。」
呟いたその声は小さすぎて、誰にも聞こえなかった。
そして、もうそろそろ秀吉が帰ってくるという頃、実は困っていた。上司からやたらと身体を触られるようになったのだ。
そして、それを……秀吉には言えていなかった。
「(嫌だけど、自意識過剰っていわれるかもしれないし……早く秀吉に会いたい。)」
一方、秀吉は部下のミスによって仕事が佳境を迎えていた。
「(畜生!なんでこんな時に限ってこんなことに!!)おら!ちゃっちゃとやりやがれ!!」
そして、秀吉の仕事が終わったのか分からないまま、実は誕生日を迎えた。
「今年は、もう……無理かな。」
電話すらつながらない事に、実は溜め息をこぼした。
実は頭を振って、嫌な事を頭から追い出すと
「今日も1日頑張ろう!そして、夜に電話をして声だけでも聞こう!!」
そして、仕事が終わり帰り支度をしていた実に、例の上司が近づいてきた。
「斉藤、誕生日おめでとう!今夜一緒に食事でもどうだ?」
実は身体を少し引いて、
「いえ、今夜は恋人に祝って貰えるので。すみません。」
そうして、断る実に上司から言われたのは、
「恋人って、前田だろ?前田は俺が命令して部下にミスさせたから、今日には間に合わないぞ。」
「なっ!!?」
実は驚き、そして怒りを覚えた。
その怒りのままに
「貴方は、何をしたか分かっているんですか!?最低です!!」
と怒鳴った。
「ハッハッハ!誰にもばれやしないさ。」
余裕な態度で嗤う上司に、実は
「僕が言います。貴方が故意にミスをさせた事を!」
それでも、上司は笑みを絶やさない。
実は少し冷静になると、周りの異常性に気付いた。
これだけ、叫んでも誰も来ないのだ。
実が不思議に思っていると、上司にうでを掴まれた。
実は初めから謀られていた事に気付いた。
「やめろ!僕に触れるな!」
抵抗しても体格は上司のほうが大きく、力で勝てない。
「お前には、最初から目をつけていたんだ。小さくて華奢な身体、可愛い顔。いつも抱きたいと思っていたんだ。」
実は激しく抵抗した。殴る、蹴るは勿論、言葉でも、自分の全てで抵抗した。
「僕は秀吉の物だ!触るな!触るなよ!!」
必死に抵抗しても徐々に服を剥がされていく。
実の目が絶望に染まっていくと、突然身体にかかっていた重みが消えた。
不思議に思っていると、やはり突然抱きしめられる。
この匂いは秀吉の。
そう感じた瞬間、実は秀吉にすがりついて泣いていた。
泣きつかれると、目を真っ赤に腫らしながら
「仕事は?どうしてここにいるの?」
と、実は秀吉に問いた。
秀吉は、ばつの悪そうな顔をして
「アイツは前から怪しくてな。セクハラやら横領やらな。今回の出張は嘘だ。上に言われて、影でアイツの動向を探ってた。
証拠も揃ったし、アイツは逮捕される。
あとお前が仕事する姿はモニター室で見てたぞ。
それに、アイツがお前をねらってるのはわかってたからな。
この機会に、何か仕掛けてくるんじゃないかって思ってた。
本当はもうちょっと待つ事になってたんだが、我慢できずに出てきちまった。つーか、実も電話できちんと言ってくれよ。まったく繋がらなかった訳じゃないだろ?」
「ご、ごめん。心配させたくなくて。というか、え?じゃあ、なんであんなに愚図ってたの?あと、アイツは部下にミスさせたって言ってたけど?」
秀吉は照れながら、
「言っただろ?お前に会えないのが嫌だって。生で見るのと、モニターでじゃ天と地ほどの差があるんだよ。その部下も協力者だ。ミスしたってのはアイツにデマを聞かせたんだ。」
その実を愛していると行動や言葉を示す秀吉に、漸く実はホッと息をついて、安心したように秀吉の首もとに頬をすりよせた。
そして、実の耳元に秀吉は囁く。
「ハッピーバースデー!俺の愛しい実。来年もその先もずっと、ずうっと愛してる。さあ、帰ってケーキ食って、そしたら……思いっきり可愛がってやるよ。」
「!!?……………ううう。」
実はその言葉に照れたが、実も秀吉が出張から帰ってきたら甘やかして貰おうと思っていた事を思い出し、腕の力を強くした。